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試練、あるいは(5)

「何が欲しいの?」

『さっききみがアイテムボックスを開けた時に、すごい量の魔力を感じた。あれが欲しい』


『試しの函』の事だ。

超一流の【創造者クリエイター】たるガラに頼らないと決めたからには、何をしようとするよりもまず仮の身体を手に入れなければならない。

恐らく“彼”の大地の魔法をもってすれば造作もないことだが、この件の相談料にするつもりもあるのだろう──あえて取引を持ち掛けてくれたのだとわかった。


そして、取引を断る理由はどこにも見当たらない。

ロシュが明朗にうなずくと、魔物の方もどこかわくわくした調子で請け合った。

『さあ、ぼくからは何をあげようかな。ご希望は?』


幸いなことに、装備品や道具はそろっている。

それに、もともと手の込んだいたずらを非常に好む“彼”のことだ。おもしろい()()の効いた要求を喜ぶはず。


自分が何者だったかを思い出すのと同時に取り戻した明確な思考が、名も知らぬ魔導師から与えられたもう一つの任務のことを思い出させた。

「ねえ。宝探しって、どうやったら楽しめるかな」

『したことない?』

「うん。ギルドの皆についていったことはある」


宝探しとは相性が良くない。

楽しみにしすぎていたのかどうか、出発の日の3日くらい前になると必ず体調を崩した。

無理をして同行したことならあるが、その時だって探索に加わるどころじゃなくて、ユェン『姉さん』と一緒に宿やテントで留守番していただけだった。


『美人で優しい『お姉さん』に世話を焼いてもらえてラッキーだったんじゃないの』

「そう思えてたら楽だったかもね。ああー重度のシスコンなのさっさと認めちゃえばよかったぁ」

『ちょっとは楽だったかもね、いろいろ。……それで、宝探しの話だったね』

「あ、うん。ごめん」

『いいよ──ダカツが言うには盗んだり奪ったり賭けて勝ったりする方が効率的だって話だけど』

「わー、やっぱりあいつ、悪いヤツなんだ」


『ドライバッハの騎士団に入ってからは一切やめてたけどね、そういうの。ぼくらが見る限りは目立たない裏方に徹してた。まあ、王に負けて討たれたことにしてたから当然だけどな』

「血ぃ吸われたんですけど。灰になったんですけど、ぼく」

『はっはっは。あいつが血を吸いたがるなんて滅多にないけどね。ロシュ君がよっぽど魅力的だったんじゃない? 自覚ないだろうけどきみって結構な美少年だしさ』

「あんまり嬉しくないよー」


あの邪悪な吸血鬼が魅力を感じていたとしたら、おそらく陰気でじっとりした、厭世的えんせいてきな──難しい言葉は全部ラトゥリク兄さんに教わった──自分の一面だろう。

それらをすすぐべく、魔導王はこの試練を用意したのではないか、と、内心でロシュは考え始めている。


それは、見ていてうっとうしいからとかの低い次元の理由からではない。

原石そのものであるがゆえにギルドで預かりたいと、ヴァレリア様も言ってくださったのだ。


質の良い原石を選び抜き、作りたい(作るべき)形を見出す。粗く削る、そして丁寧に磨く。

その誇る超絶技巧のために『黒土乃国』にまで名をとどろかせる細工職人”ひねくれシャダル”が一冊だけ世に出した技術書に書かれていた、良き宝石細工を作る基本中の基本。


削られるのは痛いし、磨くのも苦しい。

でも、もしも、誰かのお眼鏡にかなうようになれれば。わずかでもいいから輝けるようになれれば。

痛みも苦しみも恐怖も、そうすればすべて報われるのではないか。

今は、そう思う。


ってなことを、格好つけずに正直に話してみる。

自分なんかを頼ってくれた“彼”に本心をさらすことは、今はもう少しも怖くない。

『ふぅん、なるほどぉ。最初とは考え方が変わってるみたいだね。いいことだ……うん。ぼくも君の試練のために、お節介を焼いてみよう。眼鏡を借りてもいいかな?』


かけていた魔法の眼鏡をはずし、丁寧にたたんで、わずかにせり出した床にそっと置いた。

ほんの少し前ならこれだけでドキドキしてしまっていたところだが、今は違う。

2023/5/8更新。

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