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18.自己紹介


「さあ、入って。レティシア嬢、久しぶりだね」

「――殿下、ありがとうございます」


 ダミアンの笑顔に気を取られてぼうっとしていた私に、アクセル様がお声をかけてくださった。

 昨日こっそりダミアンとの会話を聞いてしまった私は、きちんとした挨拶を返すこともできずに軽く膝を折ってお礼を言ってから室内に入る。

 未だに稲妻が光り、雷鳴が轟く中、ダミアンが閉めたらしいドアの音を聞いて、急に息苦しく感じてしまった。


「レティシア、王宮での暮らしはどうだ?」

「お兄様……」


 なぜここで無茶ぶりをするの?

 存在しない既成事実を思い出してしまったじゃない。

 何て答えればいいのかわからない私の代わりに、ダミアンが勝手に答える。


「楽しくやっているよ。そうだよね、レティシア?」

「――ええ、そうですね。お兄様も突然のことで驚かれたでしょう?」

「そりゃそうだよ。まさかお前の部屋の家具まで運び出すなんて思ってもいなかったからな」


 ダミアンに負けないよう、頑張って笑顔を張り付けてエルマンお兄様に質問する。

 どうやらエルマンも今度のことは知らなかったみたいで、表情をじっと窺っていても嘘はない。


「私も驚いたんです。まさかダミアン様がそこまでしてくださるなんて……。クレールや皆は元気にしていますか?」

「ああ、こちらのことは心配ない。だが、クレールはかなり忙しかったようだな」

「クレールは侍女というより、姉のような存在ですから。できればクレールだけでも傍にいてくれたら、心強いのですが……」


 これは本音。

 アウェイな王宮で、せめてクレールがいてくれたらどれだけ心強いか。

 今まで口うるさいとか思ってごめん。


「それじゃ、侯爵家が許可するなら、そのクレールとやらを王宮に呼び寄せればいいじゃないか。なあ、ダミアン?」

「――ああ、もちろん」

「ありがとうございます、アクセル様。ダミアン様」


 素敵なアクセル様の援護射撃を受けて、ダミアンも認めざるを得なかったみたい。

 よし。これで少しは王宮での生活も楽になる。……はず。

 心の中でガッツポーズをしていたら、ジャンが豪快に笑って会話に入ってきた。


「ダミアンが独占欲が強いなんて意外だったな。それで、いい加減に俺たちを紹介してほしいんだが?」

「ああ、そうだったね。すまない、ジャン」


 私は身長体重、趣味から好きな食べ物、家族構成も知っているけど、ジャンとアントニーとはレティシアは面識がないもんね。

 もちろん、ジャンは有名だからレティシアも知っていたようだけれど、ここはきちんと紹介を受けないと。


「ダミアンには紹介するまでもないが、こいつはベンティ伯爵家のジャンだ。レティシア嬢、ジャンは体が大きくて暑苦しいが、性格はもっと暑苦しいんだ。だが、悪い奴じゃないので仲良くしてやってほしい」

「おい、アクセル。その紹介は酷すぎるぞ」

「だが、事実だ。なあ?」


 アクセル様がジャンを紹介してくださったけれど、なんてお茶目なの。

 ジャンも文句を言いながらも笑っている。

 しかもアクセル様が皆に同意を求めたら、ダミアンもエルマンもアントニーまでうんうんと頷くなんて。


(尊い……! この場に立ち会えた奇跡に感謝!)


 この瞬間に立ち会えただけで、悪魔なダミアンの婚約者になったことも我慢できる。

 これからも何度もこんな場面を見ることができるなら、最終的に殺されてもいい。

 そう思えるほどの尊さに今度は過呼吸になりそうで息が苦しくなってきた。

 頑張れ、私。生きろ。


「それじゃ、レティシアは私から紹介するよ。――と紹介するまでもないが、私の婚約者のレティシアだ」

「――よろしくお願いいたします。レティシア・ドゥ・カラベッタです。皆様、これからは生徒会業務をご一緒するのですから、どうぞ私のことはレティシアとお呼びくださいませ」

「おい――」

「いい案だ。それでは、生徒会のみんなはお互い名前で呼び合おう」


 ダミアンの我が物顔の紹介に腹が立つんですけど!

 というわけで、意趣返しに挨拶すると、何か言いかけたダミアンを遮って、アクセル様が素敵な提案をしてくださった。

 確かに、敬称なしで気軽に呼べるほうが私も助かる。さすがアクセル様。


「それでは、遠慮なく。よろしく、レティシア嬢。ジャンだ。それから、こいつは私が庶務に推薦したアントニー・バックス。速筆なのに、とても綺麗な字を書くんだ」

「よろしくお願いいたします……レティシア嬢。同じ庶務同士、一緒に仕事することも多いかと思いますが、足を引っ張らないよう頑張ります」

「よろしく、アントニーさん。私のほうが足手まといになってしまうと思うけれど、精一杯頑張りますわ」


 ジャンのアントニーの紹介は微妙だったけれど、身分的に仕方ないのかも。

 みんなは確か、本当の身分を知らないもんね。

 だからアントニーは私を遠慮がちに呼びながらも、ずいぶん丁寧な話し方だった。


 エルマンに関しては自己紹介するまでもなく、どうやら私以外ではアントニーもみんなと顔見知りだったようで、初めの挨拶はここで終了。

 そのまま生徒会業務――これからの方針などの話し合いが始まった。

 今朝は庶務を辞退するつもりだったのに、今ではウキウキ気分で参加している。

 だって、目の前で推しの働く姿が見られるんだもん。

 会議を進行する生徒会長のアクセル様が素敵すぎてヤバい。

 やっぱり昨日のあの会話は何かの間違いだったんじゃないかな。

 



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