34:Ne furtum facias.
寝台に横たわるディジットは、呼吸の音が静かすぎて寝ているのか死んでいるのか瞬時にはわからず、アスカはぞっとした。
あいつの時はこうじゃなかった。あの時は何も知らなかったから。だから死んでいても眠っているようで綺麗だと思った。それでも俺はディジットを知っている。ガキの頃から、世話になってきた。友人とか家族とも違う。言うなれば家主と居候と言う関係。それでもそれだけじゃない。親しみと繋がりを感じていた相手だ。だからこんなに狼狽えている。自分で思っていた以上に、俺は彼女が大切だったのだ。
「……容態は、どうなんだ?」
「……まだ何とも言えんな」
回復数術は本人の治癒速度を高めるものだ。だから本人にその体力がなければ使えない。無理矢理治すことがかえって、命を危険に晒すこともある。だからそういう時は、医者に任せるしか出来ない。ある程度容態が落ち着くまで、俺程度の術者では何も出来ない。トーラくらいよく見える数術使いなら、相手の状況を精確に読み取って、その場で出来うる応急処置は施せるだろうが、俺はそこまでの才能がない。精霊フィザル=モニカの加護を受けても、視覚能力では及ばない。開花しただけまだマシな方。見えない数値も数多い。
「彼女の手を見てみろ」
「………!?」
洛叉に促され、目を向けた彼女の手には……刻まれている。それはクラブの紋章とⅦという数。
「あの詩では、カードは殺せる相手が限られているのだろう?………つまりここまで手傷を負わせられた、エルムは少なくともⅧ以上のカードなのだろうな」
「Ⅷ以上って……マジかよ」
リフルがKで。俺はⅨ。相手が出来る可能性があるのは俺たちくらいということなのか?
(エルムを……俺かあいつが殺さねぇといけないなら)
リフルには無理だ。エルムを哀れんでいた。なんとか彼を救えないかと考える。それでもアスカはそうは考えられない。脅威は排除する。顔なじみであってもだ。このまま放置しておけば、ディジットだけではない。第二、第三の被害者が現れる。放置は出来ない。
アスカが暗い決意を固めたところで、目に入ってきた者がいた。元々そこにいたのだが、その小柄な身体が眼中に入っていなかったのだ。ディジットの傍にはその手を握りながら眠ってしまったアルムの姿。その肩に毛布を掛けてやる辺りこの医者も少しは気が利くが、それで疲れが取れるか阿呆。
アルムを抱きかかえ、隣のベッドに移そうとするも手を放そうとしない。仕方ないので彼女と同じベッドに並べてやった。
(俺以上に心配してたんだろうな……)
アルムにとっては辛かっただろう。大好きな人が大切な人を殺しかけたのだ。その原因も自分にある。エルムの罪を憎むのならば、彼にそうさせたアルムを憎むのが道理なのかもしれないが、不思議とそうは思えない。それが彼女の用いる音声数術の力なのだろうか。
(いや……それだけじゃねぇ)
寝ているアルムの頬にはまだ乾ききらない涙の跡。そしてしっかりと握られたその掌。
リフルがエルムを哀れむように、俺はアルムを哀れんでいる。
あの二人が死を望むように、俺は彼らの心がわからない。それでも捧げる思いを拒絶される苦しみは解る。だから、俺はアルムが可哀想だと思うのだ。それは俺が俺を可哀想だと心の何処かで思っているからなのだろうけど。
(それこそ……俺だって)
もしあいつが妹だったなら。アルムと同じことをしていたかもしれない。そんな簡単なことで、死を望むあいつを繋ぎ止められるなら。毒人間だって構わない。この手を伸ばしたことだろう。俺のそれはアルムのそれとは違う。それでも選べるものなら選びたい。そう思ってしまうほど、悪魔の誘惑は甘い。
唯この双子の不幸は、アルムが姉でエルムが弟だったこと。せめてそれが逆だったなら、ここまで捻れることは無かった。そうだったなら幾らでも罵れる。悪いのはアルムの方だったと。それが出来ないからこそ、エルムは爆発してしまったのだ。
「……アルムの方はどうなんだ?」
「彼女のことも何とも言えん。相変わらず混血は……学問の常識というものを覆してくれる」
「面白がるな、変態」
「面白がりでもしなければ、やっていられるかこんな状況」
「……そういやお前、誰にあんな真似させられたんだ?」
洛叉はカード。数字はディジットと同じⅦ。
「エルムではない。せっかく俺好みに育ったというのに、彼は俺など眼中にない。悲しいことだがな」
どこまで本気なんだか。この男はあくまで自分を負かした相手を口にしたくないらしい。
