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37:Plenus venter non studet libenter.

 「…………何よこの部屋」

 「まぁ、聞けよ兄弟」

 「って言うか誰が誰の弟ですって?」


 帰って来るなりロセッタは見るからに嫌そうな顔で室内を見舞わした。それを俺は宥めたが、火に油だったようだ。


 「っていうか財布の方はどうなったんだよ?」

 「…………」


 何かを思い悩むように口ごもる彼女。それを不審に思ったらしいリフルが彼女に尋ねる。


 「ロセッタ?」

 「五月蠅いわね!あんたらがもたもたしてたから見失っちゃったのよ!」


 しかしそれは彼女の怒鳴り声によって切り捨てられた。そして怒りを持て余し気味のロセッタの矛先は、再びこの部屋の内装へと向けられる。


 「にしても何なのよこの悪趣味な部屋は」

 「まぁ、それについては俺も同感だ」


 目に優しくない蛍光ピンクの内装。嫌がらせかと思うようなダブルベッドに、硝子張りの風呂場。明らかに普通の宿屋ではない癖に、普通の宿屋の10倍の宿泊値段。普通のこういう宿は、普通の宿屋より休憩料金とか安くないか普通?だって裏町の看板に書いてあるのはもっと安かった。宿無し時代は何の店か解らずに一人で宿泊したこともある。隣室から聞こえる声に、これはなんか違うと思って次から野宿するようになったが。

 まぁ、この宿については食事が別料金ではないことだけが唯一の救いだろうか。とか思っていたら家捜しをしていたリフルが不満そうな顔をしている。スイッチが見つからなかったとのことだ。


 「ところでこの寝台は回らないのか?第一その他小道具が常備されていないとは。湿気た部屋め。王都の店なら小さな店でもあれとかそれくらいは余裕で……」


 元奴隷の奴隷根性にはもう俺も涙を禁じ得ない。どうしてこうなった。俺の俺の俺のリフルが……昔はこんなんじゃなかったのに、たぶん。自ら自分の地雷とトラウマに踏み込んでいくその度胸にはもうおれも脱帽だ。っていうかトラウマと人格が密接な関係性にありすぎてもう何が何だか。こんな女みたいな顔しててもこいつも男だし、年相応にエロいことには興味あるのか。しかしそんなしれっとした顔で、そんな台詞を言われても此方が困る。そもそも回ったらどうするんだよお前は。


 「うん、一人だけこの妙な空間に馴染むの止めてくれなご主人様。お願いだから」

 「撃ち殺してもいい?」


 これ以上の猥談はロセッタの逆鱗らしい。漆黒の銃がリフルの方へ向いている。


 「それはさておきだ。何でも十数年前までは第四島より第二島の方が観光収益が上だったらしくてな。セネトレア夏場の避暑地として人気だったらしい」

 「それがまぁ、この世界情勢の所為ですっかり落ち込んでいたとかで最近キャンペーンを始めたらしいんだが、俺たちはそのキャンペーン目当てでやって来た客と勘違いされたみたいだぜ」

 「キャンペーン?」


 この宿周辺で聞いた情報を告げればロセッタが首を傾げる。


 「第二島は触媒の宝庫なんだろ?触媒ってのは鉱物だって話しだし、ここは宝石の産地としてはなかなからしいじゃねぇか。その宝石で金と暇を持て余したカップルを釣り上げようって話らしいな」

 「それで何故か私とこいつが勘違いされたんだ」


 いろいろとぼったくりの店は多いが、宝石類は都で買うよりいくらか安く手に入る。そしてその品質も良い。町興しのその取り組み自体はそう悪いものではないようにも思う。アスカがそれを告げれば、ロセッタは呆れたような視線を向ける。


 「そりゃいっつもそんなに気持ち悪いくらいベタベタしてれば勘違いもされるでしょうよ。っていうか本当に勘違いなのかも怪しいくらいだわ。実際あんたら出来てるんじゃないでしょうね?止めてよね同じ部屋で妙なことするのとか」

 「普通にしねぇよ!!」

 「……善処する」

 「そうやって曖昧なこというの止めようぜ!な!?」

 「いや、何時私の邪眼やアスカの禁断症状が暴走するかわからないから言い切ることは難しいと思ってな」


 出来ない約束をするのはあまり褒められたことではないと頷く主。その言葉だけなら十分立派なんですがね。


 「まぁ、冗談はこの辺までにしてだな。君も男共と同室は嫌だろう?もう一部屋借りておいたから好きに使ってくれ」

 「え……?」


 自然に女の子扱いされたことに、ロセッタが驚きながら顔を赤らめる。女装しながら恰好付けるも何もないような気もするが、こういうのをさらっと言える辺りがこいつが天然たらしたる所以だろう。案外邪眼なんかなくても十分今と似たような状況作ってそうで怖いと思うのは俺だけか。


