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片づけ(1)

轟音とともに開いた壁の向うは狭い部屋になっていて、グレーゴルが魔獣を狩って集めた素材や古びた武器防具が山積みになっている。

この中からボロボロの防具を補修する材料を探すのかと思うと、ため息をつかざるを得ない。

武功ある英雄や勇者とは、これほどに生活能力がない(確かにグレーゴルや騎士団の人員は今それを必要とはしていないが)ものなのだろうか。


「もうちょっと何とか……なんないよねぇ」

『基本的に他人に見せるもんじゃないからな。ヒマなんだから片付けろってよく言われんだけど』


まあ、誰にでもがあるものだと教わって来たことだ。

何かができない者を指差して"こんなこともできない奴がいるぞ!"なんてののしったり嘲笑あざわらったりする悪趣味の持ち合わせは、ロシュにはない。


「もし、ぼくが無事に脱出できたら、定期的に片付けに来ようか」

『マジで!? 助かるわ! ドライバッハとか騎士団の皆にも報告していいか!?』

「う……わ、わかったよ……」


『ぃよぉぉし、決まりだ。そうとなりゃ、契約を前倒しにしといたほうがいいだろうな。……選べ、ロシュ。出不精の王に成り代わって、おれが選択肢ってやつを示してやらぁ』

グレーゴルが一瞬、陽気な雰囲気を消し去った。骸骨戦士の頭がつるりと光る。よく見りゃ彼の身体は水晶で作られているのだった。


「は、はいっ」

『他人と関わるのが嫌でないなら、おれらの手を遠慮なく貸そう。そうでないなら、飽きることなく戦って来た年月の中で手に入れた、あらゆる物品を分け与えよう。どっちがいい?』


ロシュには苦手なことがたくさんある。

学ぶことと考えることもそうだ。

合格しなきゃいけない類の試験や検定には必ず落第するし、興味があって覚えが良いのも、他の人が見たら1クレジットの価値にもならないようなことばかり。

魔導具や武器防具の知識なんて、冒険者になりでもしなければ役に立たない。


身体を動かして労働する。

作物や家畜を立派に育て上げ、他の国々や国王陛下、時には連合国の外の国の人々に喜んでもらう。

そうして対価を得て自ら生活し、愛着を持って仕事に取り組み続ける。

農業や牧畜、林業が盛んな生まれ故郷では、それ以上に価値のあることなど、ないに等しい

自ら汗を掻かない者は、そう出来ない者は、他に何ができても役立たずで、価値がない。


そのことで豪農として有名な実家の人々と折り合いをつけられなかったばっかりに、ロシュは衝動的に家を飛び出して来た。

だが……。

自分の人生を今ここで話しても仕方ない。

騎士が王の名を出し、王に成り代わって話しているのだ。グレーゴルが示した選択肢は、『曲がった背中の王』ドライバッハからの直々の問いかけと言っても良い。


王立農業学校の資格試験とはちがう。

選ぶ。自分で決める。


そのために、どうにも好きになれたためしのない自分自身と向き合う。

思うところを骸骨の勇者に──暗黒の大魔導師に打ち明ける。


「ぼくは……他人ひとと関わりたくない」

『なぜだ。おれとは上手く話せているじゃないか。ギルドの連中ともそうだろう』

「グレーゴルみたいにぼくの話すことを注意深く聞いてくれたり、ギルドの皆みたいにぼくを認めてくれる人ばかりじゃない。世界って他人ってそういうもんだ──分かってるんだ、ありのままの自分を愛してくれる人なんていない、だから変わり続けなきゃいけない。でも、そうできていない。ぼくは、ぼくが、嫌いなんだ」


『お前自身を好きになれない、お前自信を認められないから、お前は他人と関わりたくない。よく分かった。最強の騎士団の手助けが得られると聞いても、揺らがないか』

「揺らいでるよ。誰の助けを借りて頼ってでも、ここから出たいんだもの」

『そうか。困ったもんだな』


2人して(正確には3人で、か)困っていても仕方ない。

そう思ったのか、グレーゴルが人差し指を建てた。指先がきらりと光る。

『間をとってみるか。第3の選択肢だ。テキトーに他人と関わりながら、お前の力で脱出を目指すんだよ』

「そういうの、アリなの?」

「大いにアリだ。おれの王も、実はけっこう柔軟な方なんだぜ」

2022/9/22更新。

2022/9/26更新。

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