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17:Est autem fides credere quod nondum vides; cuius fidei merces est videre quod credis.

 「単刀直入に言うわ」

 「ああ、そうしてくれ」


 アスカも大人しくなったし、ようやくこれで本題だ。ロセッタの言葉にリフルは頷く。


 「イグニス様は、あんたに取引を持ちかけている」

 「取引?」

 「那由多王子は近い将来、父王であるあの狂王を討ちに行く予定なんでしょ?イグニス様の目的はそれよ」


 イグニスという名前の神子。彼は一体何を企んでいるのだろう。

 タロックに奴隷として売り飛ばされたはずのロセッタがいたのはシャトランジア。混血となった彼女を配下に据えているということは、その神子は混血への理解がある。そして彼女を救った人物と見ていいかもしれない。そうでなければこの性格の少女が様付けをするとは思えない。

 常に喧嘩腰で仮にも自分が住んでいた国の王族と貴族の関係者と知っていてリフルやアスカをあんた呼ばわり変態呼ばわりするくらいだから、本当に認めた相手にしか敬わないのだろう。

 少なくともロセッタはイグニスという人間を信頼している。それは間違いない。もっとも神子自身の方はどうなのかはリフルからは察することは出来ないが。


 「近々カーネフェルとタロックの戦争は再開するわ。っていうかもうカーネフェルはタロックから奇襲を受けてる。セネトレアには情報入ってないだろうけど」


 つまりまもなくこの国にも戦火が及ぶってこと。ロセッタは何と言うこともなしにそんな問題発言をかます。


(セネトレアが戦争に参加だと?)


 商人個人や有力者が裏で開戦の引き金を引く役回りや、奇襲と略奪くらいはこの期に乗じてやりかねないが、国として動くことはおそらくない。そのくらいこの国をまとめるというのは難しいことなのだ。


 「セネトレアは金以外に興味はない。どちらの陣営にもつかないと思うが」


 リフルは率直な意見を言うが、ロセッタは首を振る。それは過去の話だと。


 「それは刹那姫が王権を奪ったことによって変わったはずよ。少なくとも城はタロック側に回る。それでもセネトレアにはいろんな人間がいて、いろんな派閥があるわけだから、こうして私らがスカウトに来てるわけ」

 「私らっつーと、他にも運命の輪が派遣されてきてるんだな。自分の身辺警護じゃなくて他国に飛ばすなんざ神子様も本気だな。しかし……戦争ねぇ。そんな事があり得るのか?」


 アスカが口を挟む。セネトレアに戦火が及ぶ前に決着が見えていると。

 確かに数年前から言われていた。今度戦争が起きたらカーネフェルに勝ち目はないだろうと。隔たった少子化でカーネフェルからは男子が減っている。いくら食料資源が豊かでも、中年や老人ばかりの兵士に、女子供が混ざっても……男ばかりのタロック軍に勝てるとは思えない。


 「カーネフェルとタロックじゃ、兵力に差がありすぎるだろ。カーネフェルは女ばっかなんだ」

 「そうね。普通だったら滅んでいるわ。だけど神の審判が始まった。だからまだここからひっくり返せる可能性がある」


 神の審判。トーラの語った先の見えない未来。全ては未定なのだとロセッタも言う。

 カーネフェルが滅びない道もあるのだと。


 「イグニス様はそのためにカーネフェルに協力してるわ。タロックがカーネフェルを手に入れたらとんでもないことになるもの」

 「…………神の審判か。あのシャトランジアまで戦舞台に引っ張り出すとは」

 「当然よ。カードは上から下から決まる。カードには国の主要人物も選ばれてるんだから。保身に走る馬鹿もいるんでしょうね」

 「……腐ったもんだな、シャトランジアの血ってのも。王も耄碌しちまったのか」


 失望したようなアスカの溜息。今のシャトランジア王シャルルはリフルにとっては祖父に当たる相手らしい。アスカは幼き日に慕っていたマリーの父王がそんな風になったのだと思うと溜息も出るのだろう。


(とんでもないこと……か)


 リフルは考える。ロセッタの言うとんでもないこと。

 国家の主要人物が上位カードに選ばれているというのなら、保身や願いを求めたならばまずは国同士が争う。それが終われば内乱。

 となれば戦わないことが一番だと冷静に考えれば解るだろうに、殺し殺されるという可能性を知ってしまったせいで疑心暗鬼に陥っている。

(まぁ、分からない話でもないか)


 今朝のことを思い出す。アスカが取り乱した。自分も混乱した。トーラが声を荒げた。フォースとアルムが姿を消した。ディジットが不安がった。

 今日という日から始まる見えない未来。誰もがそれを恐れているのだ。今まで続いた今が明日、或いは今日に失われてしまう。その可能性を示唆されて。

 リフルも小さく溜息を吐き、顔を上げてロセッタを見る。


 「……つまり父様を止めなければ、他の三国が沈むということなのか?」

 「でしょうね。こっちには教会兵器はあるけれど、神の審判……その恩恵はそれとやり合える代物とも言えるから。ああ、これはあんたら下位カードには関係のない話だからこれは後に回すわ」


