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39:Litore quot conchae, tot sunt in amore dolores.

1章でスルーした部分の問題回。エロ回。グロ回。


裏本編は一般小説を常にギリギリがモットーだからか、問題回が各章毎にありますね。

主人公が絶世の女装美少年って設定からして問題なんだわ。薔薇とかBLなんて話じゃない主人公の過去、問題回。中年とか熟女に襲われるとか誰得ですか?でも主人公の複雑な心境のためには明かさなくてはなるまい。


せ、台詞だけならセクハラだもん!恥ずかしくないわ。

エロシーンの描写なぞなし。文章が意味深なだけです。

ガイドライン的にも“キャラクター設定の背景の一つである”場合は大丈夫みたいだし大丈夫か。

主人公が老若男女構わず魅了して恋心やらやましい心抱かせる魅了邪眼の毒人間って設定を書くためには仕方ないということで。

 「私の可愛い瑠璃椿、お前を愛しているよ」


 動けない私に、彼は確かそう言った。


 「愛しているわ、瑠璃椿。誰よりも貴方のことを」


 熱に冒された私に、彼女はたぶんこう言った。


 押し倒されて、髪を梳かれて。抱き締められて、口付けられて。そう優しく囁かれても、何て答えれば良いんだろう。確かあの頃の私は、カーテンの外の明るさ暗さから時間を頭の中で当ててみたり、今日の明日の食事はなんだろうなとか考えながら虚ろに天上を見上げていた。

 そもそも愛なんてもの。そんな概念を知らない子供に愛を語ることの愚かしさ。彼も彼女も知らないはずでもないだろうに。大人だからこその、短絡的な攻略法。そんなもので人の心まで手にはいるなら世の中人はもっと幸せだろう、頭の中も。それを幸せと私が特別思えないように、人はそんなに単純なものではない。


 *


 世界は暗転、夜は明け見慣れた……懐かしい屋敷を映し出す。私はそこで私を見ている。それは過去の自分自身。瑠璃椿と呼ばれた、少年奴隷。それがかつての私。虚ろな人形みたいな目で屋敷を歩いている。

 その人形に息吹を吹き込んだのは、明るい少女の声。


 「瑠璃椿!!」


 瞬間生気を取り戻す瑠璃椿。駆けてくる少女を見ているだけで、とても幸せな気分になる。

 私も久々にはっきりと思い出す、お嬢様の顔。夢でもこうして会えるだけで愛しさが込み上げる。それでも比べてしまう、やっぱり違うなと。同じ金髪をしていても、お嬢様はリアともトーラともやはり違う女の子。それは見かけだけじゃない。

 何処が好きだったのかと言われても、上手くは言えない。共通点はないに等しい。でも惹かれてしまったのは事実だ。


 「ご機嫌ようお嬢様、今日はなんだかはしゃいでいらっしゃいますね」

 「そうよ!だってね、お父様がお小遣いくれたの!!以前のドレスが小さくなったんじゃないかって間違って捨てさせてしまったらしいの。それで私に新しいドレス買って来ていいよって!」

 「そうですか」


 瑠璃椿は穏やかに微笑むけれど、私は知っている。内心凄く焦っていた。私達は知っている。どうして旦那様がお嬢様にそんなことを言ったのか。何、記憶に新しい。瑠璃椿にとっては昨晩の出来事だ。


 「一緒に買い物に行きましょう?新しいドレス買いに行くの!似合ってるの探すの手伝って?」

 「……申し訳、ありません」

 「私の命令を拒むって言うの?」


 釣り上げられた青い眼。気が強く我が儘なお嬢様。それでも彼女の我が儘に、奴隷として命令されることが瑠璃椿の喜びだった。だから頷きたかったけれど、残念ながら先約があった。