 「どうしてもアスカと同室が良いと言うのなら私がそっちに行っても良いが」


 しかし自分への好意のスルースキルは半端じゃない。自分でフラグ立てるだけ立てて片っ端からへし折っていく様は天然鬼畜だなおい。


 「はぁ!?何で私がこんな男と!!嫌よそんなの!!」

 「俺だってお断りだ!この嬢ちゃんは俺のストライク完璧アウトなんだよ」


 おい、止めてくれよ。何その嫌がってるのが逆にそれっぽいみたいなしたり顔。今だけは確かに気があってるさ。だって本当に嫌だし。


 「大体今お前はな、新婚旅行に来た人妻生娘ってことになってるんだぞ!?そんなん一人部屋にしてみろ!すぐに襲われるっ!!お前は今は稀少なタロック女になんだからな!」

 「私は既婚者でもないし人妻でもなければ生娘でもない上にそもそも娘でもないのだが、大嘘もここまで来るといっそ清々しいというか笑えるな」

 「仮に何事もなかったとしても、二人部屋を義弟に取られて嫁と添い寝も出来ねぇってんじゃ俺は何か妙なレッテル張られて笑いものにされるぜきっと!」

 「いいじゃない別に。そういうへたれってことで」

 「いいわけあるか!嫁入り前の俺の主を何処の馬の骨とも知れん娘と同衾なんてさせられるか!」

 「それ逆っ!心配されるの普通は私っ!私でしょ!何で私が襲う側みたいな言われ方してんのよ!!」

 「というよりアスカ、お前は私を何処に嫁がせる気なんだ?」

 「っていうか何であんたはそんなおめかししてんのよ!私はこんな男装させられてるってのに!!」


 確かに今のこいつはさっき買った服に着替えていた。結局耳飾りは耳に付けずチョーカーのペンダントトップ代わりに付けられている。なんだかなぁとも思ったが、似合っているので文句は言えない。むしろあっちの方がおまけみたいでざまぁみろとか思って認めることにした。

 しかしロセッタからしてみれば、帰ってきた途端になんじゃこりゃあという話。自分はおしゃれ所か男装させられているのだ。女としてのプライドが傷付けられていることだろう。土産の一つでもあったならまだあれだったが、そういや俺……この嬢ちゃんには何も買っておいてなかったわ。いや、だってそんな発想なかったし。

 怒り出す彼女を静めるために、リフルは彼女と渡り合っているが、如何せん気迫で負けている。


 「いや、普通に恰好良いぞ?うっかり惚れそうになった」

 「そんなお世辞全然嬉しくないからっ!!」


 このまま放置してもたぶん何時までも続く。こういう時は話題を逸らすのが一番だ。


 「まぁ、落ちつけって。部屋割りは後で考えるとして、そんなことよりロセッタ、街の方で何か情報は見つかったか?」


 おまえのことだから財布捜しだけにこんなに時間を費やすはずがない。俺がそれを告げれば彼女は頷いた。


 「近場の教会まで行って、情報引き出しに行ってたんだけど、最近この島に客が減ったのって誘拐事件と関係してるのよ」

 「誘拐事件?」

 「なんか物騒だな」

 「歩く物騒野郎共には言われたくないとは思うけどね」


 そんなあんまりな前置きの後、ロセッタは仕入れた情報を語り出す。


 「観光地合戦の風評被害何だかどうか知らないけど、カーネフェリー男が殺されるだの、タローク女は攫われるだの、まぁそんな噂ね。混血が殺されるのはまぁよくあることとして」

 「よくある事って……」


 第二島の恐ろしさはそこだ。金になる混血を金にしないで殺す。にわかには信じられないが、あそこまで金に五月蠅い人間達が、金より優先することがあるのだ。


 「そもそも第二島でそこまで混血狩りが盛んになったのは……薄まったタロックの血への劣等感によるものだったか?」

 「そんな話だったな確か」


 タロックから独立して、その結果カーネフェルの血が混ざった。髪や目の色が薄まったこと、これがセネトレア人のコンプレックス。そこに生まれた混血は恰好の餌。自分たちの優位を保つためには、見下すための相手が必要だったのだ。だから混血が祭り上げられることがないように、彼らを人とも認めないように迫害を始めた。


 「金儲けを知った民は、金の欲から逃れられない。だけど第二公は島の発展よりも、血を重んじているような節があるみたいね。その食い違いがこの街を微妙な空気にしているんだわ」

 「なるほどな……つまり金に五月蠅い連中は、まだ信用できるってことか?」

 「それはどうかはわからないわ。見つけ次第標的を引き渡すルートが出来上がってる可能性はあるもの」

 「……その可能性はあるな」


 三人揃って溜息。それでもロセッタは顔を上げる。


 「でもあんたらが恋人だって勘違いされてるのはラッキーかもしれないわ」


 いきなり言葉の方向が逆走しているような気がするが、ロセッタは冗談を言っているような顔には見えない。


 「ここ最近、別人種同士の恋人が来ると死体で見つかるって事件が何件か上がっていたわ。混血を作る要因は根っから排除っていう純血至上主義者団体ががこの島に巣くってるのは間違いないわ」

 「おい、そりゃあまた危険なことを俺らに押しつけやがったな」

 「仕方ないでしょ。私男装してるし。私が黒髪演じたところで、あんた私と恋人ごっこなんか絶対したくないでしょう?私だってお断りよ」

 「しかしそういう話なら、何とかなりそうな気もするな。上手く行けばもっと多くの情報を手にすることが出来そうだ」


 それでも室内には緊張感が漂う。これからの計画を念入りに立てる必要があるのは間違いない。ごくりと息を呑む。そんな緊張感をぶち壊す、笑い声が隣室から響く。


 “ぎゃははははははははははは!マジウケるっ!何だこれ!変なスイッチあるぜ!?”