 恩恵と、言いかけたロセッタだがややこしくなるから今は説明時ではないと判断。何らかの更なる胸囲をタロック王が手に入れた。そう考えて間違いない。侵略に踏み切った以上、勝算はあるのだろう。

 しかし聖教会の神子はそれをカーネフェルから追い返す。それを前提に話を、計画を進めている。彼はトーラと比較し上か下か……どの程度先読みの差があるのかわからないが、トーラに見えないのだ。彼にだって全てが見えているはずがない。

 対セネトレア、対タロックの作戦をもう視野に入れているということは神子も神子なりに勝算を持っているということ。


 「……神子様はセネトレアを戦場にするつもりか?」


 確かにセネトレアは金儲けを目的としない人間にとっては百害あって一利無し。滅ぼした方が多くの人のため。正義を冠する聖十字なら、シャトランジアという国の許可さえ下ればそこに攻め入るだけの理由はある。防衛戦争しか許されないシャトランジア……それを神子は変えると秘密裏に此方に伝えてきている。

 カーネフェルに協力すると言うことは、それに協力するシャトランジアも戦うと言うことだ。


(しかし……お祖父様の件もある。大丈夫なのか?)


 シャトランジアの国王派と教会派。それが一つにまとまることなどあるのだろうか?神子はあくまで教会のトップと言うだけでシャトランジアのトップではない。国王と同等の立場ではあるが国王もシャトランジアにはいるのだ。

 常備軍を持たないシャトランジア王。その守りを固めるのが教会率いる聖十字軍。国での法を司る立場としては国王派の法が上。国法は十字法をも越えた力を持っている。故に聖十字を国王がその行動を縛ることは可能。

 しかしシャトランジア国法は国外では通用しないため、海外では十字法が強まる。対外政策においては神子が強い権威を持つ。だからこそこの腐敗したセネトレアにも、十字法を携えたラハイアのような兵士の活躍もある。

 王と神子、その両者が睨み合っているのがシャトランジアという国の今日の平和。だがそこに神の審判が下ることで変化が生じる可能性は?国王派と教会派。そのどちらにもカードが配られたなら、シャトランジアも危うい。内から崩れる可能性は捨てきれない。此方にも守る相手が大勢いる。飛び乗った船が泥舟では困るのだ。


(見極めなくては……)


 神子を。教会を。シャトランジアを。それは信じるに値するかどうかを。利用するに足りるかどうかを。

 眼を細めたリフルに、判断材料の投下のため次なる情報をロセッタが繰り出した。


 「カーネフェルからタロック軍を追い払うのは予定調和。時間の問題よ。そしてそうなれば戦場はセネトレアへと移る。いきなりタロックと戦う力がカーネフェルにはないから、その足がかりが要る。だから最初はセネトレア。海戦の方はシャトランジアが何とかする。その内にカーネフェル軍がセネトレア王都を落とす」

 「落とすっつったってな……この国がそう簡単に……」

 「そ、だからよ」

 「……まさか!?」


 アスカが大口を開けている。それを見てリフルも気付く。神子はそこまで見えているのだと。


 「神子様はあんた達西と東の対立まで視野に入れている。その後、残った方が城とやり合うってのも見越して私をここに送ったの。神子様は奴隷商に勝たせたくない。だから私に西を支援するように」


 ロセッタの言葉が終わる頃、ようやく口を閉じることを思い出したようなアスカ。彼はすぐさま気に入らないと舌打ちをする。


 「汚ぇ手だな。つまりカーネフェルに漁夫の利取らせるってか?」

 「戦争に綺麗も汚いも無いわよ」


 ロセッタはしれっと言い放つ。清濁ではなく勝つか負けるか。

 正義は勝たなければならない。正義が悪に屈することこそが最大の悪。ならばどんな手を使ってでも正義側が勝たなければならない。そのための汚れ役が自分達運命の輪なのだと少女の瞳が訴える。


 「タロックが勝てば、セネトレアがそれに乗じてまた奴隷を増やす。或いはもっと違う商売を始めるわ。そうなれば今までの比じゃない。もっと多くの人が泣くことになる。だから……私は………」


 伏し目がちの赤い瞳は何処を見ている?遠くを見ている。空虚な色だ。


 「…………ロセッタ?」

 「……何でもない。話を戻すわ」


 リフルの問いかけに小さく首を振り、元の鋭い視線に彼女は戻す。


 「別に女王の首まで取れとは言っていないわ。那由多王子は刹那姫にとって最高の釣り餌だもの。隙を作ってくれればいい。後はこっちでセネトレアを陥落させる。そのための下準備もしてある。この国が一筋縄じゃいかないのは彼も解ってる。だからこそのまずセネトレア侵攻。ここを落とせば後は勢い。波に乗る。そうなれば……いよいよタロック攻めが始まるわ」