「仮にエルムじゃねぇとするなら、つまりだ。Ⅷ以上……俺でも倒せるか危うい奴がまだいるってことなんだろ?エルム以外に」
「……問題はない。受けた屈辱は必ず返す。それが親でも兄弟でもだ」
「……つまり、……あの子か」
見たことはある。ヴァレスタに飼われている奴隷の少女。確か名前は埃沙。そしてこの男の妹だ。
「奴は基本的に俺かリフル様しか狙わん。ある程度距離を置けば、奴の行動先読み数術からも逃れられることも解っている」
サーチ能力には決められた距離がある。その中に先読みしたい人間が居なければ、使えない。おまけに知らない人間を捜せるほど精度は高くない。更には対象への興味関心、憎しみが深いほどその精度は増す。だから彼女のサーチ圏内に踏み込んだとき、狙われるのは自分たち二人と見て間違いないと洛叉は言う。
「ただし、至近距離まで来られた場合……奴の術はトーラの数術を上回る」
「どういうことだ?」
「この半年、リフル様があれに襲われなかったのはトーラの守りの賜だが、俺が無事で済んだのも彼女からの恩恵だ」
「ああ、情報探査数術弾く数式か」
「今回はそれが破られた。今日のことから推測するに、その距離10から20メートル」
「隠れ鬼でそこまで近寄られたら完全アウトってわけか。何かの時の参考にでもさせてもらうぜ」
「…………俺が襲われたのは、ハルシオンと別れた後だ。共に行動していたときに盗み見たが、ハルシオンのカードはクラブのⅩ。つまりあれはⅧかⅨの数札だと言うことだろう」
「俺と同じか、俺より弱いかってところか」
なるほど。コートカードとか言われるよりはまだマシだ。エルムのように札がわからないままよりは、そう……遙かにマシ。
こんな男に礼など言いたくないが、有益な情報をもたらしてくれたのは事実。どうしたものかと男の横顔に視線を向ければ、その顔色は優れない。そういえばこの男も病み上がりみたいなものだった。いつもに増して不機嫌面なのは何も妹に相手に打ち負かされただけでもないはず。
「……邪魔したな、また来るぜ」
「ああ、二度と来るな」
これ以上構って、いざというとき治療に狂いが出ても困る。この闇医者にも休息は必要だ。本当なら馬車馬のように働かせてやりたいところだが、そうも言っていられない。アスカは医務室を後に、階段を上る。向かう先は一つ……
このアジトは東からも遠い、埃沙に探し当てられることはまずない。ここにはまだ危険は及ばない。それでも心配になるのだ。ずっと傍で、その安全を確認して居なければ不安になる。ちょっと目を離した隙に、また何か起きたりはしないかと。
(…………リフル)
口論した主の部屋。その前を通りかかって……そこで足は止まる。しかしその閉ざされた扉を叩く勇気が持てない。傷付けたことは謝りたい。それでもディジットとエルムの件に関しては此方も譲れないのだ。
《きぃやぁああああああああああああああああああああ!!!アスカニオスってばへたれ過ぎっ!きゃはははは!!》
結局何も出来ずに、自分の部屋まで帰る。部屋に閉じこめてきたはずなのに、その一部始終を聞いていたらしい、フィザル=モニカに笑われる。こいつは風の精霊だから、風の吹く場所のことなら千里先でも耳にすることが出来るらしい。もっとも盗聴数式を張られたらそれも難しいとのことだが。
《ほんとキャヴァロの坊ちゃんは全然駄目ね。乙女心ってのが解ってないわ》
「いや、あいつ男だからな」
《あの件に関しては似たようなものよ》
精霊は俺をケツの青いガキめと鼻で笑った。
《いい?貴方のご主人様はあの絵描きの子に失恋しちゃったのよ?それも最悪の方法で振られちゃったわけ。まともな精神状態でいられるわけもないのに無理してねぇ、貴方だけが頼りだったのに肝心の貴方までおかしくなっちゃうんだもの》
「リアのこと……まだ引き摺ってたのか」
言われて思い出す。そうだそう言えば、そんなこともあった。いろいろなことがありすぎてあの少女のことをすっかり忘れていた。というかその死に様が酷すぎてなるべく思い出さないようにしていたのだ。俺はそういうのが割と得意だ。どうでも良いことは思い出さなくなり、その内思い出せなくなる。そういう術に長けていなければ、セネトレアでなんか生きていけるか。
しかしリアと親しかったリフルは別だ。そんな薄情なことは出来ない。俺以上に死体の山を見てきたはずのあいつが、……そう言われてしまえばおかしな話ではあるが。