 「今日は旦那様よりお申し付けがあるので」

 「うぅ……瑠璃は私のものなのに!お父様ったら酷いっ!!お父様なんて大嫌いっ!!」

 「そう仰らないでくださいお嬢様。旦那様はお嬢様が選ばれたドレスが見たいんですよ?それを僕のような奴隷が選んでしまっては旦那様の好意を無にしてしまいます」

 「……お父様が?」

 「がっかりしてしまいますよ」

 「本当に?」

 「ええ。旦那様は少し口下手で照れ屋な方なんです。僕とは男同士と言うこともあって話が進むのでしょうね。よくお嬢様のお話を口にされていますよ」

 「お父様が、私のことを……?」

 「ええ。いつも気に掛けていらっしゃいます。貴女を……お嬢様を愛しているとこの間も言っていましたよ」

 「そ、そうなんだ……へ、へぇ……」


 お嬢様は嬉しそう。機嫌を直して馬車へと乗り込み、買い物へと出かけていった。だけど彼女の消えた屋敷では、溜息が溢れる。


 「さて、そろそろ行かないと」


 階段を上って旦那様の部屋に向かう。扉を叩けば、鍵の外される音。


 「あれ達はどうした?」

 「奥様とお嬢様はお買い物に……」

 「……買い物、か」


 陰を感じさせる笑みを浮かべる男。金儲けに人生を費やしたためか、虚ろな目をしている。

 元はそれなりに見られる男だったのかもしれないが、人間的魅力を感じさせないそのネガティブな雰囲気。人間不信からか、頬は窶れ目の下のはクマが浮かんでいる。何も昨日のことだけの所為ではないだろう。昨日は確かによく眠れてはいないかもしれないが、昨日も既にこの男は大体同じ顔をしていた。


 「瑠璃椿、私に何か言うことはないか?」


 そう言って男が見せてくるのは一着のドレス。壁に掛けられたそのドレスはお嬢様のもの。ついこの間までお嬢様が着ていたドレスだ。


 「……ありがとうございました、旦那様」

 「それだけか?」

 「私の汚したお嬢様のドレスの件を取り計らってくださいまして」

 「そうだな。あれにはもうこれは着られまい。お前が汚してしまったから。しかし元々高価な服だ。唯捨てるのは勿体ない」


 そう言って旦那様は私……いいや、瑠璃椿(ぼく)にそれを投げてくる。


 「この部屋ではこれを着ろ。いいな?」

 「……畏まりました、旦那様」


 さっさと着替えろと、彼の視線は言う。脱いでまた着る。その一部始終を観察されている。

 大好きなお嬢様のドレスを着せられて。ああ、そうだ。確か昨日も変な気分になった。

 ちなみに昨日は、お嬢様のドレスの寸法を仕立て直すから、そう背丈の変わらない僕を呼んだと言っていた。本当にそうなら良かったんだけど、そんなはずもない。お嬢様のためと言われたら断れないのが瑠璃椿という奴隷の悲しい性だ。

 ドレスからは昨晩名残の匂いがする。昨日は僅かに香ったお嬢様の香水とか、そんなものはもう何処にもない。残っているのは別の匂いだ。夢じゃなかったんだなと、少しだけ悲しくなった。

 そこで室内が静まりかえっていることを知り、僕は旦那様を見る。冷たい視線だ。物悲しさを湛えている。


 「旦那様は止めろと言ったはずだが?」

 「僕のご主人様は、あくまでお嬢様です」

 「そのお嬢様のためだとお前は私を受け入れた。違うか?私の可愛い瑠璃椿?」


 逆らえない。返す言葉がない。悔しいがそれは何処までも真実だった。

 お嬢様の願いは、平和な家庭環境。旦那様が奥様を愛していて、奥様が旦那様を愛していて、お嬢様は二人に愛されている。そういう理想の家族関係。

 絶対に知られるわけにはいかない。旦那様の愛情が奥様にもお嬢様にも向かっていないなんて、気付かれるわけにはいかない。だから僕はこう言うしかない。


 「…………そうですね、“ご主人様”」


 僕が黙って彼に尽くしている内は、旦那様はそういう振りをしてくれる。愛してもいない女とその娘を愛していると、嘘を吐いてくれる。そう約束してくれた。

 僕は奴隷だから、ご主人様であるお嬢様のために尽くすのは当然だ。彼女の幸せを守る、願いを叶えるのが僕の役目、存在意義だ。そのために邪魔ならば心なんて幾らでも捨ててしまえる。

 愛してもいない相手に抱かれるくらいなんともない。僕は女の子じゃないから、万が一という心配もない。唯目を瞑っていればいい。これはそれだけの話。


 「解っているなら何故?」

 「サービスです。多少は嫌がった方が嗜虐心でも擽って、ご主人様の好みかと私なりに考えました」

 「そんなサービスは頼んでいない」

 「失礼いたしました」


 当時の私は奴隷だったから、抵抗する気力はすぐ失せた。まぁ、機嫌損ねても何も良いことは無いので、適度に恥ずかしがった振りをしたり、大げさに淫乱ぶったりとまぁいろいろやったわけだ。その方悦ぶんじゃないかなって。だけどあの人は、むしろ悲しそうだった。満たされない想いを抱えているようだった。


 「愛している、瑠璃椿」

 「……愛しています、ご主人様」


 でもあの頃の僕は、お嬢様が世界の全てで、その他はどうでも良かった。自分さえどうでも良かった。そんな僕を、愛しているなんて言われても、何も感じない。心を預けられるのが重いのだ。心苦しいのだ。だから多少は申し訳ないと思って、口では幾らでも大嘘を言う。望まれた言葉を鸚鵡返しのように繰り返す。だけど、僕の見え透いた嘘は……心を貫く刃だったのだろう。