 神子の計画は絶対だという確信を秘めた力強い声でロセッタが未来を語る。見えないところで着々と準備を進めているのだと。

 セネトレア……そして、タロック。ようやくタロックの名前が見えてくるところまで話が進んだ。


 「そこで最初の話に戻るというわけか」

 「そういうこと」


 リフルの呟きにロセッタが頷く。


 「イグニス様は、那由多王子の須臾王への復讐の協力がしたいと仰っているわ。私もその復讐を終えるまで、那由多王子の力になるよう言われている。他にも聖教会とシャトランジアのバックアップは与えるわ」

 「その代償として、セネトレア攻めの駒になれと」

 「利害の一致って奴よ。じゃなきゃ私を貸したりしないわ。イグニス様は那由多王子を高く評価している。だからこそのこの申し出……イグニス様はなるべく少ない犠牲で戦争を終わらせたいと考える。カードに選ばれた人間は、普通の人間とは違う。それを上回る幸運を手にしている」

 「幸福……?」

 「幸福値って、聞いたこと無い?」


 聞いたことくらいはある。確かトーラが言っていた。視線を向ければそれにアスカも頷いた。


 「数術原理で仲間から何度か聞かされたことはあるな」

 「ああ、だな。数術代償になることが多いとは聞いたぜ」

 「まぁ、それも間違いではないけれど不十分」


 ロセッタは幸福値という概念についての説明を始めた。彼女が言うに、どうやらそれは人に定められている寿命のようなものらしい。


 「………人間には幸福値って数字が設定されている。それは寿命と同じで生きるほどに減っていく数値。それが尽きればその内不運に見舞われ死ぬものらしいわ。那由多王子はこれまで不幸続きだったでしょ?それは那由多王子自身の幸福値と関係してるの」

 「私が……か?」


 分かり易く説明するためにと、ロセッタはリフルでそれを説明し出す。


 「那由多王子は、血筋や血統、生まれや身分、おまけに片割れ殺しの稀少な外見と美貌を持って生まれたわけでしょ?言ってて苛つくけど」

 「すまない」

 「なんか謝られても苛つくだけだから謝らないで。今度やったら一発蹴るわよ。しかし何その高スペック。蹴り飛ばしたい……本当苛つく」

 「まぁ、俺の主だし当然だな」

 「…………すまない。うちのアスカが……」

 「…………今度のは謝罪受け入れてあげるわ」


 言わなければ蹴られていたな今のは。数秒後にアスカの方が。


 「まぁ、それはどうでもいいけど。周りから見ればそういう人ってとっても幸せそうに見える。幸福値がきっと高いんだ。そんな風に思われる。でもそれは間違い。…………人が一生分で使い切る数値は平等に決められてるの。スタート時のステータス配分でどれだけ消費されてしまったか、それが鍵ではあるけれど」


 「要するにあんたは生まれた時点で一生分の殆どの幸運使い果たしてしまったわけ。だからそっから悪いことしか起こらない限りなく少ない幸福値の中でそれをやりくりして生きていたわけよ」

 「その割りに私は死ねなかったわけだが」

 「あんたにとってはそっちの方が不運でしょ。たぶん6年で使い切ってたんだと思うわよ。本来ならね。処刑された時に死んでたはずなんだから普通なら」


 「唯、二人の神様ってのが那由多王子に利用価値を見出して、神の審判に参加させるためにずるずる延命させてきた。生の神と死の神が敵に回ったら自殺しても死ねるわけがないわね」


 全ては死を司っておきながら死を拒んだ零の神と、生を司るままに生を望んだ壱の神の策略だ。そんな風にロセッタは言う。


 「私で遊んで何が楽しいのやら。神というのはさっぱりわからん」

 「あんたは審判の前の前材料だったのよ。前哨戦みたいなもんね。あんたの生き方を見ながら人間って生き物の本質や可能性ってのを奴らは議論していたそうよ。神子様が言うには」

 「なっ……何故私がっ!?」

 「たまたま目に止まったんじゃない。目立つ色してるし。人間なんてうじゃうじゃ居るしその一人を観察して統計とって話し合うなんて無理だから、適当に気に入った奴研究対象決めてそれを軸にしてるんだろうなって神子様が言ってたわね何時だか」


 神のあまりの横暴さに、溜息も尽きない。文句は幾らでもあるが一言でそれを済ませるならばこうなるだろう。


 「私にプライバシーはないのか?あれとかそれとかこれなんかまで見られていたのか?」

 「相手が神だからどうしようもないわよ。全ての困難はそいつらがあんたに贈ったものだし」

 「よし。絶対に神なんか認めるものか。でなければ私が恥ずかしくて発狂してしまう」


 霊を信じない人間の心理にそれは似ているかもしれない。

 もし自分の身内が守護霊なんかに憑いていたとして、着替えとか入浴とか排泄とか自●とか●慰とか●交とか性●とか見られたとか思うと恥ずかしくて死にたくなる。故にそんなものは断じて認めん。そう言うことで精神安定を保っている人間だって幾らでもいるだろう。そんなシーンまでばっちり見られて真顔で議論されていたのだとしたら、もう死にたい。恥ずかしい。

