2.プロローグー2ー
サルディアに着くころには太陽はとうに真上を通り過ぎていた。朝ごはんは食べず、昼ごはんを軽く食べただけなので、ものすごくお腹が空いている。
ちなみに馬車は、サルディアにつくとすぐに私を降ろして去っていった。
(さあ、どうしよう。とりあえず、売れるものはできるだけ売っていこう。)
私は物を売りながら、街を歩き、教会を見つけた。
教会は街の外れにあり、すぐ近くには森がある。中に入ってみると、誰もおらず、(この教会には誰もいないのかな。それにしては綺麗だけど。)と思った時、1人の年配の女性が入ってきた。
「何かようかい?」
女性はめんどくさそうな声でそう聞いてきた。
私はこれは住む場所を得るチャンスだと思った。
「実は家を追い出されてしまって、彷徨っていたところこの教会を見つけたんです。」
「そうかい、それは大変だね。お前さんさえ良ければ、ここに住めばいいよ。」
私は思った通りの反応が来てホッとした。
「いいんですか!ぜひ、ここに住まわせてください。」
「ああ、わかったよ。私はクレア、この教会のたった1人のシスターだ。よろしく。」
「私はアンジュです。よろしくお願いします。」
「私は今からお祈りをするんだけど、お前さんもするかい?」
「はい。ぜひ。」
私は疲れていたが、今は神様に苦情をいれたい気分だったから、お祈りという名のもと神様に苦情を言うことにした。
「神様に苦情をいれるなんて」と思う人もいるかもしれないがそうでもしないと、これから先、やっていけそうになかったのだ。
「じゃあ、お祈りをしようかね」
(神様、なんで私はこんなに不幸なのでしょうか。学園では、良い点を取ったらいじめられ、悪い点をとってもいじめられ、婚約者には婚約破棄をされ...。両親にも縁を切られ追いやられる始末です。神様、私はこの世界が憎いです。これまでは我慢してきましたが、これ以上は我慢できそうにありません。こんな世界滅んでしまえばいいのに。)
すると突然不思議な声が聞こえてきた。
『お主は運が悪いのう。かわいそうじゃから、わしがそなたにある特別な力を授けよう。』
私は思わず目を開き周りを見回してしまった。
『わしは神じゃから、姿は見えんと思うぞ。それに、特別な力を早く使ってみたいじゃろう?』
(はい。それで、どんな力なのですか?)
『それはのう……世界を滅ぼす力じゃ。』
私はヒュッと息を飲んだ。幸い、クレアさんはお祈りに集中していて私の異変に気づかなかったみたい。
(なぜ神様が世界を滅ぼす手助けをするのですか。世界を滅ぼす力とは具体的にどのような力なのですか。その力は私に害を与えますか。)
『そう、捲し立てるな。一つずつ説明してやる。』
そこから神様は私に世界を滅ぼす力について教えてくれた。
世界を滅ぼす力を授かると魔力、体力、知力がかなり上がるらしい。
魔力は単純に威力が上がるだけでなく、その場の状況にあった魔法が頭に浮かんでくるらしい。
体力は筋力や持久力、その他いろいろな力が増え、トレーニングをした時の様々な力の成長速度が早いらしい。
知力はその場で1番最適な作戦等が頭に浮かび、ものを覚える力が高くなるらしい。一度見た人の顔は忘れないほど...。
また、力を与えられた人に害はなく、これまでと同じように過ごせるらしい。力の加減は難しいそうだが。
「神様が世界を滅ぼす手助けをする理由」については、詳しくは教えてくれなかったが簡単にいうと『この世界は汚れ過ぎた』らしい。私は世界中全てのことを知っているわけではないが、私が知っているだけでも、ここ最近くだらない戦争によって、何万人もの人が亡くなっている。それが世界中で起きているのだろう。
そんな話を聞いて、私は世界を滅ぼす力を授かることにした。ただ、神様もただで与えてくれるわけではなく、必ず世界を滅ぼすことが条件らしい。
神様は『では、世界を滅ぼしてくれ。任せたぞ。』といい、それっきり声は聞こえなくなった。
私は力を授かったらしいが特に変わったことはない気がする。
お祈り?が終わり、目を開けるとクレアさんはもう、お祈りを済ませていたようで待っていた。
「お前さん、何かを必死に願っていたね。」
(クレアさんに、変なように見えていなくて良かった。)