《当たり前でしょ?今朝のことじゃない。そんなにすぐ立ち直れるような人間は恋なんかしないわよ。人に興味なんて持たないもの!この童貞!さてはキャヴァロの坊ちゃんは誰かを好きになったことも無いんでしょ?》
「なっ……お、俺だって」
思わず否定しかけて……過去の記憶を辿ってみるが、俺の過去は完全に弟兼主様一色だった。そんな暇もなかった。余裕もなかった。強いて挙げるなら初恋がマリー様だってくらいで、それを話したらマザコンと罵られそうなのは目に見えていた。
ディジットへの想いは、そう……恋と言うよりはもはや愛だ。そう。凄く好きなんだけど、衝動的なものはない。女らしくないとかそういうことではないのだが、女として見られていないのだ。妹のように思っているのは確かだが、それだけでもない。俺が惹かれたのは、早くに母から引き離されて、母を失ったからなのか……彼女の懐のでかさというかその母性的なところが好きだった。年下の彼女にそんなことを感じるのも妙な話だ。やはりこれを話してもマザコンと言われるのは目に見えている。唯でさえこの精霊は俺の聖域マリー様を罵り始めた。
《私だってアトファスがクソアママリーとくっついたときはもう何ヶ月も涙で枕を濡らしたわよ!!仕方ないから生まれる子供の方を貰うかと思ったら、全然私好みの性格じゃないし!!クソアママリーと須臾との息子の方がむしろタイプだわ!!》
「頼むからあいつが居るところでそういう話はするなよ。絶対だからな」
《坊ちゃんはそんなにバラしたくないわけ?自分が種違いのお兄ちゃんだって》
リフルに余計なことは言うなと釘を刺せば、精霊は緑の目を瞬いた。
「怖いんだよ。あいつに幻滅されたり……それで嫌われたりすんのが」
すぐに話せればまだ良かった。時間が流れれば、余計に言い出せなくなった。あいつが俺を信頼してくれているのが解るから、その信頼が失われるのではないかと思ったら、言えるはずがないのだ。
「あいつは絶対、それを気に病む。自分の所為だって追い詰めたくない……そんな思いはさせたくねぇんだよ」
《そこまでわかってるのに、どうしてあんなこと言っちゃうんだかね》
「どういうことだ?」
《あの子も同じような顔してたわ。嫌われるのが怖いって》
アスカの言葉に呆れるようにモニカは肩をすくめる。
《苦しみを共有できない。だから抱え込むしかない。それは苦しい。助けて欲しい。でも……嫌われるのが怖い。軽蔑されたくない。あの子の感情数の揺らぎからしてそんな事でも考えてたんじゃないのかしら?》
「別に俺はあいつが何だって……軽蔑なんか」
《ええそうね。誰もしないでしょうよ。だからこそ、あの子は恐れて居るんだわ》
「…………あっ!そうか!!邪眼っ!!」
《そういうこと》
本当なら軽蔑される。そんな人間を、変わらず好いてくれるのはこの目が縛り付けているからなのだ。彼はきっとそう思ってしまう。
そうじゃない。俺は本当に、何があっても軽蔑なんかしない。そう伝えても、それは届かない。あいつが真に信じられるモノは、否定と疑念の言葉。自分を嫌う者の声。
「無茶……言うなよ」
あまりの無理難題に軽い目眩。寝台に倒れ込んでゴロゴロと天上を見る。そんな場所に答えなど記されていた……りはしなかった。
「クソッ……どうしろって言うんだよ」
好かれるためには、心を許されるためには、あいつを嫌わなければならない。それでも嫌いになんかなれるわけがない。憎しみを覚えた記憶それを引っくるめて、俺はあいつが好きなんだ。人生捧げて命を賭ける価値のある。俺が仕えられる唯一の人なんだって。
《なんかさ、アスカニオスって……ほんと昔から変な子よね》
「変ってお前……」
《あのアルムって子の数術でもないけど、当たり前のことに気付かない人間って意外といるものなのかしら》
「どういうことだよ?」
《説明するのも面倒だわ。気になるんなら廊下の向かって突き当たりのバルコニーにでも行ってみなさいよ。良い風が吹いてるわよ?》
「は?なんだそりゃ……」
《それで何もわからないなら、貴方はお馬鹿さんってことよアスカニオス》
風を吹かす精霊に、寝台から落とされ寝場所を乗っ取られる。話の場所を見てこなければ何度でも落としてやるという顔をしている。アスカはしぶしぶ、言われるがまま廊下の外へ。そして目に飛び込んできたのは、昔の記憶のフラッシュバック。
あの時は親父とマリー様だった。今度は違う。あいつと……リフルとラハイアだ。その光景に息を呑む。それから、息も出来ない。
俺以外の人間を頼るあいつなんか俺は知らない。あんな風に泣いて、弱さを見せるのは……それを見守るのは俺の役目じゃなかったのか?