 そんな風に思えば、これが赤面せずにいられるものか。アスカも頷いてくれるかな。神なんか絶対いねぇよって。ちらと横目を向ければアスカが笑っている。それでも目が危ない光を宿している。


 「なぁお嬢さん、所で神ってどうやって殺すのか知らないか?」

 「何でそんな話になるのよ!!」


 何を話しているのかと思えば、教会に属する人間に神殺しの方法伝授を迫っていた。出来るものなら此方がお願いしたいくらいだ。そんなこと無理だろうけれど、気持ちだけは有り難く受け取っておくことにしよう。ちなみに私も心情的には同じ気分だ。


 「俺としては俺の主のプライバシーを侵害したそいつらをどうにも許せねぇ。こいつがこんな風になったのも8割方そいつらのせいなんだろ?」

 「そりゃまぁそうだけど、6割くらいじゃない?後は周りの人間の愚かさとか腐り具合が招いた結果だし」

 「6割?上等だ!俺法廷では有罪だ!死刑だ!それが1割でも1分でも1厘だったとしてもな!」

 「あのねぇ……気合い十分なのはいいけど、そんなの無理よ。もし神を見る機会があるとしても最後の1人くらいなものじゃないの?神子様だって会話は出来るけど、それ以上は無理だって話よ?……それはそうと説明に戻っていいかしら?」


 話題が大幅に逸れたことを指摘され、リフルもそれを了承。

 神への愚痴なら後でも出来る。文句だけなら幾らでも出てくる。相手が神なら。


 「それでこの神の審判の面白いところはその幸運値よ」


 ロセッタが口にする幸福値。それにより幸福値の話をしていたんだと言うことをぼんやりと思い出していた。


 「さっき言ったように元々持っていた幸福値は一定で平等。それでもこのカードは第三者から見た幸福値、つまりは偏見で配置される」

 「へ、偏見!?」

 「そっちの長身のお兄さんは裏町の破落戸で殺し屋で人殺しで暗殺組織の一員。まっとうな人間じゃない。こっちのあんたはセネトレアに名高い連続殺人鬼。どっちも普通の人間から見れば幸せそうになんか見えないどころか社会の底辺、社会のゴミみたいに思われてる立場なわけよ。後は過去にどれだけ精神的苦痛を受けたかもちょっとは加算されてるみたい」

 「社会の、ゴミ……いや、否定はしないが。そうだな、私は犯罪者だもんな、その通りだよはははははは」

 「社会の底辺……そうか、俺、底辺だったんだ。親父……マリー様、俺底辺だってあははは……ごめん」

 「まぁ、そんなノリで神様ってのが偏見と思いこみと思い入れで思い思いの場所に人間配置したってわけ。これは二人の神様が対戦してるゲームなわけだから、どっちも自分に有利な盤面になるようそれに持っていくための配置には気を使ってるみたいだから、まぁ上の二つの理由がどこまで関係しているかはカードにもよるわ。それで下位カードほど有利とルールで語られているのは、下位カードほど振り分けられた幸福値が高いと言うことなの」

 「……は?」

 「……え?」

 「あんたらさっきから間抜けな顔ね」

 「いや、君の話が矛盾していないか?」

 「お前今、こいつの幸福値っての最悪って言ったよな」

 「それは昨日までの話よ。カードになったときに幸福値はリセットされた。この部屋の中で一番幸福値高いのは那由多王子よ」

 「そのわりに今日一日ろくなことなかったじゃねぇかこいつ。攫われるわ殴られるわ変態呼ばわりされるわ」

 「それは幸福値を使おうとしないからよ。あんた全然神を信じてないでしょ」

 「信じていないと言うより信じたくないというか認めて堪るか。そんな気持ちだ」

 「それよ。幸福値ってのは願いに反応する数値だから。カードは願いを届けやすい。小さな事なら大抵上手くいくわ。例えば私がこの至近距離で撃っても一発もあんたには当たらないでしょうね」


