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12.推しがクズとな


 ダミアンと話している人物、それがアクセル様で私は大歓喜。

 だけどそれを外の二人に悟られるわけにはいかなくて、口を押えて叫びを抑える。


「たまには気分転換も必要かと思ってね」

「レティシア嬢はどうした? 先ほどまで一緒にこの辺を歩いていたんだろう?」

「さすが耳が早いな。彼女には部屋に帰ってもらったよ。明日からは学園にまた通うことになったからね。迷わないようにここを案内していただけだ」

「そうか。部屋から出す気になったのならよかった。思ったより早くて安心したよ」

「まあね」


 どうやらアクセル様とダミアンはクローゼット近くのソファに腰を下ろしたみたいで、声がよく聞こえる。

 面白いものを聞かせてやるって、まさかこんなご褒美がダミアンからもらえるなんて。


 いや、早まるな。

 ダミアンは私がアクセル様をお慕いしていることを知っていての所業。

 ということは、何か罠があるはず。

 まさか、この二日間の私のことをあることないこと吹き込むつもりでは?

 そうなったら、後がどうなろうと私はここを飛び出してダミアンの首を絞めてしまうと思う。

 そんな行動を取らなくてすむように、どきどきしながら二人の会話に耳を澄ませた。


「それで、本当にレティシア嬢に手を出したのか?」

「さあ、どうかな?」

「相変わらず食えないやつだな。皆が狙っていたレティシア嬢と婚約するだけでなく、既成事実まで作るとはな。真偽はともかく」


 んんん?

 今、話しているのはアクセル様だよね?

 何ていうか、私への監禁とダミアンの企みを知っていて見逃しているように聞こえるんですけど。


「真偽はどうでもいいだろう? レティシアが――カラベッタ侯爵令嬢が僕のものになったと世間が認めればいいんだから」

「策士め。レティシア嬢は私も狙っていたのに」


 んんんん? 


 今、何とおっしゃいました?

 アクセル様が私を狙っていたと?

 嘘でしょう? カリナ様は?


「レティシアほど条件のいい花嫁は同世代にはいないからな。亡くなったカリナ嬢以外には」

「カリナ嬢は後ろ盾も申し分なく、かなりの財産を受け継いでいたからな。さらには社交できる程度には明るく、出しゃばるような性格でもなく、頭もよかった。まさかあんなに突然……亡くなるとは残念だよ」

「少しは悲しそうにしたらどうだ?」

「悲しくはあったよ。でもあれから何年経っていると思っているんだ? ほどよく時期を置いてからレティシア嬢に求婚しようと思っていたのに、まさかダミアンに先を越されるとはな」


 まさかまさかのアクセル様もカリナ様のことを条件でしか見ていらっしゃらなかったの?

 信じられない。本当に今話しているのはアクセル様なの?

 覗いて確かめたいけれど、それをしてしまうと私の存在がバレてしまう。


「お前が世間の同情を買うためにもたもたしていたからだろう? おかげで学園内での婚約成立率も低くなって、由々しき事態だとカラベッタ侯爵に訴えることができたのだから、僕は感謝しているよ」

「酷い言い方だな。友人の不幸を喜ぶべきではないだろう」

「不幸でも何でもないだろ? お前だって、別にレティシア嬢が好きなわけじゃない」

「好きではなくても必要とはしていた」

「お前こそ性根が悪いじゃないか」

「そんなものだろう? 私たちは政略結婚が常だ。だとすれば、いかに自分に有利な相手を得ることができるかが勝負だ」


 最低だ。こんな話、面白くもなんともない。

 そりゃ、もちろんアクセル様のおっしゃる通り、政略結婚は私たち貴族令嬢だって避けられないもので、いかに実家に有利に運べるかが結婚相手の条件になるけど。

 それでも、せめて夢を見させてくれても――アクセル様たちだって、夢を見てもいいんじゃないの?


「それで、《サント・クリスタル》の力を持った目ぼしい者は――聖女は現れたのか?」

「さあ、まだわからないな。予言では今年のはずなんだがな」


 んんんんん?


 予言? 何それ?

 そんなのゲーム設定にあった?

 アクセル様の人格相違といい、予言とか知らない単語といい、これはひょっとして『王子様♡』の世界じゃない?

 いや、でもなあ……。


「アクセルは聖女が現れたら、どうするつもりなんだ?」

「それはもちろん、取り込むために結婚する予定だ。どんな身分でも容姿がどうでも性格に難があろうとも、《サント・クリスタル》の力を持っているなら必要なことだ」

「必要とはいえ、相手が了承するとは限らないぞ?」

「それなら監禁してしまえばいい。ダミアンみたいにな」

「最低だな」

「お前には言われたくない。そもそもダミアンはすでに婚約者がいるのだから、結婚という選択肢はなくなるぶん不利だな」


 待って待って待って。

 ダミアンがはっきり名前を呼んでしまったことで、話し相手がアクセル様って確定してしまったよ。

 さらには、性格に難あるのまではっきりしてしまったよ。

 これは夢?

 誰か、そうだと言って!


「別に婚約していようが、問題はないと思うが?」

「最低だな」

「お前には言われたくない」


 アクセル様とダミアンはさっきと立場が逆転したように同じやり取りをして笑っているけれど、本当に最低なんですけど。

 ヒロインが現れたら、婚約者()は用なしってこと? 

 問題ないっていうのは、婚約破棄するってことだとしたら、既成事実が世間に知れ渡っている私はどうすればいいの?

 本当に二人とも最低だよ。このクズ男め!




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