 「違う!私が望んだのはそんな言葉じゃない!」


 そう叫びだした彼。衝動的に押し倒された。彼は泣いているのか。上からは涙が落ちてくる。


 「まだか!?まだ……足りないのか?!まだ私の心がわからないか!?伝わらないのか!?私は後何度、お前を愛していると口にすれば!お前を組み敷けば……お前は私を愛してくれる!?」


 それを覚悟と呼ぶのなら、確かに覚悟ではあるのかもしれない。

 これまで女を愛してきた異性愛者に、いくら女顔とはいえ年端もいかぬ少年相手に欲情させてしまっているのだから、それが本人に与えた衝撃も大きなものだろう。

 倫理の崩壊しているセネトレアという国にも、多少の倫理はある。変態は金になると、高給奴隷売り捌く奴隷養育奴隷商なんて商売している人間でも、自分はまともな人間だと自負していたらしいのだから。彼はその抵抗、葛藤があればこそ、こんな女装なんてさせて罪の意識を和らげたがっている。

 しかし“僕”は、そこまでしてどうしてこんな自分に想いを寄せるのかが解らない。当時の私は邪眼の所為だなんて知らなかったから、別に僕は何も思わなかった。今思えば酷いことをしたようにも思う。もう少し上手に嘘を付けば良かったんだろうか?


 *


 一度見た光景を同じ場所で私は見ている。古傷を抉られている。それでもこれは夢だから目を閉じても、目覚めない。瞼の裏でも夢の景色は続いていく。

 旦那様はどんどんおかしくなっていく。手を伸ばせば伸ばすほど。

 邪眼に魅せられると欲が生まれ触れたいと思ってしまう。でもそれは際限がない。心が手にはいるまで、或いは手に入っても、生き続ける限り延々と求め続ける追い続ける病んだ精神。奴隷は僕なのに、隷属しているのは相手の方だというおかしな話。

 毒人間になった今だからこそ、すぐに殺してあげられる。でも長引けば長引く程……ろくな終わり方にはならない。だから不安なんだ。味方内にも邪眼に魅せられている人間は大勢いる。その解決の糸口が何処かに隠れていないかと、目を背けたい光景をしっかりこの眼に焼き付けるため、記憶に抱かれる。


 やがて繰り返しの夜は明け……場面は移り変わって、あの匂いが強くなる。奥様が笑いながら、僕にお茶を勧めてくる。優しげなその微笑みに、母を知らなかった僕は知らないはずの面影を重ねて安堵を感じる。裏のない好意なんてどこにもあるはずないのに。無条件に信じてしまった。大好きなお嬢様に少し似た雰囲気だったから。


 「瑠璃椿……何か辛いことはない?」

 「辛いことですか?」

 「貴方は優秀な奴隷だから、それにあの子にも懐かれているでしょう?だから他の奴隷達からやっかみを受けることもあるんじゃないかと思って」

 「……いえ、そんなことは特に」


 そう、不思議とそう言うことはなかった。敢えて言うなら一人だけ。純血至上主義の気があるお嬢様の家庭教師だけがたまに厳しいことを言うくらい。それでもお嬢様の手前、そこまで酷い事も言えない弱い男だ。


 「でもさっきの楽器のお稽古の時もそう。貴方とてもぼんやりしていて、普段ならやらないミスを何度も犯していたわ」


 犯しての下りで、条件反射で身体がびくっとなってしまったのは、最近はいろいろな言葉責めにも遭っていたからだと思う。そんな不審な僕の様子に、奥様は表情を曇らせる。


 「瑠璃椿……私では貴方の相談相手になれないかしら?……私は跡継ぎの子を産めてはいないでしょう?だからかしら。貴方をいつの間にか子供のように思ってしまっているのよ」

 「あ、ありがとうございます」

 「アルジーヌからも、貴方を養子に引き取れという我が儘が聞こえていて、私もそうなればどんなに嬉しいか」

 「奥様……」

 「お母様で構わないわ、瑠璃椿」

 「…………か、母様」


 そう小さく呟けば、嬉しいわと奥様に抱き付かれる。ぐいぐいとふくよかな胸を顔に押しつけられて、とても恥ずかしくなった。


 「可愛いわね、瑠璃椿」


 あの人はそう笑って、僕の頭を撫でる。恥ずかしかったので目を逸らした。そうしたら屈まれた。どうしてこんなに近くで顔を覗き込まれているんだろう。さっきお茶と一緒に出されたお菓子でも口についていたりして。