 命に関わるような防衛面ではオート消費みたいに使われてる。後は本人の意思次第。カードの幸福値とはそんな風に消費されるのだという。


 「……つまり戦闘能力の低い私でも、使い方によってはそれなりに戦えると言うことか?」

 「平たく言えばそう」


 ロセッタは頷く。


 「だからカードの使い方によっては、あんた達と東の対立も、必要最低限の犠牲で事が足りるかもしれない」

 「カードの使い方……?」

 「あんたら、あの詩の意味どの程度理解しているの?」


 逆に彼女からそう問われる。リフルはアスカと顔を見合わせ、トーラから教えられたことを確認。


 「上ほど弱い。下ほど強い。コートカードのこいつは強い」

 「しかし私もジョーカーには勝てない」

 「カードの模様は職業とか出身国に関係する。こんくらいか?」

 「まぁ、そんなもんよね。だけどそんな認識じゃ生き残れないわよ、全然」


 あんたら死ぬわよとロセッタが言う。


 「いくらあんたが強いカードでも敵がメイトカードだったら戦えない。同じ幸福値が振り分けられてるんだもの」

 「それじゃあ、勝負が付かなくなるんじゃないか?」

 「もう一つ!“数字の強弱で殺せる相手が決まっている。これは真っ赤な嘘”」

 「はぁ!?」

 「これは盲点だな」


 明かされた言葉にリフルは目を瞬いた。アスカは傍で絶句しているようだ。ロセッタはやっぱ知らなかったかと大きな溜息。


 「振り分けられた幸福値が違うだけよ。頭を使えば数兵にだって王を落とせる……その方法はある。だから王は少しでも多くの数兵が欲しいはず。数兵は自分より下位のカードの幸福値を減らす役目があるの。そうすることによって終盤には幸福値の差も変わり、上位カードが下位カードを殺すことだって十分起こりえる」


 このゲームは不平等なようで、次は平等。一時的に上と下のこれまでの理不尽と逆転させる。しかし長期的には平等な戦いへと変わっていく。


 「権力者が上位カード。その部下が中位。反逆者が下位。短期決戦なら反逆者に部がある。それでも権力者の所まで乗り込むまでに幸福値をすり減らす。だからそう易々と上位カードを殺すのは難しいのよ、奇襲とか……それこそ暗殺とかでもしない限りね」


 暗殺。その言葉に彼女の視線が此方を向いた。その視線に当てられて、リフルはふと思い出す。2年前トーラが言っていた、復讐のチャンスとは神の審判……この時だったのか。


 「王が最後まで動けないとは……まるでチェスじゃねぇか。トランプ模様なんかくっつけた癖によ」


 呆れたようなアスカの言葉。その王はどちらを指しているのか。おそらく両方か。リフルは頷く。

 身分としての王とカードとしての王。その二人の王が戦うならば……王はKの幸福値をギリギリまで減らしたい。Kは幸福値を少しでも多く残したい。そのために消費されるのが他のカード。それを使って各々の目的のために動かせる。

 数札が一枚でも多く味方にあればいいとロセッタが言ったのは、リフルの幸福値を消費させないため。いずれタロック王にぶつけるために、それまでリフルの護衛に付けと神子から言われているのだろう。


 「心理戦の側面も持っているのはまぁ認めるわ。私は那由多王子の協力ってのもあるけど、その護衛も任されてるわけ。抱き込めそうなコートカードをみすみす犬死にさせたくないから」

 「それはこいつを利用してぇってことか?」

 「それだけじゃないわ。コートカードは早々に死なれちゃ困るのよ。いろいろあの詩には乗ってない裏ルールがあるんだから」

 「どういうことだ?」

 「あんたらあれをそのまま信じたの?馬っ鹿じゃないの?神様ってのは嘘は言わないけれど嘘を吐かないとは言っていない。あの詩は真実だけれど欠けているのよ何行か」


 抜け落ちた文章がある。敢えて神が語らなかったものがある。勝者の選別は既に始まっていたのだ。


 「壱の神と零の神はまずそこで人を試している。神を疑うくらいの器量を求めているのよ、勝者の器には」

 「変な話だな。神が自分に牙向く相手を選り好みするとは」

 「……だな」

 「そうでもないわよ」


 ロセッタの言葉に疑問を覚えるリフルとアスカ。それを彼女はさらりと否定。


 「人間が神にとって自分たちの思い通りの生き物で、従順な生き物だったなら……確かに平和になるかもしれないけれど、それは神の想像を超えることはあり得ない。神様連中ってのは人間にある程度の自由放任主義で、そっから想像を超えて欲しいわけよ良い方向に」


 「だけどこの国然り、人間は堕落した。だから一掃。今後一切人間なんてものが生まれなければ人間以外の生き物も、人の魂も安寧に委ねられる。そういう意見が零の神。逆に今居る人間ってのの可能性をまだ信じてるのが壱の神。どっちも神子様曰くどっちもある意味人間思いではあるけれど、両極端過ぎて人にとってはろくなことしやがらないんですって」

 「……確かにそのような相手の思い通りでは人の望む平和とは程遠いものになりそうだな」

 「でしょ?それに気付ける程度には自覚あるんじゃないの?」

 「それで、こいつ……か」

 「そういった意味でなら、あんたらはそこそこ見込まれてんのよ。あんたは神という絶対の存在に気付きながらも、それを絶対に認めようとはしない。商人共みたいに全否定する側よりは神も好感持ってるわけよ」


 その好感の割りに人生ろくな事が内のは何故だろう。神の好意とは人にとってはやはりろくでもないものだからなのか。


(いや、全てを神の責任にしても始まらないか)