今朝までは、それは俺の俺だけの役目だったじゃないか。それが今……俺の居場所が、……ここにはない。
綺麗な花の種を貰った。それを俺は庭に植えて、水を与え見守って花が咲く日を楽しみにしていた。それが蕾までつけたところで、あと数日で開花する。そんな時に盗まれたような……そう、その花が目の前で根刮ぎ奪われてしまったような気分。胸がムカムカする。不覚にも涙腺が緩んだ。
《それで?NTR萌えの変態騎士さん?ちょっとは失恋の痛みがわかったかしら?》
「意味は大分異なるが、言いたいことは痛ぇ程よくわかったぜ」
情けない表情で帰ってきた俺を、にやつくモニカが出迎える。
俺としての寝取られ属性ってのは基本気持ちがこっちにある上で、なんやかんやされてそれを嫌がってる様に燃えるんであって、気持ちが完全に別方向向いてるのを振り向かせるのってこんな気持ちになるものなのか。
ディジットと洛叉の時も、似たようなものではあったが、あれはあれで楽しんでいた。別の男に夢中になっている彼女を冗談のように口説くのは楽しかった。だからそういう方もいけるんだと思っていたが、それは俺が何も知らなかったからだった。
《あ、やっぱ絶対に認めはしないのね。人間って面倒ね》
「馬鹿言え。俺がショックなのはあいつの保護者兼相談役相手をあの聖十字に奪われたのに傷ついてるんだよ」
あいつの騎士は俺なのに。あれじゃあまるで……あれではまるで……俺はもう、必要ないみたいじゃないか。あいつにとって……。
俺には考えられない。必要なくなるなんてそんな日は来ない。ずっとあいつが必要だ。あいつを守ることが俺の存在理由なんだ。それを奪われたら俺は、どうすればいい?どう生きればいい?どうやって息をすればいい?
《まぁ、確かに彼いい男よね。ちょっとアトファスっぽくて私も好きかも。でももう少しクールな方がタイプだわ。ちょっと暑苦しすぎるわよ彼》
俺の悩みを感情数として見えているだろうに関わるのも面倒臭いとスルーしやがる男の好みに五月蠅い俺の精霊は、うっとりしたりげんなりしたりと忙しい。
《まぁ、結局の所あんたの片思いってことよ。あの子がアスカニオスの光でも、あの子の光にアスカニオスじゃなれないんでしょうね》
「光……?」
救いって事よと精霊は言う。
《貴方じゃ貴方のご主人様を救えないのよ。もっと暗がりに引き摺り込むことくらいしか貴方には出来ないわ》
ああ、そうか。彼を光と思って手を伸ばせば伸ばすほど、その光を翳らせてしまう。汚してしまうのだ。俺の人殺しの手が。
だからあいつはリアを求める。ラハイアを求める。
彼らは光の中を生きている普通の人間だ。あいつは普通になんか戻れないから、そういう人間が愛おしいのだ。同じ闇を同じ罪を背負ってやったところで、それは慰めにしかならない。救いには至れない。
*
扉のノック音。出るのも面倒臭い。それでももし聞こえたのが彼の声だったならアスカは音速で扉に向かっただろう。しかし……そんな期待の条件反射。身体は勝手に扉へを向かい隙間を作る。
「はぁい、お久しぶり」
残念。違った。
「ちょっと!何失礼なことするのよー!!」
扉を閉めようと下がそこに指と足を割り込ませる押し売りの如きメイド女エリザベス。
「何の用だよエリー」
っていうか俺はこのアジトの何処が俺の部屋かこの女に教えた記憶がない。フォースの阿呆の所為かと溜息を吐けば、正解と女は微笑み勝手に室内へと上がり込む。
「元同じ職場の人間として?挨拶に来てあげたんですよ」
「フォースとのデートはもういいのか?」
「あ、やっぱりそう見える?見えちゃうかぁ、困ったなぁ」
満更でもないようで、彼女は頬手を当て顔を赤らめる。
「あいつ、金はないけどいい男よ。年下も悪くないものね。ほんと2、3年後が楽しみ」
「それには同意してやるよ。あいつはいい男になるぜ、お前には勿体ねぇくらいのな」
来客への挨拶もそこそこに、アスカは鋭い視線を向ける。
「……で?お前はここに……何しに来た?お前みたいな女が本気であのガキに惚れたとか言うつもりか?」
「それはご想像にお任せするわ。でも意外って言ったらそっちじゃない?フィルツァー君捨てて何処に逃げたのかと思ったら、またあんな美少年捕まえて。彼もお気に入りの使用人がいなくなって残念がってたみたい」
「馬鹿言え。俺みたいな胡散臭い男を信用する奴が悪いんだよ」
「それもそうか。いやそれにしても蟹男とは……ああ、飛鳥蟹雄君だっけ?しかしよくもまぁあんな適当な偽名で採用されたもんねー…書類見て吹き出したわ」
「蟹男言うな。仕方ねーだろ、咄嗟にいい偽名思いつかなかったんだよ」