 “きゃあ、ちょっと!もうっ!部屋が散らかるから止めて!そもそも私達は遊びに来たわけじゃないのよ?”


 「って隣の部屋、うっせーな。ちょっと文句言ってくるか」

 「あ、アスカ」


 防音数術は此方側の情報を外に漏らさないだけで、外からの音は聞こえる。それではいざという時に困ることがあるからだ。しかしこのように騒がしい隣人の訪れには、別の数術が必要だろう。それがないなら、話し合うしかない。主に肉体言語あたりで。


 「ゴルァアアア!うっせーぞ!!どこのバカップルか知らねぇが、少しは他人の迷惑ってのを考えやがれ!騒音公害で訴えんぞ!!」

 「アスカ……」


 防音数式の外、廊下へ出て隣室のドアを蹴りまくる俺を、リフルが微妙な笑みを浮かべて何か言いた気に見つめていた。


 「本当、すみません!ほら、ロイルも謝って……ってあ、アスカさん!?」

 「り、リィナ!?」


 扉の中から出てきたのは、大きなリボンで結われた柔らかい長い金髪、俺の緑より明るい森林の緑の目のカーネフェル人の少女だ。そのはち切れんばかりの見事な胸をして、少女と形容するのもどうかと思うが法律上二0歳以下は少女と言うことになっているから問題ない。彼女は俺のリフルと同い年だから今年で確か18だ。十分少女。


 「あ、アスカじゃねぇかよ。何でお前こんな所にいるんだ?」

 その後ろから現れたのは、夏だって言うのに見るだけで暑苦しいタロック人の青年。セネトレア生まれにしては色濃い黒の髪と瞳。光の反射加減で所々高貴な紫に見えなくもない。外見色だけなら、黙っていればそりゃあそれなりには見える。しかし中身がバトル馬鹿のロイルである以上、ロイル以下はあってもロイル以上には見えないだろう。っていうかロイルは単位じゃねぇよ。やばい、混乱しすぎて変なこと言ってるわ俺。でもそれも仕方ない。行方死れずの昔なじみにこんな所で再会したんだ。


 「……そ、それはこっちの台詞だ!!っていうかお前ら生きてたのかよ!!っていうか再会がこんなラ●ホ擬きの宿屋ってどういうことなんだ!?とうとうお前ら結婚したのかおめでとう爆発しろっ!!」

 「ケッコン……?何それ、食いもん?」


 あ、この様子ならそれは無さそう。それだけは安心した。同い年の顔見知りに先越されたかと思ってちょっと焦った。しかしちょっと待て。それって時間の問題じゃね?俺に相手いねぇよ!!俺のフラグってどうなってるんだおい。現時点でうちのご主人様くらいとしか立ってなくね?その辺どうなんだよ。で、ディジットとのフラグとかってあるの?どうなの?


 「あら、その違和感のないのが違和感な姿は……リフルさん、どうもお久しぶりです。あら、そっちの子はフォース君ですか?暫く見ない内に随分恰好良くなって」


 馬鹿のロイルとは違って、半年見ないだけでリィナは綺麗さとか女らしさに磨きがかかっているような気がしないでもない。どことなく服が以前の物より上品だ。以前は戦闘の動きやすさを追求したような軽装だったが、これはこれでなかなか。おっとりしている彼女によく似合っている。


 「何処の誰か知らないけど、フォースの馬鹿と私を一緒にするなんて宣戦布告と受け取ったわ。良いわこの場で撃ち殺してやるわよ」


 しかしその言葉とそのスタイルは俺たちの中の約一名に喧嘩を売っていた。いわずもがな、ロセッタである。


 「おお!!そいつは教会兵器って奴じゃね!?よっしゃ!一発バトろうぜ坊主っ!」

 「私は坊主じゃないって言ってんでしょっ!!」

 「お前ら人目に付くと怒られっから室内でやれよ。あと物壊したらお前ら弁償しろよ。俺は鐚一文たりとも出さねぇからな」


 血気盛んな二人を室内に追いやって、扉を背で閉める。防音数式内なら騒いでもまぁ怒られはしないだろう。

 廊下の女二人(正確には誤り)の会話に意識を戻せば、品のあるタロック美人とカーネフェル美人のやり取りはどうしてなかなか目の保養。少なくともあのバトル馬鹿の相手をするより100倍は。


 「良かった。なかなか情報にもヒットしなくて心配していたのだが……元気そうで良かった」

 「心配おかけしてごめんなさい。うちの兄さんったら本当に人のこと扱き使ってばかりで」

 「……………」


 ヴァレスタの話題になって、リフルが固まる。リィナとヴァレスタには確執があるとはいえ、身内であるのは間違いない。その男を半殺しにしたのはリフル自身だ。謝ることは出来ない。そのくらいのことをあの男はした。それでもリィナを……どんな顔で見ればいいのだろう。そんな沈んだリフルの両手を優しく手にとって、リィナが穏やかに笑う。