 そう思って拭おうとした手が動かない。握られている。手の方に意識を取られている内に、指を絡ませられてきた。


 「お、奥さ……」


 塞がれる。その瞬間心臓がどくんと鳴った。何をされたのかを理解した。触れ合っている、唇が。

 不意に体中から汗を吹き出すような、恐怖と後ろめたさ。恐ろしくて、怖くて逃げ出そうと思った。身体を引きはがそうとする。でも駄目だ。力が抜けていく。痺れて動けない。凄く怖いのに、何故か風邪でも引いてしまったかのように身体が熱い。ここでやっと、何か飲まされた……それを悟った。


 「驚いたわ。紅茶に入れた分だけじゃ足りないだなんて」


 今度からもっと量を増やさなければ。彼女はそう言う。


 「何を盛ったのって顔ね。大丈夫、毒ではないわ。貴方を大人しくさせるためのお薬と、貴方を男に戻してあげるための薬よ」


 痺れ薬と媚薬だと、彼女が笑う。その目の恐ろしさ。旦那様のそれより怖い。絶望など知らない。諦めを知らない。求め続ける追い求める狩人の目だ。


 「嫌だ……止め、て……くだっ……さ……奥っ……さま!」


 その目に本能的な恐ろしさを感じて、逃げようとする。だけど次第に口も回らなくなる。痺れだした身体を引き摺って、壁際まで逃げられたのが奇跡だ。だけどその先に逃げ場はない。僕は馬鹿だ。母恋しさ、そこに付け込まれた。優しい言葉には裏がある。意味のない優しさはない。


 「大丈夫よ。貴方はちょっと騙されているだけなんだから。可哀想に、あの人に酷いことをされたのでしょう?」


 その言葉にぞっとする。見られていたんだ。どこから?どこまで?

 もう聞けない。彼女は一方的に話を進めていく。服を剥いでいく。そして負わされた傷を、跡を見つける度に彼女は険しい顔になる。


 「大丈夫よ瑠璃椿。あんな馬鹿な男を、賢い貴方が好きになるわけがないじゃない。どんなに可愛くたって、貴方は男の子だもの。女の子の振りをさせたって。あの人じゃ貴方を手に入れることは絶対に出来ないの」


 自分に言い聞かせるような言葉。険しい顔が、次第に勝ち誇った笑みへと変わる。

 衝動的なものじゃない。まだあの男の方が感情が、心が見える。

 だけどこの人は、もっと深くて暗い闇を飼っている。それが女の人の恐ろしさ。少女であるお嬢様が持たない心の闇。

 籠絡するための策だ。愛しい者を手に入れるための行為。目的のために手段を選ばない。愛を語りながら、彼女はこの行為に愛など感じていない。唯、奪われた所有物を取り返したいという所有欲。


 「さぁ瑠璃椿、もっと気持ちよくしてあげるわ。あの子じゃ……あんな小娘とは、こんなことは出来ないでしょう?」

 「違っ……僕、はっ……!」


 お嬢様。大好きなお嬢様。僕はそんな風にこんな風にお嬢様を好きじゃない。

 唯、一緒にいると嬉しくて。お嬢様の声を聞くのが好きで。お嬢様の笑顔を見るのが幸せで。いつもあの人に笑っていて欲しい。そんな子供みたいな恋を抱いていてはいけないんですか?僕はまだ、子供なんだ。子供の好きは、精神的なものだ。必ずしも肉欲には結びつかない。

 そりゃあ、最初は手を繋いでみたいとか、いつかキスくらいはしてみたいとか思ったりもした。だけど、もう駄目だ。こんな薄汚れて薄汚い僕がどうして?あんな清らかなお嬢様にそんなことが出来るだろう。汚れている。僕は汚れている。僕は汚物だ。僕はゴミだ。僕は奴隷だ。奴隷は、人間じゃない。何の自由もない。たぶん、生きているけど……僕は生きてはいないのだ。