「もう、ほんと何なのあれ?フィルツァー君ところの使用人に真純血のイケメン入ったって言うから見に行ったら酷い名前で吹き出したわ。何も無理矢理タロック表記にすることないのに、フィルツァーさん家ってば純血至上主義過ぎて、なんかすげぇって思っちゃったんだろうなー」
まぁそれもある。あの商人貴族の家の養子少年グライドが、フォースの親友だとは思わなかったが面接でタロック話で盛り上がったのだ。それが気に入られたのだろう。
この女とはgimmickに潜入していた時に、何度か顔を合わせたことがある。互いに同族の匂いを嗅ぎ取って、胡散臭ぇと思っていた、しかしそれを主に報告はしない。黙っててやるから黙ってろよという利害の一致という奴だ。そんな怪しげな女が何故こんな所にいるのか。答えは二つに一つ。
「今は誰に飼われてるんだよ?それともそれがフォースだって?」
「まぁ半分はそんなものかしら」
曖昧な笑みで、女は笑う。この女は本当に得体が知れない。gimmickに仕えていたと思えばヴァレスタをあっさり裏切る。それも向こうの計算なのか、この女の企みなのか。
こいつの目的がはっきりしない以上、それを突き止めるのは困難。唯金に並々ならぬ執着があるのは確かだが。
「残りの半分は、タダじゃ話せねぇって顔だな」
「イエス、マネーイズパワー」
「ほんと金の亡者だなお前……」
「ザッツライトみたいな。だって聞きましたわよ蟹男さん。貴方あれとかそれとか随分貯め込んでるらしいじゃないの?」
「余計なお世話だ襟THE部酢」
「女遊びしてそうな面してるのに、意外よねぇ。タロック出身の男って何でみんなそんなにガード堅いの?30まで童貞守れば数術使えなくても魔法使えるようになれるとか思ってるわけ?」
「人を外見で判断するなって言われなかったか?俺みたいな中途半端より女が寄りつかなそうな陰気臭ぇあの闇医者みてぇな奴の方がいろいろ漁ったりしてるもんなんだよ。世の中はそういう理不尽が満ちている」
「漁る努力をしない奴に限ってそういうのよね。それか理想がとんでもなく高いか。妥当なところで手を打っておけばいいのに」
「生憎俺は婚前交渉はしない主義なんだよ。うちの宗派的にそういうのはタブーだ。追伸、あと俺は結婚で妥協したくない派でもある」
「殺し屋やってる癖に、宗教なんか信じてるわけ?P.S.そんなこと言ってると一生DTよ?っていうかフォースから聞いたけど貴方の所のあの可愛い顔のご主人様も厄介払いしたそうらしいじゃない」
「P.S.長ぇよ!!つか事実を歪曲させてくれるな。あいつはだな、俺に人並みの幸せをくれようとして女でも作ってこいって言ってるだけだ」
「あ、そうなんだ。じゃあ私なんかどう?」
「お前フォース口説いてたんじゃねぇのかよ」
「女心は秋の空って言うじゃない」
「悪いな、そういうのは俺のタイプじゃねぇんだよ」
「報われない俺格好いいって奴?うわー……いるよねそういう勘違い野郎。そんなんだからあのリフルさんだっけ?彼と喧嘩しちゃったりするんじゃないの?」
「……誰から聞いた?」
軽口のように発せられたその言葉にアスカは眼を細める。向けられた眼光もエリザベスは気にも留めずに口を開いた。
「フォースと一緒に聞いたのよ。案内も終わったしみんなのところに戻ろうっていうから。そしたらあんな大声で喧嘩してるんだもん。聞く気無くても聞こえちゃうって」
「……そうか」
エリザベスが口を閉ざすより早く、アスカはナイフを投げる。それを咄嗟にかわしたところは素直に褒めてもやれるが、体勢は崩される。その隙を見逃さない。
アスカは彼女を壁際に追いやり刃を首へ押しつける。
「うちの数術使い様はそんなヘマはしねぇんだよ。盗聴防止の数術に関しては抜かりねぇ」
それはつまり、この女以外にもスパイが居るということ。そしてそいつはトーラの数術をかいくぐったとんだハッカーだ。
(そんな危ない奴、放って置けるか)
何が何でも今、ここで吐かせておく必要がある。フォースには悪いが、最悪エリザベスをを殺すことも考慮に入れていた。
「あと5秒だけ待ってあげる。私を解放しないと痛い目見るわよ?」
エリザベスは押し当てられた刃にも、恐れず不貞不貞しく笑う。そんな要求聞く馬鹿がどこにいるのか。
《ちょっとやばいわよ、飛鳥蟹雄坊ちゃん》
ここにいた。何を血迷ったのか、この緊迫した状況に俺の精霊は間の抜けたことを言う。
「なんでさりげに移ってるんだよお前まで」
《放した方が身のためよ》
「お前までこの女の味方するのかよ?」
「3、2、1。交渉決裂」
エリザベスは微笑んで、大きく息を吸い……そして絶叫!!
「きぃやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!いやぁああああああああああああ!!!けだものぉおおおおおおおおおおおお!!助けてぇええええええええええええええええええええええええ!!おかされるぅうううううううううううううううううううううううう!!」
「はぁ!?」
その大声に、近場の扉の開けられる音。バタバタという足音が、部屋の前までやって来る。
何が起こったんだ。わからない。そんな俺を精霊は「ああ、やっちゃった」というあきれ顔で見る。
《アスカニオス、今私防音数術張ってないわよ?》
「はぁ!?話の流れ的に空気読んでくれよ!!」
《だって頼まれてなかったし。っていうか張るのにそんな5秒とか無理よあれ。結構高等式なんだもん》
「何の騒ぎだ!?」
真っ先にやって来たのは、正義の使者ラハイア。今はその正義が三割り増しくらいで憎い。
どう弁解する?早く拘束を解かなければ。でもそんなことをすれば……逃げられる。それは出来ない。
「今の、エリザの声だ」
そしてフォース。お前は何処まで馬鹿なのか。こんな悪い女に騙されるなよ。何処まで手が掛かるんだ。トーラはお前に、この女の監視を任せたのに。何故それを放り出したのか。トーラが会議室にこの女を入れなかったのは、それを危惧してのこと。それでも情報源になる可能性。フォースに飼い慣らさせようとしたのだろう。しかし、こいつが一枚上手だった。
「それがどうしてアスカの部屋から?」
遅れてやってくるリフルの声。その声に額に嫌な汗が浮かんでくる。他の誰が俺を疑っても、彼ならばきっと信じてくれる。俺の話を聞いてくれる。それでもそれは……いつもならばだ。そして今は、いつもではない。あんな口論をした後だ。あいつは俺を信じてくれるか?信じて欲しいとは思う……それでも。
「苛々してて欲求不満か何かだったんじゃないの?」
面倒臭そうな物言いのロセッタ。身体能力的にはまっさきにやって来ても良いようなものだが、そうじゃなかったのはあまり乗り気ではなかったからか。
「あ……アスカに限ってそんなことは……」
「ま、開ければはっきりするわよ」
ロセッタの驚異的な蹴り。室内にぶっ飛ばされてくる扉。扉のあった場所は見たくなかった。どんな目で見られているか見たくなかった。この図はどう見ても、俺が武器を用いて彼女に迫っているようにしか見えない。そして純粋な馬鹿ほど、その絵面に騙される。フォースが室内に駆け込んで、俺と彼女に割って入る。
「何やってるんだよアスカ!!」
なんて女連れて来やがったと、怒鳴りたいのは此方の方だ。
「話は向こうでで聞こうか?」
正義馬鹿のラハイアもそれに続き、彼女を庇い立つ。明らかに悪いのはあの女なのに、女だと言うだけで悪者は俺の方になる。
「……待ってくれ」
「リフル?」
「リフルさん…!?」
「アスカは、そんな奴じゃない。暴力で無理矢理人に関係を迫ったりするような奴じゃない」
涙が出そうになった。一瞬でも信じて貰えないと、信じられなくなった自分を恥じる。
「フォース、考えても見ろ。アスカは私の邪眼に2年も耐えた」
「そ、それはそうですけど……それに耐えられなくなったんじゃ?」
「それはない。私への依存が強すぎて、満足に女も口説けない男だぞ?暴走するならまず私に手を出すのが道理だろう?というか何度か私のフルパワーの暴走邪眼を前にして、踏みとどまったこいつの精神力と意志の強さは並ではない。そしてこいつはへたれだ。顔馴染みも口説けない男が見ず知らずの相手を襲えるものか」
「……確かに、言われてみれば」
主に俺がへたれだというその一点に納得したようなフォース。後で表に出ろ。
しかし今の説明は俺を知るフォースには届いても、そこまで付き合いのないラハイアにはちんぷんかんぷんでしかなかった。
「お前の言っていることはよくわからんが、現にそういう構図ではないかこれは。どう見ても言い逃れは出来ないぞ?」
「ラハイア、確かにお前の言う罪人への償い協力は立派だ。それでもそれ以前に冤罪は改心しようがないだろう?だって何もしていないのなら悔い改めることはないわけだ」
俺を信じるその言葉に、力が抜けていく。それを悟ってエリザベスは、拘束を抜け出した。
しかし逃げられないのは悟っているだろう。入り口を固めるロセッタが何時でも撃てるよう銃を手に構えている。
「アスカ、胸を張れ。私に嘘を吐くな。その上でお前の言葉を聞かせてくれ」
「リフル……」
「…………、お手上げよ、私の負け」
リフルの言葉に両手を挙げて溜息、エリザベスが降伏する。それに動揺し出すのは、フォースとラハイア。
「何言ってるんだよエリザ……?」
「死神は目を持っている」
「え?」
突然の呟きに、その場の全員の動きが固まる。その内の一人……ラハイアに近寄るエリザベス。
「ねぇ、そこの聖十字の男の子?貴方、無くした目は何処にある?」
頬を触れられた少年は、吹きかけるような彼女の言葉とそのしなやかな指を振り払う。その拒絶の様子に、エリザベスはくくくと笑う。
「オルクス様は片目で事足りるのよ。片目があれば、そこから情報を読み取れる。そこのご立派な正義を口にする、貴方は彼に勝手にスパイに選ばれていたのよ!」
「な、何だと!?一体何時!?何故そのようなことを!!」
会議室での一見は全て筒抜けだったのだと明かされて、俺たちは凍り付く。本人が自分がスパイだと気付けないのは痛手だった。
「一度彼に会ったでしょ?彼はその時手持ちのコレクションの片割れの目を見つけた。だから利用することを決めた。唯それだけよ」
確かにあの時ラハイアはオルクスに怨みを持っているようなことを口にした。そこからオルクスに興味を持たれてしまったのだ。そして彼は調べて……今回の策を思いついた。
(だが……それは、何のために?)