 リフルは頭振って迷いを振り払う。確かにロセッタの言うことも一理ある。神が放任している以上、この世の罪は人の罪。悪意は人の手によるものなのだ。


 「しかし……次々と私達の知らない情報が出てくるものだな。神を疑えという忠告は有り難く受け取っておこう」

 「信じたら負けって感じだな。俺聖教徒だったわけだが、今後一切信じねぇわ。いやこれまでだってあんま信じてなかったけどな」

 「それでいいんじゃない?神子様だってこれは神の審判じゃなくて悪魔のゲームだとかよく言って神様連中罵ってるし」

 「随分とこれはまた口の悪い神子様だな。あんたのそれも上司に似たのか?」


 ロセッタの上司に初めて興味を抱いたようなアスカの反応。

 リフルもそれを耳にし、意外だと思った。確かにそんな風に神を罵倒する神子という者がいるのなら、一度くらいは会って話をしてみてもいいと思える。彼がどのような考えを持っているのかを直接問い質したくもある。


 「そんなに私とやり合いたいわけ?」


 耳聡く、アスカの言葉を無視できなかったらしいロセッタが目をつり上げる。


 「セネトレア流の冗談だ。気にしないでやってくれ」

 「あっそ」


 このまま放置していたら埒があかない。リフルは適当な理由でそれを回避させることにした。彼女も自分の役目を思い出したのか、割とすぐに引き下がってくれた。それもそうだ。さっきから脱線続きばかり……


 「まぁ、とにかくよ!私はあんたらに貸し与えられたルールブックってとこ。時が来るまで神子様はあんたに生きていて貰いたいんだって。だからそれまで私はあんたらの目的に協力するし、言える限りの情報を提供してあげる」

 「んで?こいつに狂王を討たせるってのがその条件だって言うのか?」

 「あくまでタロック王を殺したって表舞台で公表するのはカーネフェル王。でも那由多王子の気持ちを汲んで、神子様はその抹殺はあんたらに任せても良いいって言ってるわ」

 「……おい、それじゃあ何か?」


 ロセッタの伝える取引内容に、アスカが声を僅かに荒げる。それに気付いて彼を見れば、アスカが此方を心配そうに見つめていた。


 「要するに、こいつを城に送り込んで狂王殺させて、それを見計らってカーネフェルに王都落とさせるって話か?それで手柄もそっち持ち」

 「軽そうに見えて頭回るのね、あんた。正解よ」


 アスカの言葉を悪びれもなく認めるロセッタ。神子はタロック王と関わりのあるリフルに、その暗殺を……依頼しに来たのだと言っても良い。城を内側から陥落させて突破口を開け……これはおそらくそういう話。


 「でもイグニス様は、“那由多王子は、タロックの民の犠牲が少なければ少ないほど良いはずだから”……ですって。カーネフェルが乗り込んだら今までの恨み辛みもあるでしょう?民まで被害を受ける可能性は大きいわ」


(……イグニス、か)


 ロセッタが何度も繰り返すその名前。その数術使いはリフルの性格、思考パターンまで深く理解しているようだ。

 人質を取るあの奴隷商よりある意味厄介。そして悪質。

 神子はその手に人質などは取らないが、それでも此方を策に乗せるため、断れない話を用意する。民を引き合いに出されれば、利用されていると解っていてもそれに乗らざるを得なくなる。

 そうだ。神子はタロックの民の命を人質に、話を付けに来ているのだ。お前がこの話を呑まなければ、戦争は長引きもっと多くの民が傷つく。血を流す。


 「別に。神子様はあんたらに何かをやれって強制してるわけじゃないわ。あんたらのやりそうなことが神子様にとっても都合が良いから協力したいってだけ。あんたは唯守られて生きていてくれればそれでいい」


 リフルの表情が強張ったのを見て、ロセッタは僅かに口調を和らげる。

 別にそう悪い話でもないはずよ、と。少なくともそれまで戦闘能力に特化し、教会兵器を装備した戦闘エキスパートの自分がリフル達の目的に協力してやるのだから。


 「生きろ……か」


 簡単な言葉で、それでいて難しいその言葉。口から零れる嘆息に、ロセッタが先の言葉の不足を補う。


 「そうね。随分と遅れたけれども挨拶代わりに教えてあげる……“コートカードの戦いは数兵を巻き込む。故に数兵が刈り尽くされるまで王は動いてはならない”」

 「それは、……一体?」

 「王同士、女王同士、騎士同士。それが戦ったとするわ。そして決着が付けばいい。その場合は……そのスートのそのカードより上の上位カード全てが消滅する」


 神の詩が語らなかった裏ルール。それをルールブックたる彼女が語る。

 あの詩では倒せる相手を語っていたが、同じ数については言及してなかった。ロセッタの言葉ではそれは同等。相打ち、もしくはどちらかが勝つ。メイトカード相手では、勝利も敗北もあり得るということ。


(私にとっての脅威は、道化師だけではないと言うことだな)


 他のカードを守るには、他のKの動向にも気を配らなければならない。これも新しい情報だ。


 「つまり、スペードのKであるあんたがダイヤやハートやクラブの王と戦ったとする。その場合、もしあんたが負けたら全てのスペードカードが死ぬの。そっちのうざいお兄さんもね」