 そうやって、追い詰められていく。もうまともにお嬢様の顔も見られない。上手く笑えなくなる。表情が凍っていく。奥様のやり方は陰湿だ。それでいて執念深い。


 「瑠璃椿!」

 「……お嬢様?」

 「また私の話を聞いていなかったの?……ってあら?大丈夫貴方、顔色悪いわよ?」


 またちゃんと食べていないんでしょうとお嬢様に叱られる。

 無理矢理手を引かれて。僕は汚いからと手を放そうとするけど、絶対に放してくれない。そんなお嬢様の強引さ。涙が出そうなくらい、幸せだ。

 でもお嬢様が変わらず僕に優しいのは、何も知らないからだ。きっと軽蔑する。僕を。……そう思うと、涙が溢れそうだ。


 「お母様!瑠璃ったらまた何も食べてなかったらしいの!メイドに何か用意させて!」

 「あら?そうだったの……?いけない子ねぇ、瑠璃椿?」


 奥歯がカタカタ鳴り出す。奥様の微笑みは美しいけれど、目の奥がギラギラとまた狩人の目。


 「アルジーヌ、貴女はそろそろお勉強の時間ですよ?お部屋で先生がお待ちになっていらっしゃるわ」


 待たせては駄目ですよと娘を窘める母を演じる奥様。そんなのは口実だ。早く部屋からお嬢様を追い出したいだけ。


 「お嬢様……」

 「わかりました。じゃ、また後でね、瑠璃!」


 手はいとも簡単に離れる。どうせまたいつでも繋げると彼女は思っているのだ。僕が自分のものだと信じて。

 お嬢様が消えれば、嗚呼まただ。噎せ返るような甘い匂いだ。毒の匂いだ。何も考えられなくなるくらい。食事にも水にも。僕が口に入れるようなものは全て媚薬の毒入りだ。

 元々適量以上を用いらなければ効かなかった。それが段々弱くなってきている。それでももうここまで来れば条件反射。躾けられた犬だ。脳が麻痺している。

 この媚薬の匂い、痺れ薬、眠り薬……いろいろ盛られた。その匂いだけで、僕に効果は現れる。頭がぼーっとして、何も考えられなくなる。動けなくなる。人形みたいに、馬鹿みたいに僕は弄ばれる。嗚呼、でもいいかな。何も考えられなければ、以前みたいに恐怖とか罪悪感も感じなくなる。早く終われと念じ続ければいい。そう思って目を閉じた。


 「何をしているっ!」

 「あ、貴方!?」


 旦那様の怒鳴り声。そこでやっと僕の意識は浮上した。

 辺りを見回せば食堂。こんなところで何かをすれば、人目に付くことはあるだろう。奥様が人払いを済ませたとはいえ、旦那様に逆らえる人間はこの屋敷にはいない。彼は僕がなかなか部屋にやってこないことに疑問を覚えたのだろう。

 普通なら僕が悪役。間男の図だ。それでも旦那様が怒りを向けたのは奥様の方へ。


 「売女が!その汚らわしい手を放せ!」

 「何をしていたかですって……?貴方だけには言われたくありませんわ!」

 「私の物に手を出すとは、相応の覚悟は出来ているんだろうな?」

 「はぁ?本気で言ってるの?この子は男の子なのよ?貴方みたいな男に好き勝手やられるより、女を抱く方が幸せに決まっているじゃない!今に見ていらっしゃい!私がこの子の子供を産めば、この子は私の物!私だけの物になる!貴方は指をくわえて見ていなさい!」

 「本当に傲慢だな、これだから女という生き物は!お前達の思考回路は何故そんなに爛れている!?私の人生最大の汚点は唯一度!貴様のような汚物と交わったことだ!」

 「何よ!悔しかったらこの子をまた女装させて犯してみたら?それで孕ませでもしてみなさいよ!出来ることならね!おほほほほっ!そんなことが出来たならそうね!私はこの子を諦めて差し上げますわ!」


 両耳から聞こえてくるその激しい口論。世界の崩れていく音。お嬢様の信じた世界が、ひび割れていく。


 「もう……嫌だ……どうしちゃったんですか、奥様も……旦那様も!昔はもっと……普通で、優しかったのに!」


 僕は泣いていた。

 出会った日の二人は優しかった。自分が誰か、何かも知らず……見知らぬ街に転がっていた。そんな僕を拾ってくれたお嬢様。僕を屋敷に置くことを認めてくれた奥様旦那様。感謝していたんだ、本当に。

 奴隷のための教育でも、いろんな事を勉強させて貰えるのは嬉しかった。歌に踊りに楽器に一般教養。

 市場で買い上げた、競り落とした奴隷を躾のためにと預けに来る客がいるように、この屋敷では夜伽のための教育もなされてはいた。しかし顧客が付いてから、いろいろ教え込まされる場合もある。客層によっては何も知らない方が好みという者もいるから。

 だからお嬢様に気に入られていたため、売り飛ばされる予定が無かった僕は、そういう教育からは程遠い生活を送らせてもらった。僕の仕事はお嬢様の遊び相手兼勉強仲間。ある時までは本当に幸せだったんだ、毎日が。

 それが突然。旦那様の部屋に呼び出されたその日から、僕の生活は一変。

 今ではどうすれば楽に死ねるだろうかと暇さえあれば考える。その度にお嬢様の顔を思いだし、踏みとどまる次第。


 「お願いします……昔の、お二人に……戻ってください!」


 衣服を整えるや否や、呼び止められる声も聞かずに僕は食堂を逃げ出した。


 “お父様とお母様は、私がお嫌いなのかしら?”