オルクスの目的は未だに見えない。トーラの名を語り城を襲撃、東と西の対立を煽る、それは何のために?
しかしフォースの関心は俺たちのそれとは異なっていた。だから泣きそうな顔で、信じられないと彼女を見る。
「え、エリザ……どうしてそんな!?」
「気安く呼ばないで。どうしても呼びたいなら様くらい付けなさい下民」
突然突き放すよう、女は誇り高い物言い。さっきまで雑食を気取っていた女のそれとは思えない。
「私はエリザベータ=ディスブルー。セネトレア第5島が主の娘」
「ディスブルー公のご息女だと!?何故そのような方がメイドなどに……!?」
「さぁね、唯私の主はカルノッフェルでもヴァレスタでもない。セネトレア王子フェネストラ様!!」
「エリザベータ、ちょっと口が過ぎるよ。気分が良いのは解るけど」
割り込む声は、それは何処から。振り返る。部屋の入り口向こう。ロセッタの背後佇む少年。トーラと瓜二つの……
「ロセッタ!!」
彼女を案じたリフルの声。それに彼女も振り返る。自分の方に銃が向いたことを知り、オルクスは怖い怖いと苦笑。
「いや、あのね。僕は別に喧嘩をしにきたわけじゃないんだ」
「そう言う癖に、あんた……血生臭いわよ?」
微笑む彼から漂う死臭。それにすぐに気付くロセッタは、百戦を潜り抜けた猛者なのだろう。位置と距離という言い訳もあるが、アスカでさえ言われなければ気付かなかった。
「そうだね。試してみたら、意外とやれるものなんだね。ルールってそこまで重要じゃないのかもしれないな」
「………何をした」
「ああ、安心して。僕のトーラは生きているよ。取引通り彼女の身柄は預かった。代わりに鶸ちゃんって子をトーラの部屋に戻してあげておいたから」
その言葉に俺の主は誰が危ないのかを理解する。そしてすぐさま俺に命令。
「アスカ……っ!モニカっ!!ハルシオンを診てきてくれ!!」
「え、ああ!頼んだモニカっ!!」
《……了解したわ》
俺が声を掛ければ、風の精霊は壁をすり抜け消えていく。それをオルクスは見過ごして、にこりと満足そうに微笑む。
「……何故トーラを?」
「なんだかさ、聞いていたらとっても面白そうなことになっているじゃないか。混血の生殖メカニズムは僕としても興味深い」
オルクスの発言の意味の言わんとしていることは解る。それでも何故それがトーラの誘拐に繋がるのか。その答えを浮かべたのは、歩く教会情報受信装置ロセッタ。
「……フェネストラ、確か元セネトレア王子。そしてあんたらの数術使い様の片割れってデータが上がってきたけど?」
オルクスが、トーラの兄。言われれば、ああとは思う。確かに姿形は双子のようにそっくりだ。しかし言われなければ、そうは思い至らない答え。此方を陥れるための策の一環なのだと少なくとも俺は思っていた。
「故意的に姿を真似してる、わけではないってことか」
「しかし……トーラの兄は、亡くなったという話だったが」
「悪人ほどなかなか死なないもんなんだよ、ヴァレスタ然り、こいつ然りだ」
とりあえず俺は、冷静を装いながら軽く混乱しているらしいリフルを無理矢理納得させる。その間に、ロセッタがオルクスへと踏み込んだ。
「それで?あの双子のことに興味を持ったってことは……あんたも同じ事する気なわけ?」
混血同士の間に子供が生まれた事例はない。今回のアルムとエルムのそれは、二人が混血……違う条件をそこに見出すなら、それは二人が双子だと言うこと。オルクスはそこに目を付けた。もしそれが真実ならば、オルクスとトーラの間にも子供が生まれるはず。今回が偶然、それとも必然か。それを解き明かすためにも、新たなデータは必要になる。
「同じ事……?そ、そんな!それは犯罪だぞ!?早まるな!!婦女暴行のみならず、近親相姦にまで手を染めるか!?」
割と常識人らしいラハイアが説得に入る。しかしオルクスは聞く耳を持たない。
「嫌だなぁ、ここはセネトレアだよ?セネトレアはタロック圏だしね、それはむしろ美徳というか高貴なお家々ではよくあることだよ」
「そう言う問題ではないだろう!?まず相手のことを考えろ!そして子供のことを考えろ!あの少女と少年が……そしてそこから生まれるその子が本当に幸せだと貴様は思うのか!?」