 「別にリフルさんのことは怨んでいませんよ。私、兄さん大嫌いですから」


 実に良い笑顔で彼女は、そう言い放った。これには俺もリフルも絶句した。


 「むしろ死んだって聞いたときはパーティの準備をしてました」

 「り、リィナ……」

 「そのパーティを始めようと思った瞬間に兄さんが帰ってきて、私もう泣きたくなりました。やっと死んだと思ったのにって」


 リィナはいい笑顔で舌打ちまでやってくれた。なんとなく彼女がヴァレスタを憎んでいるのは本当なんだなと実感した。穏やかなリィナをここまで起こらせるとは、あの男は一体何をしでかしたのだろう。


  「……私とロイルが引き受けた依頼、覚えてますか?」


 俺の代わりに二人が引き受けた依頼。それはアルムとエルムの救出だった。


 「私達、エルム君を連れ戻そうと思ってたんです最初は」


 最初は。リィナは妙に歯切れの悪い言い方をする。


 「だけどエルム君、もう西には帰れないって。どんな顔をしてディジットさんに会えばいいのかわからないって泣いていました」

 「………そうか」


 解るよ。そう言わんばかりに頷くリフル。俺も今更になって少しだけそれを理解した。あのエリザベス改めエリザベータ。あの女にしてやられた時、誤解されたと思った。どんな風に罵られるだろう。拒絶されるだろう。見下されるだろう。軽蔑されるだろう。それを思って恐怖した。何もなくても、あれだけ脅えた。それじゃあ、実際何かがあったエルムは……どんな風にディジットを見ることが出来ただろう?大好きだった人の所に、どんな顔をして帰ればいいのか。それに一度、彼は捨てられたのだ。

 俺は違う。それでももしリフルにお前はもう要らないと言われて。それでしつこく追った先、どんな目で見られるだろう?拒絶の先の恐怖。それは俺の知らない恐怖。あいつはそれを見たんだ。

 ディジットを刺したこと自体は許せない。それが事故でもだ。それでも……彼の境遇は哀れんでやっても良い。


 「そんな時に彼は悪魔に出会ったんです」

 「悪魔……?」

 「ええ、兄さんは悪魔です。悪魔は真っ当な取引なんてしません。心の隙に付け込んで、約束をし、約束させます。そしてそれを破らせないよう破れないような状況を作り上げます」

 「え、ええとつまり?エルムはあの人に言いくるめられたってことなのか?」

 「いいえ。最初はそうでしたが、最近はそれだけでもないようなんです」


 リィナの言葉はやはり要領を得ない。


 「先日エルム君、ディジットさんに怪我を負わせてしまったらしいじゃないですか」

 「ああ……」

 「それが精神的に結構来てしまったようで……」

 「それは罪悪感でか?」

 「いえ。勿論それもあるでしょうけれど、もっと別のものだと思います」


 リィナは俺の言葉を否定した。


 「私もクレプシドラちゃんから聞いた話なのでなんとも言えないのですが、ディジットさんはアルムちゃんを庇ったでしょう?」

 「らしいけど……」

 「そうか。彼は……今度こそ、見捨てられたと思ったんだな」


 何事かを理解した、リフルがそう呟いた。それにリィナも黙したまま小さく頷くのが見える。


 「エルム君はアルムちゃんと同じじゃ嫌なんですよ。そういう物でしょう?誰かを好きになる事って」

 「しかしディジットはアルムを庇った。それはつまりアルムの方が大切なのだと……言っているようなものだ」

 「ディジットに限ってそんなことは」

 「ああ、ない!だが、彼がそう感じた時点でもうアウトなんだ」


 何とも理不尽な言葉だ。それでもそれは不思議な説得力がある。


(ああ、そっか……)


 大人しくて、何でもこなしていたエルム。大人びていても、あいつもまだ……子供だったんだ。だから子供の考えることに、理屈は通用しない。子供は心で生きていて、求める物もまた心。彼の中で認定された。ディジットは自分を愛してはくれない人なのだと。


 「昔のエルム君ってちょっと影の薄いところがあったでしょう?」

 「ああ」


 リィナが別口でそう切り出した言葉。それにはアスカも頷く。それは知っている。よく知っている。いつも姉の影に霞んでいたあの少年。何も出来ない、手間ばかりかかるそれでも不思議と愛されるのは彼ではなく彼女。何でも出来る彼ばかりが、いつも人から忘れられる。

 だから俺も気がついたときはなるべく構うようにはしていた。それでも……気付かないことも多い。俺だってやることはあった。一日中暇して生きてはいない。


 「だから尚更、響いたんです。兄さんの言葉が」

 「…………そうか。残念だが彼を連れ戻すのは、もう無理なのかもしれないな」


 リィナの言葉にリフルは、そう結論づける。それは俺がこいつの口から聞く……初めての諦めだった。


 「な、何言ってるんだよお前……」


 これまで一度もそんな事は言わなかったのに。チャンスがあれば何とか説得して……そう諦めずに来たじゃないか。それがどうして今になって……それを俺が目で問えば、リフルは力なく首を振った。


