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11.魔窟より怖いもの


「本当に、ダミアンは底意地の悪い人ですね」

「おや、それがレティシアの本音かい?」

「わざわざ確かめなくても、私がどう思っているかなんてとっくにお見通しなのでしょう?」


 とはいえ、さすがに私が白状しない限り、(レティシア)(晴乃)であることは誰にもわからないはず。

 もしまたダミアンに問い詰められたら、婚約式の前日に頭を打ったことにしよう。

 だからもうダミアンに気を遣うのは終わり。

 だって気を遣っても遣わなくても、結果はダミアンの思うままだもん。

 怖いけど、たぶん一度死んだ私に怖いものなんてない。怖いけど。


「そんなことないよ」

「そうですか?」


 ふふふ、ってお互い微笑み合っているけれど、もちろんお互い笑う気分じゃない。

 これは単に頭の中から指令を出して表情筋が仕事しているだけの笑顔。――のはずが、ダミアンはにいっと笑みを深めて楽しそうに笑った。

 これは悪巧みをしているときの笑顔だ。


「僕は今のレティシアのほうが好きだな」

「ありがとうございます」

「その素っ気ないところも好きだな」

「ありがとうございます」

「本音なのにな」

「ありがとうございます」


 フル稼働の警戒心を抱いたまま、感謝botとなった私にもダミアンは気にした様子もない。

 うん、わかってる。ダミアンが私の気持ちを慮るなんてことあるわけないからね。


「そうだ。せっかく明日からまた学園に通う前に、王宮内を少し案内するよ」

「ありがとうございます」


 今日は疲れたので、ダミアンへの抵抗も疑問も放棄することにした。

 でも本気なのかな?

 制約魔法というのは、仕掛けた相手のすべてを制約するわけじゃない。

 制約にも制約があって(ややこしいけど)、何を制約するかは限られている。

 要するに、ダミアンが私に制約したのは、『この部屋から出る』こと。

 一度この部屋を出てしまえば、制約魔法は解除されてしまうのに、よほど私が逃げ出さないと自信があるらしい。――ええ、逃げませんとも。怖いから。


 既成事実がどうとか、嫌な嘘が広まってしまっている今、私に為すすべはない。

 だって、制約魔法ってそもそも扱える魔術師は限られているし、魔法が有効の間は膨大な魔力を必要とするはず。

 それを二日間も、しかも離れた場所から効力を発揮していたんだから、噂以上にダミアンがとんでもない魔術師ってことだもん。


 たぶんダミアンは世間に本当の実力を見せてはいない。

 それが策略なんだろうけど、その片鱗を見せたってことは、私を信用しているのかもしれない。――なんて思うわけない。

 私にある程度の手の内を明かしても、問題ないと思われてるってこと。

 要するに舐められているけど、事実だから仕方ない。

 私にはヒロインのような力もなければ、普通の魔術師程度の魔力もないから。

 だけど、窮鼠猫を噛む。いつかダミアンの裏をかいてやるんだから。


「楽しみにしているよ」

「はい?」

「レティシアを案内することをだよ。王宮は魔窟とも言われるからね」

「魔窟、ですか?」

「ああ。いろいろと怖いところだよ」


 心を読まれたかと思ったけれど、違ったらしい。

 いや、何となく察していながらも、からかっているだけかもしれないけど。

 だから王宮が魔窟だとしても、ダミアン以上に怖いことなんてないと思う。


「今まで部屋に閉じ込めていたのも、レティシアには刺激が強いかと思っていたんだけれど、大丈夫そうだからね」

「ありがとうございます」

「あ、また戻ったね」


 やっぱりダミアンは私が感謝botと化していたことに気づいていたか。

 にこにこしているダミアンは楽しそうに見えるけれど、底が知れない。

 そもそも魔窟だと思っていたなら、客間に閉じ込めるよりも王宮に連れてこなければいいじゃない。

 そりゃ、婚約者としていずれは必要だったかもしれないけど、まだ十六歳の小娘には学園での派閥争いだけで精一杯だよ。

 学園のミニ社交界で鍛えられてから、魔物(性悪)蔓延る王宮を中心とした社交界にデビューするべきなんですよ。

 それなのに、私はダミアンと婚約したことによって、一足飛びに王宮(魔窟)に顔を出さないといけなくなったなんて。

 やっぱりダミアンが悪い。


 あっさり客間から出て、ダミアンの簡単な案内を受けながら王宮内を歩く。

 とはいえ、王宮はとっても広いから、たぶんここはまだ王族を含めた高位貴族専用の場所なんじゃないかな。

 すれ違うのは上級使用人程度で、他に誰もいないんですけど。

 もちろん使用人たちも王族の前に姿を見せられるほどの人たちだから、ダミアンや私に視線を合わせることなく、さっと隅に寄って頭を深々と下げるだけ。

 通り過ぎてからひそひそ噂する気配もない。


「――さあ、ここで休憩しようか」

「ありがとうございます」


 しばらくして、とある応接間らしき場所に通され、私はお礼を言った。

 今度の「ありがとう」はドアを開けてくれたことに対してだから。嫌みじゃないから。

 そのはずだったのに、ダミアンは私の背に腕を回してエスコートしながらソファを通り過ぎた。


 ん?

 んん?


 わけがわからないうちに、ダミアンにクローゼットのような場所へぽいっと入れられ、閉じ込められる。

 広い客間から、まさかのクローゼット!?

 そんなにダミアンを怒らせていた!?


「ダミアン様!?」

「しっ! 黙っていて、レティシア。これから面白いものを見せて――いや、聞かせてあげるから」


 抗議する間もなくダミアンに声をかけられ、しぶしぶおとなしくする。

 別に暗所、閉所恐怖症ではないから平気だけれど、他の人だったらパニックになっていたかもしれないからね。

 本当にダミアンは最低だよ。


 クローゼットは何も入っていなくて、普段は使われていない応接間なのかなと思いつつ、私は膝を抱えて座った。

 暗さに慣れてきたら、かすかに差し込む光でクローゼット内も見えるようになってきた。

 それほど広い場所じゃなくて、すぐ背が壁に当たったからそのままもたれる。

 ひょっとして出ようと思えば出られるかもしれないけれど、ダミアンに逆らう気も起きないし、その後が怖いしでおとなしくしていた。

 すると、誰か別の人が入ってきた音がして、ダミアンの歓迎する声が聞こえる。


「やあ、待っていたよ」

「どうして急にこんな場所でお茶を? 僕か君の部屋でよかっただろう?」


 まさかのアクセル様キター!




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