 不意に思い出すのは、いつかのお嬢様の言葉。喧嘩の仲裁をしても、全く話を聞いて貰えない。喧嘩の理由を尋ねても教えて貰えない。あっちに行っていなさいと追い出されて、居間から遠くに追いやられ、ぽつんと一人で、窓辺で風に吹かれていたいつかのお嬢様。

 そんなに昔のことでもない。つい最近のことだ。今日こそ尻尾を掴んだ旦那様だが、以前から奥様と僕を怪しんでいる節があった。奥様は当然旦那様と僕とのことを知っていた。だからこそ冷え切っている二人の仲が余計ギスギスし出すのは、仕方のないことだったのかも知れない。二人とも嫉妬と疑心の鬼と化していたから。

 でもそうなることで一番悲しむのはお嬢様で、だからといって僕がここから逃げたとしても問題の解決にはならない。

 そう思うと、逃げ出す足も……次第に遅くなり、止まる。奥様は着崩したドレスを直すのに手間取り追ってこなかった。でも旦那様は追ってきた。


 「瑠璃椿!」

 「放してくださいっ!」


 暴れたが、手を放してくれない。その強引さに、お嬢様を思いだし……僕の動きが止まった一瞬。その隙を見逃さず、彼の書斎まで抱きかかえられて連れて行かれる。怒りのままにまた何かされるのだろうか。恐る恐る見上げれば、様子を窺うような僕の反応に少し傷ついて、そして自己嫌悪に陥ったような旦那様が居た。


 「お前がこの家に来た日のことは、昨日のように覚えている」


 淡々と呟かれた声は、不思議な温かみを宿していた。そこに何らかの心が宿っていることを、無感動な僕にも思い知らせる程度の何かがあった。


 「もう何年前になるか?」

 「7年……そろそろ8年です」

 「そうか……あの頃は本当に子供だったなお前は」


 この位だっただろうかと、手で背丈を作る旦那様。珍しく穏やかな笑みをしている。


 「あの日は驚いた。多くの混血を見てきたつもりだった。それでもお前の他に、私はその色を知らない。お前は混血の中の王だ、瑠璃椿。お前ほど美しい混血を、私は知らない」


 銀色の髪に手を伸ばして、指に絡める。その手がやけに優しいのは何故なのか。


 「この屋敷の、いや世界の何処を探してもお前より美しい女はいないと断言できる」

 「だ…………ご主人様?」

 「それなのに何故お前は女ではないのだ瑠璃椿!私は愛しいお前を娶ることも出来ない!家庭を築くことも出来ない!抱いても唯……虚しさだけが増していく!それでも……お前を求めずにはいられないのだ瑠璃椿!!」


 金儲けのために人を蹴落とし、傷付けてきた人間が……今更幸せな結婚を、家庭の幸福を望んでも、それは叶わぬ願いだというのか。僕は、彼が泣き崩れるのを見る。


 「あの日、私は本当の愛を知ったのだ。私は私の過去の全てを嫌悪した。妻も娘も……邪魔だとさえ思った。私がある日突然狂ったのではない。衝動に負けたのではない。積み重なった年月の思慕。それだけではない、お前は卑怯なほど、日々美しさを増していく」

 「そ、そんなの……酷いです!お嬢様が可哀想だ!」

 「嗚呼、そうだな。あれは哀れな娘だ」


 どんな優しい言葉も手も、お嬢様を傷付けるなら許さない。牙を剥く僕のその目さえ愛しいと言わんばかりに視線を受け止め、彼は深く頷いた。


 「私もあの女もあれを想ってなどいないのだから」


 その一言が、お嬢様の願いを打ち砕く。目の前が真っ暗になるような絶望を僕は知る。


 「……女共は皆、私の金しか見ない。財産を食い潰しに擦り寄って来る蛆だ」


 女を強く憎むよう、旦那様が言い捨てた。

 女への憎しみのために女を抱いた。男を金の財布としか見ないのなら、女など道具。欲を満たすためだけの道具だと認識するようになったと彼は言う。


 「あの女もその蛆の一匹だ。子が出来たなどと言うから、仕方がないと娶った。妻でも出来れば、蛆の抑制にもなるだろうと思ってな。……もっとも、今となってはあれが本当に私の子かもわからん」


 そんな娘を愛せるかと聞かれた。僕は言い返せなかった。その点については。

 それでも……


 「それでもお嬢様は……旦那様を愛していらっしゃいます」


 それは真実だと、強く見つめれば……視線に屈したようにあの人は目を伏せ溜息。降参の意なのだろうか?