 「…………道具としてでも必要とされたい。傍にいたい」


 それはやけに感情の籠もった呟き。彼自身それを知っていると言っているようだ。


 「そういう人間はああ言うタイプの人間に引っかかると弱いぞ。……私のお嬢様も我が儘だったが、そういう所まであの頃の私は好きだったからな」


 その人が人殺しでも、そんなことどうでも良くなるくらい。その人が共に死のうと言われたら断れないくらい……愛した人がいたと俺の主が呟いた。


 「今彼とエルムを引き離すのはエルムにとって幸せなことではないのかもしれない。ディジットを失った以上……彼の居場所はそこしかないんだ」

 「でも……それじゃあ、お前」

 「私も腹を括るよ。彼は彼のしたいように生きる自由がある。その自由の先の選択で、対立することがあれば……私はまた一つ罪を背負う覚悟で彼と戦うまでだ」

 「…………リフルさんって本当、優しくて……冷たい人ですね」


 引き留めれば、揺らぐかもしれない。そんな決意を見送ってそれを自由と呼び止めないそれを讃え、彼女は非難。


 「……私には無理だよ。彼一人だけを誰よりも、あのディジットよりも必要として愛してはやれない」


 ディジットに出来なかったことが、自分に出来るはずがない。それは真理だった。


 「だからといってヴァレスタのように、彼に命令なんて私は出来ない。それはつまり、彼の望む必要のされ方とは違うのだろう」


 私では無理だ。溢された弱音。それにリィナは小さくそうですかと呟いた。


 「私達はまだ依頼を終えていませんから。エルム君がどうするのか、どうしたいのかを最後まで見守りたいと思います」


 依頼はそれまで彼を守り助けることだと、リィナは解釈しているようだった。


 「……ん?それじゃあここにエルムも来ているのか?」

 「いいえ、今回は私達休暇中なんです」


 もしやエルムと落ち着いて話が出来る機会なのだろうかと、尋ねてみるもリィナに否定されてしまった。しかし今妙な単語が聞こえたような気がして、アスカが聞き返すと、リィナは笑って休暇と言った。


 「半年間給料無し!休日も無し!兄さんに扱き使われてきたんですから。兄さんに文句言って有給取ってバカンスに来たんですよ」

 「それはまた……法律無視も良いところだな」


 身内を身内だからって、そこまでの劣悪環境で酷使していたとはおそるべし金の亡者。

 アスカとリフルが再び言葉を失えば、リィナは肩をすくめて小さく溜息を吐く。


 「エルム君も無理矢理連れてこようとしたんですが、駄目でした。もう兄さんにべったり……彼不安になると仕事頑張るタイプの子みたいで。だから兄さんもわざと冷たくしたり……本当にもう、あんな男の何処が良いんだか、うちのロイルの方がずっといい男だと思いません?」

 「そうだな……」


 ちょっと肯定しそうになった。しかし部屋に戻った俺は、その言葉への同意は今後一切あり得ないような気がした。


 「………うん、なんだろうな。このデジャヴ」


 何がどうなったのか。隣室との壁に大きな穴が開いていた。


 「お前ちっこいわりに割とやるなー」

 「誰の胸が小さいですって!?」


 全く会話が成立していない辺りは流石と言うべきか。

 二人はそこまで大きな怪我はない。しかし室内への損害は壊滅的な物だった。


 *


 「本当にうちのロイルがごめんなさいねロセッタさん」

 「別に良いわよ。とりあえず視覚数術で誤魔化しておいたししばらくは大丈夫でしょ」


 リィナの平謝りに、ロセッタはと言えば……解ける前にとんずらしましょうと平然な顔。これが仮にも正義を司る聖教会の一員かと思うと世も末だ。


(酷ぇ……)


 アスカは心の中でそう呟いたが、よくよく思い返してみれば……別にそんなこともない気もする。


(まぁ俺も大分ぼったくられたしこれでお相子だろう)


 むしろもう一穴くらい増やしておいても良いくらいだ。


 「所で」


 室内に運ばれてきた食事を口にしながら、リィナがそう切り出した。


 「これ、毒盛られてますね」

 「マジで!?……言われてみれば、ちょっと眠ぃな」

 「もう……最近ロイルの鼻も鈍っちゃったわね」


 ロイルとリィナは戦闘請負組織。元々ロイルはセネトレア王候補でもあったらしくてよく命を狙われていたようで、その毒殺を防ぐために、リィナに毒への免疫を付けさせられたらしい。以前俺も毒入り料理を食わせられているロイルの図を見たことがある。


 「……言われてみれば、確かに数値が変ね」


 ゴーグルで料理を見つめ、それがおかしいことを悟るロセッタ。元々が貧乏性なのか、食う物に困ったからなのか、美味そうな飯を前に油断していたのだろう。気取っていてもやっぱりまだ子供か。


 「ソースの味が濃いと思ったらそういうことだったのか」


 全員毒の耐性があり過ぎて、ここまで誰も気付かないとは。それにしたって情けない。

 しかし俺も人のことは言えない。リフルの毒を食らったこともあるし、この中で毒人間のリフルを除けば、俺が最も抗体が高いはず。その自信が生んだ慢心だ。


 「普通にいい素材を使っているなと思ったのだが、そうか盛られていたか」


 そしてその人間兵器、毒人間様と言えばこの通りである。それが毒と気付いた後も気にせずぱくついていらっしゃる。ここで残しては勿体ないと、素材の命を哀れんでのことだろうか。貧乏性っていった奴表に出ろ。うちの子に限ってそんなことねぇんだからな!


