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悪夢

夢を見た。


悪夢そのものと言ってもいい試練の最中だというのに、ロシュは何度も違う夢を見た。

かろうじて夢だとわかったのは、見た映像が、異世界の恐怖映画(『姉さん』達が見るのに付き合ったことがある)さながらに頻繁に暗転を繰り返していたから。

それと、自分でもわかるような、決してあり得ない状況ばかりだったからだ。


目は覚めている。

でもなぜか体が動かない。

思い出す時間も、考える時間もいっぱいある。


先ほどから、家族の知らなかった(憶えていなかった)面を見てきたし、少し言葉を交わすことさえできた。

それで、どうにか家族関係のトラウマを解消させてもらえるのかな、などとぼんやり考えるまでになっている。


でも、傷は治りかけが一番痛むし、しつこく疼くものだ。

意地悪な使用人に押し付けられて使ってみたのこぎりで(おそらくあの小人族の思惑通りに)指を切った時のように。

心の傷がそうでないと、どうして言えるだろう?


克服したと考えるには、自分はまだ、以前の自分や自分の周囲のことを、あまりにも知らないということなのだろう。

それほどに、優しい大賢者が使ってくださった魔法は強大だったのだ。


自分が主演の、稚拙で滑稽な恐怖映画を見せられたとでも思えばいい。

その中では……。

できもしないことがすべて出来ていた。隠しているつもりの欲望がすべて叶えられていた。

それが夢でなくて何であるのか。

悪夢でなくて何であるのか。


──最初は、そう。


結界に守られて安心して眠るエーミール義兄に音もなく寄り、その利発な頭を何度もごつごつと叩いてカチ割る映像だった。

凶器は、義父のおめかけさん(そうなった後も身分の低い下女で通している)の一人が後生大事にしている、複雑で美しい意匠の花生け。

道具や絵画を衝撃や汚損から守る『保護』の魔法がかけられている花生けで、何度叩きつけても殴っても、割れも砕けもしなかった。

調子に乗って叩いているうちに、憎い憎い義兄の顔が、誰が見ても分からないほどぐしゃぐしゃになった。

ケタケタと笑いながら返り血と頭の中身を全身に浴びて……。


そして、暗転。


次にロシュは、義父の部屋にいた。

病床のヘルベルトから長いネックレスを渡された。

離縁して放逐した彼の正妻が身に着けていたもの。

宝石の研磨屑けんまくずを集めて複雑に色を組み合わせ、繋ぎ合わせた特別な一品

だ。

落ちくぼんだような目の、底冷えするような凄絶な光が、ロシュを突き動かした。

目の前にいるのが、なんだか、とても嫌なモノに見えた。


どうすればいいのかすぐにわかった、ヘルベルトがどうして欲しいのか。

半身を起こした彼をごく優しく支えるふりをして大きなベットに上がり、背中側に回り込んだ。

身体ごともたれかかるように義父の肩を後ろから抱き、ネックレスを、じゃらりと、彼の、やせ衰えた、首へ……回して。


暗転。


その次は、実姉の恋人の部屋にいた。

吸血鬼の血を引くのに人間の血が苦手な彼女は、かなりの飲兵衛のんべえだ。

酒を飲むために冒険者をやってるなんてうそぶいては、巨人族の戦士が飲んでもぶっ倒れる強い蒸留酒をトマトジュースで割って愛飲している。


ロシュは、彼女がご愛飲の酒の中に、大量に自分の血を混ぜた。

人間の血を一滴でも飲んだら(惚れた相手のは別)すぐに前後不覚になって眠りこけてしまうのを、なぜだかわからないが、知っている。


首尾よく半吸血鬼を眠らせて魔法で服を取り換えると、銀製の鎖で縛りあげてどこかへ転移させてしまった。

そして左手から血を滴らせたまま、アスカを待ちわびた。

真夜中を告げる時計の小さな鐘の音とともに現れた実姉を有無を言わさず抱きしめ、


……そこで、目が覚めた。

覚めてしまった。


「ふぅん。そういうの、してみたかったのね」

「……!!?」


がばっと身を起こし、慌てまくって見回す。

幻に違いないと思った。

「言っとくけど幻じゃないわよー。ザックにできて私にできないこと、あると思う?」


ない。

あるわけがない。

「いいえ……ララベル姉さん」

2023/5/29更新。

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