 「……瑠璃椿、お前が条件を飲むなら私も努力をしよう」

 「え……?」

 「お前が私を愛する努力をするなら、それに応じて私もあの娘を父として愛する努力をする」


 もう何も残っていないと思っていたこの身から、最後に心を捧げろという言葉。最後に残ったものまで奪われる努力をしろ、覚悟を決めろと迫られる。

 それでも、お嬢様と自分。天秤に掛ける間もない。答えは決まっていた。


 「……わかりました」


 *


 そこからしばらくは、何事もなく日々が過ぎていった。お嬢様はいつにも増して明るい笑顔を振りまいていた。あんな幸せそうなお嬢様を見られるなんて、僕もとても嬉しい。だけど、その笑顔に後ろめたさもあった。胸が締め付けられるような苦しさ。それを僕は感じている。


 「瑠璃椿!あのね、お父様が一緒に買い物に行かないかですって!こんなの初めて!」


 良かったですねお嬢様。


 「でも突然どうしたのかしら?」


 不器用な旦那様なりに、お嬢様との接し方を考えてくださったんですよ、きっと。


 「瑠璃椿!お父様が私の誕生日を祝ってくださったの!私、凄く嬉しいわ!」


 良かったですねお嬢様。


 「もしかしてお前が最近私と遊んでくれなくなったのは、お父様のプレゼントの相談でも受けていたの?」


 ええ、そうですよお嬢様。


 「それじゃああの贈り物はお前からの物でもあったのね。……それじゃあもっと大切にするわ!ありがとう!」


 そう。最初は……上手く行っていた。彼女は笑っていた。このまま何もかもが上手く行くと思った。

 だけど次第にその笑顔は再び曇りだした。


 「ねぇ瑠璃椿……」

 「如何なさいましたかお嬢様?」


 「お前は最近、お父様とばかり遊んでいない?お前の主が誰か忘れたわけではないでしょうね?」

 「申し訳ございませんお嬢様」

 「えええ!?約束したじゃない!今日は一日私に付き合ってくれるって!!」

 「しかし私の仕えるお嬢様の家の家長が旦那様である以上、優先されるのは旦那様の命令です」

 「お父様ったら狡い!瑠璃は私の物なのに!」

 「そう仰らないでください。今はいろいろと手続きのために時間も必要なんです」

 「そうなの……?そうよね……それじゃあ仕方ないけど」


 忙しいのは今だけなのよねと、しぶしぶお嬢様は引き下がる。そしてびしと指を突きつけて、彼女は胸を張る。


 「お前が養子になったら、私の弟ね?覚悟しなさいよ!今まで以上に私に付き合って貰うんだから!」

 「それは無理です」

 「ええええええええええええええ!!どうして!?」

 「お嬢様、この家には跡取り様がいらっしゃいませんし、私が養子に入るのでしたら私は今まで以上に学ばなければならないことが増えるわけで、必然的にお嬢様と過ごす時間は減るでしょうね」

 「お父様狡い!!商家の習い事を教えるからって、いっつも瑠璃を独占するの!?」

 「我慢なさってください。これもお嬢様の生活のためです。このご時世何があるか解りませんし、商売事は念には念を入れなければなりません。私もまだまだ不勉強ですし、悪いのは私です」


 というのは勿論建前だ。大嘘だ。旦那様がお嬢様を構うようになった分、僕が旦那様を構わなければならない。奥様も最近は大人しい。今度旦那様に逆らえば、屋敷から追い出されかねないからとかなのだか。お嬢様の幸せのためには勿論奥様も必要だから、居て貰わなければ困る。それでも時折向けられる鋭い視線は相変わらず怖い。虎視眈々と此方を狙っているようで。でも旦那様の傍にいれば、その目から逃げることが出来る。

 旦那様には奥様みたいな怖さはない。奥様みたいに必要以上に追い詰められることはないから、ほっとするのは本当だった。

 旦那様が不器用だというのは本当で、人間不信から人を上手く愛せない人だというのは解った。だからその不信を取り除くことが出来たなら、きっと旦那様はお嬢様を本当に娘として愛することができるようになる。

 そんな不器用な人を傍で見ていて、哀れみだろうか。僕はある種の情を持つようになった。それはお嬢様と対峙するときのような、胸の高鳴りはないけれど、不思議と温かい気持ち。唯の欲の思いなら、そうはならなかっただろう。そんな風に思ったのは、確かに心を与えられていたからだと思う。

 だけどお嬢様は僕から受ける印象が、以前と違うと口にする。そんなことはない。根本的なものは何も変わらない。あの日もこの日も、今も僕はお嬢様の幸せを何よりも切に願っている。それでもお嬢様は、そうは見えないと訴える。


