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 「え? あの上野が、エビちゃんたちの話を盗み聞きしてたの?」その翌朝、新田が海老名のすぐ横で、眉間にしわを寄せながら言った。回転椅子を自分の席から海老名と大森の席の間に移動して来て、3人で話し込んでいる。

 どうせ少人数が座れるブースでも、監視している奴がいるかもしれない。特に昨日、丸出為夫に秘密の会話を盗み聞きされたかもしれないのは、大きな痛手だった。ならば自分の席でヒソヒソ話をしても同じことだろう。と言う意見で、昨日のお互いの捜査会議に関する結果報告は、このような形になった。

 「やっぱり飲み屋で会議するのは、まずいんじゃないの?」と新田は右手にボールペン、左手になぜかボーイズラブ漫画を手にしながら言う。漫画の間に自分の手帳を挟みながら。別の話題について議論しているように、偽装しているつもりらしい。

 「ま、通路1人分通れるだけの距離があったし、周りも騒がしいからな。大したことは聞かれてないんじゃないかと思うんだけど」海老名が二日酔いで、自分の椅子に押し付けられるように座ったまま話す。「いずれにしろ、誰かが知らない間に地雷を踏んづけたのは間違いない。段々やりにくくなってきたぞ。安全な場所なんて、この地球からなくなってしまったようなものだ。中華料理屋の個室なんて、ますます危険かもしれない」

 新田と大森の班は、昨日は中華料理店の個室で会議していたのである。議題は、主に例の教会周辺に対する聞き込み結果。

 「許明と白幡茂男は確かにかなり怪しいですね」大森が話す。「許明はどうも違法な薬物を取り引きしてると言う噂です。自分の部屋で大麻を育ててる、って証言もありましたから。白幡は元医者です。薬のことについては今でも詳しいらしくて、頼めば色々な薬を売ってくれるとか。違法な薬を扱ってる可能性もあります」

 「薬物の件について、組対(組織犯罪対策課)から何か有力な情報を得られないかな?」と新田。

 「出来ないこともないかもしれないが、相手を選ばないとな」と海老名。「あの課も信用できそうな奴はあまり多くないし。何てったって、暴力団とつながってる大久保おおくぼ課長のいる課だぜ。あの課全体がみんな怪しいもん。薬銃(薬物銃器対策係)で信用できそうな奴は……あんまり交流ないしな」

 新田の班は、他にも容疑者として名前が浮上している人物に関する聞き込みを行なっている。ウラジーミル・チストフに関しては、すでに三橋が直接聞き込みをした以上の情報はなし。ミハイル・タルコフスキーに関する情報に至っては、みんな口をそろえて「日本語も上手で、いい外人さん」。

 「それにしても、あの教会……」海老名は頭が痛くなって、額を右手で軽く押さえながら言う。「ホモだのニューハーフだのって、同性愛の信者が多いよな。どっちみち歴史も浅いみたいだし、明らかに怪しいカルトだけどさ、そもそもキリスト教って同性愛は禁止なんじゃないのか?」

 「あの教会が言うには、過去の行いを懺悔ざんげして人生をやり直せば、その罪は許されるんだって」と新田が言う。「だからLGBT関係の人たちにも、積極的に布教活動をするそうよ」

 「いい加減だな。とにかく信者がたくさん増えて金も集まれば、それでいいってわけか。税金も払わなくていいしな。いい商売だよ、宗教って……ま、それはともかく、タルコフスキー以外には、まだホシが誰だかわかりそうにないな。今日はどんな風にして捜査しようか?……と言うことでフジさん、とりあえず材料はそろった。今日の日替わりランチは何?」

 海老名は隣の席にいる藤沢係長に声をかけた。


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