 その様子に全員が、まぁ何かあったらこいつに解毒して貰えばいいかと再び箸を進める。実際それなりに料理は美味かったのだ。


 「しかし盛ってきたということは、この宿にも何らかの目的があると言うことだな。とりあえず私はもうしばらくしたら囮になろうかと思う」

 「んだな。俺も一応倒れた振りはしておくか」

 「私もそうしようかしら」

 「んで?お前らはどうすんだ?今この辺でタロークカーネフェリーのバカップル見つけては誘拐、殺害する事件が起きてるらしいぜ」

 「まぁ、そうなんですか?」

 「マジかよ。そりゃ面白そうだな」

 「まぁ死なない程度に、後俺らの仕事邪魔しねぇ程度に好きにしてくれ」

 「そうですねそれじゃあ私達は隣室に戻って様子見てましょうか。壁に穴開いてますし。リフルさんの恰好から真っ先に狙われるのはリフルさんでしょうし」

 「まぁ、そうなるな。いいかロイル?こいつがちゃんと攫われるまで勝手に暴れたりするんじゃねぇぞ」


 そう言い聞かせれば生返事が返された。微妙に毒が効いているのか、それとも食い過ぎで眠いのか。


(まぁ、こいつの場合はちょっと大人しい方がありがたいな)


 本当に毒ならリィナが何とかするだろうし。そうでもないところを見るにおそらく後者なのだろう。

 壁の穴から隣室へ戻っていく二人を見送って、ロセッタに防音数術の解除を頼む。


 「うぅ~……ん、なんだか……私、眠く……」


 それっぽいことを言ってテーブルに倒れ込むリフル。


 「ったく、しょうがねぇな」


 と言いながら俺はリフルを寝台へ運ぶ。と同時に……


 「……なんだ、急に眠気が」


 とかいいつつ床に倒れ込む。


 「ったく何してんだよ二人とも……………」

 と俺たちを馬鹿にすると同時にロセッタもテーブルへと突っ伏した。その演技は豪快だ。料理に顔面からぶっ倒れるという荒技。如何にも眠気で気を失いましたっぽさが出ている。何だかんだ言って本人が、一番女らしさを捨てている節があるのは俺の気のせいだろうか。

 何てことを薄めで観察していたが、部屋の前に駆けてくる複数人の足音。


 「薬が効くのが遅かったな」

 「ふん、どうせ新婚のバカップルのことだよ。はーい貴方ぁ、あーんとか阿呆なことやってたに違いないよ」

 「そうだねぇ。ご飯にするお風呂にするそれとも私?とか言いつつ前戯か一発くらいやったのかもしれないねぇ」


 してねぇよクソ婆!!