 「アスカが……!?」

 「つか、俺のカードも知ってたのかよ。油断ならねぇな、神子様ってのも」


 振り返った先で、アスカは肩をすくめている。リフル程動揺はしていない。むしろ冷静でさえある。


 「しかしそうなれば、それはそれであんたらやカーネフェルにとっては有利な話だろ?わざわざ不利になるような話をする意味が俺にはわかんねぇな」


 そうだ。犯罪者から敵国の王まで一掃できる。正義のためと言うのなら、むしろKカード同士を争わせるくらいの企みを練っていそうなもの。となるとこの話は信用できない。何か裏があるはずだ。……そう考えるアスカの意見はリフルにも理解できる。だからそれに同意し頷く。ロセッタはその反応に小さく舌打ち。


 「勿論この場合、タロック関係者の須臾王も刹那姫も死ぬわけだけど。世界平和的にはそっちのが手っ取り早くていいかもしれないけど、あんたらはそうも言えないでしょ?」

 「何が言いたい?」

 「例えそのKが憎くても、敵でも……そいつの率いるスート模様にはあんたらの大事な人間がいるかもしれない。そう言ってんの。あんたらの知ってるカード、その全部が同じ模様だとでも思うの?」

 「……っ!」

 「……そいつは、地味に嫌なルール設定だな。しかし君たちが私達の心配をする必要はあるのか?」


 確かにもしそれが本当なら、自分は迂闊には死ねないカード。それでも彼女がそれを案じる義理はないはずだ。尋ねれば彼女は、「大ありよ」。

 そう言われ、彼女がフォースの友人だったことを思い出す。彼が此方にいることを知っていて、それを心配しているのだろうか?


(……何だ、いい子じゃないか)


 一瞬は、そう思った。


 「手っ取り早い話四人のKが互いに殺し合って相打ちにでもなってくれればいきなりカードは残り一枚。そうなれば道化師の勝利が確定してしまう」


 しかし彼女の口から出たのは別の言葉。あくまで神子の駒としての厳格なルールブック。昔の友人のことなど果たして彼女はどれだけ覚えているだろう?彼女が恐れているのは唯一点。道化師が勝者になってしまうことだけ……?

 僅かに失望しながら視線を向ければ、ロセッタは少し沈んだ表情。その赤には怒りとも悲しみともつかない色が浮かんでいる。


 「それに……A付近には国王付近の人間が配置されている事が多い。あっちもこっちもいきなり国家の支配者が消えたらどうなる?地獄絵図よ?このセネトレアの金の亡者共が黙っているとでも思う?」

 「…………」


 ああ、そうか。もう一点あった。彼女のその物言いで、なんとなくわかった。彼女は嫌いなのだ。セネトレアという国も。奴隷貿易というものも。

 それは……2年前に彼女自身が巻き込まれたことだから。


(そのために……神子に協力しているんだな、彼女は)


 この頑なな少女を信じさせるだけの相手だ。神子は奴隷貿易を根絶するつもりなのだろう。彼女はそれに賛同している。

 リフルもそれが確かなら、断る理由は特にない。神子はまだ信じられないが、目の前の少女のことは信じても良い。そんな風に思った。

 それを告げようと、口を開いた。その直後、ロセッタの絞り出すような声。


 「イグニス様は、道化師を知っている。そいつがどんなに残忍で冷酷で、自分本意な奴だって事も知っている。だからそんな奴が残って願えば……人は神の審判に敗北するわ」

 「敗北……?」


 そのせいで、言おうとしたこととは異なる言葉がリフルの口から出る。


 「神の審判ってのは神が人間を試している。だから別に酔狂でこんなことやってるわけじゃないの。願い事なんて唯の釣り餌よ。神はその最後の1人を代表し、人間という生き物の判別をする。その1人が神を納得させるような素晴らしい願いを口にしたなら、神はもうしばらく人を信じてみようと思う」


 これは神の審判。人と世界の存亡を賭けた戦いなのだと教会からの使いは語る。

 勝者が神の目に留まらなければ、そこで全てが終わるのだ。世界はもう一度新しく作り直される。全てを白紙に戻して。


 「だけどあまりに自己中心的で利己的な願いをそいつが口にしたら、神は人間を今度こそ見限る」


 そんなことはあってはならない。ロセッタは瞳に強い意志を滾らせる。


 「神子様は悪を排除し正義を示す。けれどそのために神には賛同できない。今生きてる人間の中にも生きてていい人間はいくらだっているわ。罪のない人間だっていっぱい居るのよ。それをたった一人のエゴのために道連れにさせることがあってはならない」