 「瑠璃椿。お前は何時からそんなに他人行儀に話すようになってしまったの?確かに昔からお前は敬語を使っていたけど、私なんて言い方していなかったじゃない」


 「その言い方、嫌いよ。お前が遠くに感じるわ」

 「私は……お嬢様の、奴隷ですから」

 「じゃあ命令よ!その口調を止めなさい!逃げないで、そうやって奴隷だからって!自分を卑下して……私から、どうして離れるのお前は!?」


 お嬢様は矛盾している。奴隷と言うなと言いながら、お前は人間よと言いながら、僕を繋ぎ止めたいがため、お前は私の奴隷だと口にする。


 「お嬢様……」

 「瑠璃の嘘つき!瑠璃なんか、大っ嫌いっ!」

 「お嬢様!」



 *


 そして、終わりはすぐに。その数日後だったと思う。

 扉の前のノック音。僕の時が氷ったその刹那。お嬢様が踏み込んだ。旦那様の部屋に。

 一番見られたくない僕の姿を見られてしまった。お嬢様は壊れたように一度微笑んで、手にしたそれを振り下ろす。

 それは何か。斧だ。木を切り倒すための。この瞬間、お嬢様は木こり。旦那様は一本の木だ。

 お嬢様は振り下ろす。気が動かなくなってもまだ。許せないと振り下ろす。


 やがて体力の限界に来て……お嬢様は得物を放した。新しいドレスが、返り血でベトベト。それでもお嬢様は笑っていた。泣きながら、笑っていた。



 「愛しているわ、瑠璃椿……」

 「お嬢様……」

 「お前は私の物なの!誰にも渡したりしない!!」


 もう手に入らない。父親からの愛。そんなもの、もう要らない。お前さえいればいいとお嬢様が言う。たった一つを選んだ。他の何を捨てても構わないと彼女が告げる。

 とても罪深い愛の告白だ。それでもあの日の僕は……私は、嬉しかった。涙が止まらなかった。天にも昇る心地だった。

 彼女に手を引かれ、走って逃げて……追い詰められてもそれでも、幸せだった。

 最後にと迫られた口付け。今なら解る。お嬢様はもう死んでいた。奥様がお嬢様を完全な肉塊に変える前に、お嬢様は死んでいた。僕の毒で、口付けで。出血多量より先に、おそらく毒が回って。

 間際の死が少しでも安らかな物に変わっていたならと切に願う。それでも屍毒ほど即効性のある毒ではなかったから、何振りかは確かに痛かったと思う。お嬢様……お嬢様。お嬢様、死んでしまった。

 お嬢様はもう死んでしまったのに、奥様はまだ斧を振り下ろしている。旦那様を殺したときのお嬢様みたいに、何かに取り憑かれたように何度も、何度も。


 「瑠璃椿……これでようやく二人きりだわ」

 「僕は貴女の物じゃない。貴女の物にはならない」


 僕は伸ばされた手を拒絶して、思い切り舌を噛む。だけどそんなにすぐには死ねなくて、唯痛いだけ。


 「馬鹿な子ね……奴隷が主の命令無しに勝手に死んで良いと思うの?」


 倒れた僕を抱きかかえ、傷口を舐めるように彼女が口付けてくる。お嬢様との余韻も上書きして消してしまえと。

 そうだ。それは当時の僕も知っていた。唾液の毒まで致死に至るものだとは知らなかったけれど、僕の血が、涙が毒とは知っていた。僕を刺した蚊は死ぬ。僕を刺した蜂も死ぬ。僕を咬んだ蛇も死ぬ。犬も子猫も。みんな死ぬ。僕は待っていた。その時を。

 屋敷にやって来る虫や小動物を、過去に殺してしまったことがあったから。その毒が人を殺せるまで強くなるのを僕は待っていた。この間食用に運ばれてきた羊も死んだ。その次は牛も死んだ。ようやくだ。

 唯、決心がなかなか付かなかっただけで。思いの外旦那様は本当に僕を大切にしてくれたから。

 だけど……そうだ。僕はいつかは旦那様も殺すつもりだった。愛した振りをして、殺すつもりだった。与えられる心を利用して。お嬢様が手を汚さなくても良かった。もう少しで終わるはずだった。僕はまんまと養子の座を得て、この家を継いでお嬢様の傍にいられる……そのはずだった。


 「瑠璃……椿?」

 

 こんな事になってしまった以上、この人だけは許さない。したいならすればいい。口付けたって僕は貴女の物にならない。だって貴女はここで死ぬ。

 絶命の瞬間彼女は見ただろう。僕が笑っている顔を。

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