「もう夕方だから、夕飯の準備をしようかね。」
私は、(もうそんな時間なの)と思い窓から外を見ると、確かに太陽は傾き始めていた。私が教会に来た時点で、午後の間食の時間を過ぎていたから当たり前なのだけど。
夜ごはんをクレアさんと準備し、一緒に食べた。久しぶりに誰かと一緒に食べたごはんは、とても美味しくて、心が少し温まった気がした。
片付けは、「お前さんは疲れているだろうから、体を拭いて着替えてさっさと寝な。」と言いクレアさんがやってくれた。
その言葉をありがたく受け取り、準備してくれた服に着替えて、少し粗末なベッドに入った。私はとても疲れていたため、すぐに寝た。
次の日、私が目を覚ますと午前の間食の時間になる頃だった。私は大慌てで軽く身だしなみを整え、昨日夜ごはんを食べたところに行くと、ちょうどクレアさんが掃除を終えたところだった。
「クレアさん、申し訳ありません。寝坊してしまいました。」
私が、本当に申し訳なく思い謝ると、クレアさんは笑いながら言った。
「大丈夫さ。お前さんはとても疲れているだろうから、今日1日はゆっくりするといい。明日からは、私を手伝ってもらうがね。」
「ありがとうございます。」
私は、少し大きな声で感謝を伝えた。
私はごはんを食べながら、今日は何をしようか考えた。これまでの生活では何をするかが細かく決まっていたため、すぐには思いつかなかったが、ハッとやりたいことを一つ思いついた。
今日1日自由に過ごせるのだったら、世界を滅ぼす力とやらを確かめてみようと。そこで私はクレアさんに教会の裏を使っていいか聞いた。
「クレアさん。少し運動をしたいので教会の裏を使ってもいいですか。」
「ああ、もちろんいいよ。疲れているだろうに運動するとは、元気だね。若い証拠だ。」
クレアさんは、私が運動をすると言ったことに少し驚きつつも笑って、許可を出してくれた。
ささっと朝ごはんを食べ、片付けたら、早速、教会の裏に行き、その場に落ちていた木の棒を軽く振ってみた。すると、ザンッ、ドスッと音がして前方にあった木の幹に切れ込みが入った。あまりの威力に私は唖然としてしまったが、これは面白いと思い、しばらく運動を続けた。もちろん周りに気をつけて...。
かなりの時間が経ち、クレアさんが私を「昼飯の時間だよ。」と呼びにくるまで楽しんでいた。ちなみに、クレアさんがくる気配がわかり、急いで力を弱くした。
気配がわかるのも楽しいね。
午後からは魔法を使ってみた。今まで使えなかった魔法までなんでもできるようになっていてワクワクしていた。今まで使えた魔法も威力が段違いで、無邪気な子供のようにどんどん魔法を使った。もちろんこれも周りに気をつけて...。バレないようにって意味でもね。
しばらく続けて、流石に疲れてきたため教会の中に戻るとクレアさんが出かける準備をしていた。「お前さんもついてくるかい。」と聞いてきたので、「近くに図書館があるなら行きたいです。」と言った。
どうやら、クレアさんが行く予定の場所のすぐ近くに大きな図書館があるようなのでついていくことにした。
街はとても栄えていて、すれ違う人も楽しそうな、イキイキした人が多かった。私は知らなかったが、どうやら私の元両親は領地を上手く経営しているようだった。また、街の人たちにとても慕われているようだった。私を守ることもせず、追い払った最悪の両親だったけれど、領地がこんなにも栄えているのはなぜか少し誇らしかった。
(私も元両親のように誰かに慕われたい)と思ってしまった。
その後、図書館に行き、クレアさんが呼びにくるまで様々なジャンルの本を読み漁った。全ての本を読み終わるのはいつだろう、と思うくらいたくさんの本がある大きな図書館で、(これも私の元両親の力か)と思うと複雑な気持ちになった。
私は教会に帰り、また運動して、夜ごはんを食べ、眠りについた。
(明日からは頑張るぞ)と思いながら。
その頃、これから暗くなってくるにも関わらず王都を大急ぎで出発し、サルディアに向かっている2人の男女がいた。
その2人は、アンジュに幸運をもたらす者か、それとも...。
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