「そうだなぁ。僕と彼女はお互いに、凄腕の数術使いだからね。きっと最強の数術使いが生まれるよ。教会だって本当は、気になっているんじゃない?」
「まぁ、否定はしないわ」
「「ふざけるな!!」」
オルクスの切り返しに頷くロセッタ。その刹那、息ぴったりと怒声が重なった。それはリフルとラハイアの。
「別にふざけてはいないけどね。だけどそこまで言うのなら猶予を僕はあげてもいいよ」
譲歩するように、わざとチャンスを与える死神。その方が勝ったときが楽しいからとそいつが笑う。
「一つは、例の連続殺人事件を止めさせること。そして城と西との問題も片付けること。そうして今回の混乱を止めてご覧よ。開戦前に西と東の衝突を止めることが出来たなら、彼女は無事に帰そう。それまで丁重にもてなすよ」
「開戦前だと?」
「そうだね、猶予は大体二ヶ月。その頃にはこの街も戦火に包まれる」
予言をするように、死神は不吉を語る。
「それじゃあ帰ろうエリザベータ。僕と彼女に何かしようものなら、トーラがどうなるかわかるね?」
部屋から出て行くエリザベス改めエリザベータ。彼女を止められる者は居ない。人質が取られてしまえば、リフルとラハイアは動けない。ロセッタはトーラがどうなろうとあまり関係なく、データが上がるならそれでもいい。神子の命令とはいえ、リフルが協力を要請しない限り、彼女はここでは動かない。俺はと言えば、この男を斬り殺してやりたいが……やはりリフルの命令なしに、今は何も出来なかった。唯そのまま見送るのも癪なので、捨て台詞くらいは言わせて貰った。
「……人間の屑って本当に実在したんだな」
「あはは、嫌だなぁ。この場で君だけには僕は非難されたくないよ」
しかし嫌味で言い負かされた。俺が舌打ちをすると同時に、戸口を潜るエリザベータ。その背に投げられる声。
「エリザベータっ!!」
しかしそれに彼女は振り向かず、何も語らず廊下へ出る。
そしてオルクスが指を鳴らせば、一瞬で完成される数式。空間転移だ。数字が二人を呑み込んでいく。このままそれを見送るしかないのか。でもフォースだけは諦めなかった。
彼女を追って、数式が消えるその寸前、その数字の中へと飛び込んだ。
「フォースっ!?」
「何やってんのよ馬鹿っ!そんな危ない真似っ……」
これには空間転移と数術の怖さを知っている者にしかわからない。つまり俺とラハイアは置いてけぼり。リフルとロセッタの声が響く!
しかしその響きが消える頃には、もう三人の姿はなく、微かに香る血生臭い風だけが吹く。
《アスカニオスー!!大変よっ!!》
その風を押し返すよう戻ってきた風の精霊。
《あのハルシオンって子……大変なのっ!!》
その言葉に我に返る。今できることは何か。精霊に連れられてハルシオンが倒れているという場所まで向かう。
「ありがとう……治してくれたのか?」
床に倒れているその姿に目立った外傷はない。ほっと息を吐くリフルにモニカが首を振る。
《そうじゃないの。大変なの!この子!両目が戻ってるの!!目が戻ったらちょっと私好みでどうしよう!!》
「どうもするか阿呆っ!」
アスカは思いきり、精霊の頭を叩いてやった。
「……って、両目が戻ってるだと!?」
こいつは元々片目隠しのヘアースタイルなだけなんだと思っていたが違かったのか。
「いや、義眼だったと前に聞いた位で私もよくはわからない……しかし、義眼が何者かの眼球と入れ替えられたのだとしたら……」
「それをこの短時間でやってのけるとは……恐ろしい医術力だな」
「そうじゃないでしょ!?馬っ鹿じゃないの!?」
ちょっと冗談を言っただけなのに。ロセッタに背中から蹴飛ばされる。かなり痛い。
「……俺と同じ、向こうからは情報源がもう一つ出来た。此方のことは筒抜けと言うことか」
「おい、それって……」
蹴られた背中より、かなり痛い。痛手じゃないか?
「最悪ね」
ロセッタが吐き捨てる声。それはこの場の全員の代弁に等しかった。
章を重ねる毎に文章長くなるのは何故なんだろう。1章とか0章の短さが懐かしいです。