 彼女は確かにこの腐りきった世界を憎んでいる風。それでもその全てが死に絶えればいいとは思っていない。彼女の怨みはあくまで罪へと向けられている。


 「そのために神子様は、神の目に留まる人間を勝者に就かせたい。神子様はそのカードまで見えていらっしゃる」


 話の流れ的に、まさかと思ったのだろう。アスカが驚いたような声を発した。


 「まさかそれがこいつだって?」


 その声は驚きつつも、少し嬉し気、誇らしげ。しかしロセッタはあんた正気?と言わんばかりの怪訝そうな声。


 「は?んなわけないでしょ。罪には罰を、それを相応の報いを。那由多王子じゃ神の求める願いまでは辿り着けない。神子様はそう預言しているわ」

 「何だと!?てめぇがこいつの何を知ってるっていうんだ!調子に乗るなよ!!」


 犯罪者なんかが生き残って良いはずないじゃないと言い出す彼女にアスカがキレる。


 「知ってるわよ。見てたもの。こいつはとんでもない男。人殺しよ。多くの人を殺した犯罪者」

 「何も知らねぇくせに、知った口をッ……!!」

 「落ち着け、アスカ。落ち着かないなら強制的に眠らせるぞ私の毒で」


 睡眠毒の一つが何だったかを思い出し、アスカは唖然、そして赤面……言葉を失う。

 脅しの言葉でも効くものだなと思った矢先に、彼は我に返ったのか再び口を開く。

 どうしたものかと思えば先程よりは落ち着いた声。殴りかかりそうな勢いはなく、唯言いたいだけのよう。それなら言わせてみるか。


 「ふざけやがって……どうせそんなの大嘘だろうが。うちにいる世界最高の数術使い様だって、全然見えねぇ世の中なんだ。神子にわかるはずがねぇ!」

 「アスカ……」


 言わせてみて正解だ。アスカはトーラの事を認めてくれた。その言葉。それは自分が認められたように嬉しい。

 仲間として彼女を信頼していると言ってくれているのだ。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか。2年前からの一連の事で、アスカはトーラには冷たく当たっているところがあったが、それが今は完全に払拭されたように思えた。

 トーラは神子と同等レベルの数術使い。トーラが神子になれないのは彼女が男ではない。そんな男女差別によるものくらい。力だけなら歴代神子を軽く凌ぐ力量だ。

 そんな彼女にわからないことが、イグニスという人間にわかるはずもない。ロセッタにとっては言いがかりかも知れないが、それはリフルにとっては真実だ。

 トーラとイグニス。どちらを信じるかと言うなら、絶対にトーラ。今まで自分に尽くしてくれた彼女の思いは疑う余地すらない。アスカも同じ風に思っていてくれたのだろう。それがとても嬉しかった。


 「俺は神子様……いやそのイグニスって奴のことは全面的に信用しねぇ!会ったこともないような人間の死を肯定するような野郎が人を救ってくれる神子のはずがねぇっ!俺にとってはこいつが神子だ。未来なんか読めなくてもこいつが神子だ!こいつは確かに罪を犯した、人殺しだ。だがな……そんな奴よりは多くを多くを大切に思っているし守ってやってる。自分を犠牲にしてでもそいつらを守ろうとしてやがる」


 不意に話題を振られたリフルは反応に困り、狼狽える。その両肩を掴まれ、威張るように誇るようにそれをロセッタへと向けるアスカ。これが俺の信じる神子だと。

 アスカの言葉に唖然とした表情のロセッタ。その赤い瞳が惚けたようにこちらを見ている。


 「他人利用して、何でもかんでも計算みてぇに人の命組み込んで弄ぶような奴に、世界が救えるはずがねぇ!」


 神子の正義は傲慢だ。悪を滅ぼすために自身が悪に染まっていることに気付いていないのか。アスカはそう糾弾する。

 惚けていた彼女も、その言葉に我を取り戻したのか。目をつり上げた。その言葉に弾かれるよう、反射的に銃を手にするロセッタ。


 「神子様を侮辱したわね!?許さないっ!!」

 「………」


 目を会わせたら意味がない。目を伏せながら彼女を見つめる。


 「何の、真似よ!退きなさいっ!」


 アスカと彼女の間にいるリフル。それが邪魔だと彼女は叫ぶ。同じく避けろと言うアスカの言葉を無視し、リフルははっきりとした口調の言葉を発した。


 「君はさっき幸福値と言ったな」

 「だったら何よ!?」

 「私はK。君は数兵。少なくともゲーム開始一日未満で私の幸福値がそこまで落ちたとは思えない。君の弾は当たらない。アスカにだってそうだ」

 「……!!」


 その言葉が意味する意味に気付いたのか、彼女が絶句する。


 「ロセッタ。私は今の君の言葉を全面的に信じることにする。今日から暫くの間、よろしく頼む。アスカも彼女とはあまり諍いは起こさないように。一時的なものとはいえ、彼女も今日から私達の仲間なのだから」


 神子との取引、受け入れよう。そう告げたのに前後の二人は気付いてくれたことだろう。


 「ようこそ、ロセッタさん。暗殺組織SUITは貴女を歓迎しよう」


 リフルは微笑み手を伸ばす。

 しばらく待てば、銃のしまわれる音がする。それはそうだ。握手をするには銃はその手に邪魔だから。

ようやく裏本編のメインヒロインが仲間入り。面倒臭い性格のためパーティ加わるための道のりも物凄く長かった。二章と17話も掛かるとは。

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