 「なんと、許せん!!タロックの血を汚す金髪族め!!あんな俺好みの少女の柔肌を蹂躙したと!!」


 想像で人を強姦魔みたいな言い方すんな変態親父っ!!お前らどんだけそこらの恋人に怨みあるんだよ。


 扉が開けられる。足音が近づいてくる。それは俺を通り過ぎ、あいつの所へと向かう。

 その背後で老婆二人が爆笑している。流石ロセッタ。流石は教会裏方。そのままあの婆二人を仕留めるつもりだな。咳き込ませてそのまま昇天させようとは。


 「ぶはっ!!間抜けじゃのうっ!!お前ちょっと売店から使い捨てカメラ持って来るんじゃ!」

 「くく、くくく!!い、嫌じゃ嫌じゃ!それは姉様が持ってらっしゃれ!儂はこの阿呆な少年をもう暫く嘲笑っておりたい!!」


 怒りの余りロセッタが痙攣し始めた。あ、でもそれ毒が効いてるっぽくて良いアドリブだ。老婆達なんかこのままロセッタが窒息するか毒で死ぬかを賭け始めそうな勢いだ。


 「お前達!いい加減にしろ!本分を忘れたか!?」

 「おお、そうじゃったそうじゃった」

 「どうしても年を取ると物忘れが酷くなってのぅ」

 「ふむ。しかし室内に妙なところはないのぅ。寝具も備え付きのティッシュも綺麗なもんじゃ」

 「さてはこやつへたれじゃな。嫁に手出しも出来ぬとは」


 うるせーよ、ほっとけ婆シスターズ。


 「いや、弟が目の前にいたんじゃしかたないだろう」


 何故か店の親父が俺を哀れんでくれている。しかしそんな言葉に、老婆二人は怒り出す。


 「そんなんだからお前はいつまで経っても嫁が貰えんんじゃよ馬鹿倅が!」

 「そうじゃそうじゃ!老体にいつまで働かせるつもりじゃい!!」

 「うっせーよクソ婆ぁ!!この死に損ないが!!俺は生まれた時代が悪かったんだよ!!」


 話を聞くにどうやらこの二人は店主の母親とその妹か姉らしい。


 「俺だって……俺だって!」

 「馬鹿者が!この娘は公爵様のところへの貢ぎ物だと言ったじゃろう!女なら隣の部屋の金髪女でも襲うがええ!」

 「そうじゃそうじゃ!混血が生まれる前に殺せば問題ないとお偉いさんらも言っとった」

 「そ、……そうだな。もう少しの辛抱だ。俺も嫁を買う金が手に入る……」


 そんな言葉を残して、三人は部屋を出て行く。目を開ければあいつはいない。担がれていったのだろう。


 「よし、行くぜモニカ!ロセッタ!」

 《ええ!》

 「……ちょっと待った」


 起き上がり、後を追おう。そう決意したアスカに、ロセッタは気が萎えるようなことを口にする。


 「な、何だよ」

 「あんたの足じゃ馬車使われたら無理でしょ?」


 そう言ってソース塗れの顔を綺麗なシーツにこすりつけるという嫌がらせをやってのけた。あれはこの店の奴ら驚くな。いや、まぁざまぁみろだが。

 そうしてさっさと洗顔までしてさっぱりしたロセッタは、そのまま窓の方へと歩いていく。


 「え……?おい、お前何やって」


 ロセッタが窓をぶち破ったその音。それに続いてけたたましい足音が近づき扉を蹴った。


 「んじゃ、私があいつ追うからあんたはこっちの雑魚片付けよろしく」

 「ちょ、それは俺の役目っ!待てコラぁっ!!」


 腐っても後天性混血児。驚異的なスピードであっという間に見えなくなった。一方残された俺は、ぞろぞろとやって来る侵入者、その数ざっと十数人。しかし宿の外も騒がしい。ロセッタの所為でこっちに人が集まってきているようだ。


(あんのクソアマ……っ!!)


 《どうするのアスカニオス?私リフルちゃん追うの、1キロ越えたらほんと無理》

 「くっそ……こうなりゃ俺の秘技を見せてやるか」


 アスカは大きく息を吸い、腹に力を入れる。侵入者達も何か大技が来る。それを察して身構える。


 「ロイルぅうううううううううううううううううううう!こいつら全滅させたら本気でバトルしてやっぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「マジでっ!?」


 眠気なんてなんのその。バトルと聞けば瞬時に目を覚ますのが生粋のバトル馬鹿というものだ。たまにまちがえてバカとかボルトとか聞いても飛び起きる阿呆だが。こういう時は役に立つ。壁の穴をもう一つ増やして……いやその瓦礫で何人かを押しつぶしながらロイル登場。


 「ああ。本当本当。街一個壊滅させられるなんて滅多にねぇぜこんなチャンス。頑張れロイル。凄いぜロイル。お前の武勇伝がまた一つ増えるな」

 「もうっ!アスカさん、あんまりロイルを調子に乗らせないでください!!」


 そう言いながら視覚数術の効いている壁の穴から毒矢を飛ばすリィナ。素敵にあざとくいらっしゃる。それに気付かず結構な人間が餌食に会う。それを容赦なく俺が止めを刺す方向で。いや、こいつらと共闘するの久しぶりだが、やっぱやりやすいな。昔の感覚が少しずつ戻ってくる。


 「ロイル!程ほどにしないと万が一器物損害賠償が兄さんの方に来てみなさい!半殺しに遭うわよ主にエルム君が!」


 どういう関係なんだ。gimmickの連中は。俺が潜入していた頃と大分事情が変わっている。


 「んー…でもさリィナ。レスタ兄って確かこの島のおっさんが従わなかったしバカンスついでに壊滅してこいって言ってなかったか?」

 「そうね。そう言えばさっき私のこと慰み者にした挙げ句殺そうとか言ってた阿呆も居たわね……うふふふふ」



 根に持っていたらしいリィナ。そりゃあそうだ。いくら何でも女装男の代用品とか言われたらブチ切れても仕方ない。でも小声でどうせならリフルさんの猛毒もらっておけば良かったとか言いながら矢を引き絞るの止めて、怖い。


 「よくわかんねーけどリィナを悪く言った奴は許さねぇ!血祭りに上げてやんぜ!」


 ロイルもロイルで三文字以上の言葉を覚えられないのか覚える気がないのか。ディジットの名前覚えたのが奇跡に近い。頑張っても五文字なのか。多分そうなんだろう。そんなバカと美女のバカップルもなんだかやる気になってくれた。


 「そうかそうか。それじゃあ頼んだ」


 ここの手下みたいな連中締め上げたところでろくな情報引き出せそうにない。それならあいつを送りに行ったこの宿の奴らを帰り際に襲うのがベター。せめてそこには間に合うように駆けつけなければ意味がない。


