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13.模様替え


「――どう? 面白かっただろう?」

「本当にダミアン様は底意地の悪い人ですね」

「それ、さっきも聞いたよ」

「先ほども言いましたから」


 アクセル様が部屋から出て行ってしばらくして、クローゼットを開けたダミアンの第一声がやっぱり最低だった。

 だから心のままに答えれば、ダミアンは楽しそうに笑う。――本当に。


「怒っているの?」

「怒りを通り越して、呆れています」

「僕に? それともアクセル?」

「自分にです」

「へえ?」


 そうだよ。もしここが本当に『王子様♡』の世界だとしても、プレイしていたのはヒロイン視点でしかない。

 だからアクセル様や他の攻略対象が実際には何を考えていたかなんてわからないんだよ。

 彼らの一面しか見ていなくて、恋していた自分がバカみたい。

 そりゃ、ゲームの登場人物相手に一面性だの二面性だの考えるほうがバカなのかもしれないけど、今の私はこの世界に生きているんだから、アクセル様たちだって同じように生きているのは当たり前で。


「それじゃあ、アクセルのことはもう好きじゃない?」

「それとこれとは別です。心なんて簡単に切り替わるものじゃないですから」


 がっかりしたのは本音だけれど、アクセル様のことをもう好きじゃないかと訊かれると、イエスとは言えない。

 複雑ではあるけれど、長年恋していた相手なんだよ。

 って、まさか……。


「ダミアン様は私の心も手に入れたいとおっしゃっていましたけれど、それであのような会話を聞かせたのですか?」

「まずはアクセルの本音を知ってほしかっただけだよ。面白いやつだろう?」

「面白い内容ではなかったですね」

「それは残念」


 私の言葉にダミアンはちょっとしょげたように見える。

 まるで大型犬のようで可愛いけれど、騙されたりなんてしない。


「そのようなお顔をなさる必要はありません。ダミアン様が残念だと思っていらっしゃらないことはわかっていますから」

「言うねえ」

「違いましたか?」

「正解」


 だろうね。知ってた。

 ダミアンの性格が終わってることは最初から知っているから、ショックを受けたりしない。

 意外なのは、今の私の言葉に怒った様子はなくて、面白いものを見たとでもいうように笑っていること。

 これはあの悪意ある笑顔じゃない。

 はいはい。『おもしれー女』ですね。


 あれ?

 そういえば、この笑顔はダミアンルートでヒロインにたまに見せていたな。

 それがダミアン人気の秘訣というか、普段の無感動な笑顔とのギャップに射止められてしまったプレイヤーが多かったんだよ。


 ギャップはいい。それは認める。

 だけど、アクセル様のギャップは知りたくなかった。

 ギャップというか、本音?

 正義感が強く生真面目なところに変わりはないようだけど、会話を聞いた印象では生真面目なクズ。

 違うな。女性の敵?

 正義を貫くためには利用できるものは何でもするって感じで、それを悪いことだとは思ってもいないようだった。


 それって一番厄介なクズじゃない? 自覚ないんだもん。

 このままヒロインが現れたとして、アクセル様ルートを静観していていいのか悩む。

 だって、監禁とか何とか言ってたよね? 冗談だろうけど。はは。


 だからといって、他ルート――攻略対象が私の知るゲームキャラのままとは限らないんだよね。

 騎士団長の息子であるジャンに、宰相息子……私のお兄様のエルマンも、悪い意味でギャップがあるかもしれない。

 とはいえ、エルマンは私の知る限り、知性的でとても優しいお兄様なんだけど。

 従者のアントニーに至っては、ヒロインが現れないことにはどこにいるのかもわからない。


「さて、それでは明日の準備があるだろうから、僕はこれで失礼するよ」

「ありがとうございました」

「それじゃ、明日は一緒に登校しよう」

「ありがとうございます」


 またまた感謝botになった私を笑いながら、ダミアンは客間のドアを開けてくれた。

 私は部屋へと一歩入ったけどすぐに振り返り、その後ろ姿を見送る。

 そして改めて部屋の中へと向き直って愕然としてしまった。

 なぜなら客間が――先ほどまで二日間過ごしていた客間の内装が変わっていたから。

 まさかカラベッタ侯爵家の私の部屋と同じ内装になっているとは思わないよ。

 しかもこの短時間で。


 膝から崩れ落ちそうになるのをどうにか堪え、ふらふらと歩いてソファに腰を下ろしてお気に入りのクッションを抱きしめる。

 匂いも手触りも同じ。

 これは間違いなく、我が家から持ってきたもの。


「信じられない……」


 私の帰る場所がなくなってしまった?

 お父様たちをどう言いくるめたのかわからないけれど、制約魔法を使わなくてもこれじゃこの部屋に帰ってくるしかないじゃない。

 しかもヒロインが現れたら、私は捨てられるかもしれないのに。

 ありもしない既成事実が世間に広まってしまっている以上は、この世界観ではもうまともな結婚相手はいないはず。

 それどころか、本当に監禁ルートか、邪魔になって存在を消されてしまうかも。


 って、そうか。だからレティシアなんて存在が『王子様♡』には出てこなかったんだ。

 だけど今の(晴乃)はおとなしく監禁されずに、学園に通いたいとダミアンに訴えた。――と言うには弱気だったけど。

 それでダミアンは『おもしれー女』な私に少しの自由を与えてくれたから、(婚約者)の存在が明らかになったのかもしれない。


 こうなればやっぱりヒロインのダミアンルートだけは潰さなければ。

 さらにダミアンの悪事とは無関係だってことも示さなければいけないってこと。

 ということは、アクセル様とダミアンもまだ見つけていない《サント・クリスタル》の力の持ち主――聖女を私が先に見つければ、かなり優位に立てるんじゃない?




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