 「今度こそっ、行くぜモニカ!」


 ロセッタの壊した窓から俺も外へと躍り出る。


 「モニカ、足ブースト!頼んだぜ!」

 《はーい》


 この間は剣に宿った、風の精霊を靴に宿らせる。足が軽い。一歩一歩の飛距離が長い。滞空時間も向上。

 あの連中は公爵云々と言っていた。だから向かうは公爵の城のある方角。1キロ圏内に入れば、モニカがそれに気付く。身動きが取れなくても、首くらいは動かせるはず。チョーカーとそれに付けられた十字架がカタカタと音を鳴らす。


 《1キロ圏内、入ったわ!》

 「よし来た!」

  《ってアスカニオス!あれっ!前方右の方!》


 モニカの言葉通りの方を見やれば、半壊し傾いた馬車。既に帰り際にロセッタに破壊されたらしい。


 「まったく……荒い攻撃だな」


 しかし見事だ。拉げた車内。あれでは脱出不可能だ。おそらく尋問などは行っていないのだろう。情報収集は親玉潰して聞き出すのがあの少女のモットーらしい。男らしいというかがさつというか。まぁ、それで解決すればなんでも楽ではあるけどな。

 それでも足を挫いたらしい馬車馬には罪はないだろう。とりあえず回復してやればなんか懐かれた。結構可愛い。馬とか乗ったこと何回かしかないけど、俺も騎士の家の子だったんだなぁとしみじみ感じるものがある。


 「全く俺も俺のお人好しさには嫌気が差すよ」


 とりあえず横転した馬車の中から老婆二人を救い出す。無論、考え無しにではない。馬を操っていたらしい男は何処へ逃げたのか。その辺を聞き出す必要もあった。


 「とんだ親不孝者もいたもんだな」


 そう言ってやれば、老婆二人がなにやらひそひそ話。二人とも耳が遠いのか、そのひそひそ話が大声で俺にも筒抜け。


 「な。なんじゃこの気持ちは。持病の発作かのぅ?いや……違う。これは爺さんに出会ったときと同じ……なんということじゃ!相手はにっくきカーネフェリー。嗚呼!儂はこの歳にしてなんという悲劇の恋をしてしまったのじゃ!」


 本当に不本意だし悲しいことだが、俺は婆キラーなる特殊能力があるっぽい。気がつけばなんかそんな属性が身についていた。たまに泣きたくなる。


 「ないないないないそれはなかろう。あれは儂の運命の男じゃ!姉さんみたいな腐れビッチの緩々婆にあの青年は興味なかろう。やはり儂のように純潔を守り抜いた美老女にこそ、あの好青年は相応しかろう!儂は彼に出会うために今まで純潔を守ってきたんじゃ!!」


 誰得ぅうううううううううううううううううううううううううううううううううう!?処女婆とか何その新ジャンルぅううううううううううううううううううううううう!!!いや無理ほんと無理!それならまだご主人様とやれって言われた方が全然マシ!むしろ喜んでとか言ってしまいそうな勢いでこの婆さんたちほんと無理っ!!


 「ふんっ!お前のような貧乳に男は振り向かんっ!巨乳こそが正義!この柔らかさはあんな小娘には出せん色香よ!!」

 「姉さんの胸なんぞ、もう垂れまくりのしわしわでそんな乳に欲情する阿呆が居るものか!第一儂の感度は本当凄いんじゃからな!」


 でかさとか感度とかもうそういう領域の話じゃねぇだろ婆共。妖怪の親戚みたいな類の癖に何をまだ自分を分類女にしてるのか。自重してくれ。



 「……俺余計な道草食ったなこれ。っていうか女って心底めんどくせぇ」

 《もういっそのこと男にでも走ったら?》

 「考えとくぜ」


 これ以上構うのは時間の無駄だ。それを悟って飼い慣らした馬を奪って進み出す俺に、追いすがる老婆二人。


 「ま、待って!待ってくれろぉおおおおおお金髪の君ぃいいいいいいいいいい!」

 「せ、せめて名前だけでもぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「うるせぇ!新婚(設定)早々嫁(設定)を攫われた俺の身にもなれ!大体既婚者(嘘)に言い寄るなんざてめぇらそれでも人間か!?」

 「おお、なんという正論!ま、眩しい、そういう一途なところもまた素敵じゃ………ぽっ」

 「そしてその冷たさがまたいいっ!!これが今流行の鬼畜というものであったか!……ぽっ」


 ぽっ、じゃねぇよ婆共。どうせならそのままぽっくり逝ってしまえ。涅槃に旅立て。


 「大体なんなんだ!何であんなことしやがった!?」

 「そ……それは」


 口ごもる老婆達。無視して進もうとしたらようやく吐いた。しかしその内容は、俺が予想していたそれとは大分違った。


 「何だと!?それじゃあ……それじゃあますますあいつが危ないじゃねぇか!」


 追いすがる老婆達を今度こそ放置し、俺は公爵の城へと駆け込んだ。

こんな所でロイルとリィナにまさかの再会。狙われる標的のこと書いたら、なんかああなった。

今回婆成分多すぎですね。自分は何かあるとすぐ老婆ギャグに走りたくなるのは何故なのか。モブっていうとなんか頭に老婆が浮かんでくるから仕方ない。

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