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試練、あるいは(4)

がんばってみるよ、と、姿のない魔物が小さくつぶやいた。

“彼”の思いの強さを受けて、ようやく相談者が知りたがっただろう情報を持ち出した。

つまり、ライヒェルトの好みの異性の格好などである。


ロシュは相談者を安心させるために頷いて見せたが、自分が持つ情報を十全に伝える方法について、わずかに逡巡した。

語って聞かせれば、いくらでも細かく語れる。

でも、100の言葉で説明しようとするよりも、たった一度、相手の目に訴えた方が分かりやすい情報というのが確かにある。

決めた。

これまでよりは多少は自信をもって、アイテムボックスを探る。

【大賢者】ガラが謹製、勝手に思考を読み取って正確な図や形を描く魔法の絵筆の出番だ。


筆を手に取る。

丁寧に手ほどきをしてくれたラトゥリク『兄さん』をまねて、即興の詩らしきものを(それ未満にすぎないとわかってはいるが雰囲気の問題である)口ずさみながら、薄紙に走らせる。


陽気な【竜騎兵ドラグナー】ライヒェルト=リヒター曰く。

髪は金、それも黄金鉢ゴールドビーのもたらす魔性の蜂蜜よりも深い黄金。

くるぶしまで届くほど長く、しかも繊細でなければならぬ。


「……」

ロシュは息をついた。

魔法の絵筆を手放し、深く呼吸を二度三度。


もともと持っている魔力の量が他人より少ない以上、いま手にしている絵筆のようにすさまじい性能を誇る魔導具を扱うためには頻繁な小休止を必要とする。

それでもロシュは姿なき相談者の莫大な魔力を借り受けようなどと少しも思わなかったし、相談者の方も強引に魔力を融通して早く事を進めようとはしなかった。

「よし」


再び手に取った魔法の筆の勢いに任せ、絵師と同じだけの執念を込めて、絵の中の偶像アイドルに瞳を描き入れる。


かわいらしく大きく、それでいて程よく。

顔全体の均衡と人間ひとらしさを決して崩壊させない大きさでなければならぬ。

色は不可思議がよい。

深海よりも深いあおと空よりも明るい水色スカイブルーが絶妙に混在し、光が反射する角度に応じて色を変え続ける、稀有なる瞳──しかも強い魔力を秘めた『邪眼イビルアイ』がよい。


まつ毛は繊細に見えるにくはなく、細く長いがよい。

まぶたは少し厚いがよい、寝顔もかわいらしく見えるよし

鼻は少し低いがよく、わずかに丸みを帯びるも尚よし。


唇は瑞々しいがよい。

仄かな桜色に色づき、花の咲く如くがよい。

頬は柔らかくぷっくりとし、笑窪えくぼ似合えばまた良し。


肌は輝くように白いがよい。

全身の造作は決して主張を大きくせず、細くもしなやかなるがよい。


さすがに裸形らぎょうを描くわけには行かないので、『兄さん』が大いに照れながら話してくれた、彼が好む服装も着せて描く。ごく薄いレース布を丁寧に幾重にも重ねて作り上げた、繊細な意匠の白いワンピース。


その他にも、もし本当に実在し、親しく近づいてよいとなったら、彼女のために仕立ててみたいとライヒェルトが言っていた服装や装身具の想像図も描いてみた。

指輪に腕輪、首飾り。

花の意匠のブローチに白金のアンクレット。どれをとってもおしゃれで高価で、それだけでも、かの美上部が追い求める理想のすさまじさが分かるというものだ。


『こ、これは確かに理想が高いね……』

「魔法で作りでもしなきゃ無理だよなー、なんて笑ってたけど。ちょっとだけ悲しそうだったな」


金髪碧眼の美少女なら普通に見かけるというありがたい環境にいるが……。

問われなければ決して理想の女子についてなど口にしないライヒェルトが、優しく人当たりの良い美貌の奥の奥にひた隠す欲望を包み隠さず述懐してくれたからには。

そんじょそこらの美少女では追っつきやしない。


でも、彼は待っている。

自らの力だけを頼りに、追い求め続けている。

ガラやヴァレリア、ユェン達──凄腕の【創造者クリエイター】に少しも頼ろうとせずに。


自分にはわからない彼の意図を理解してほしいと、ロシュは姿なき魔物に求めた。

『あの人たちに頼っちゃいけないね、それなら。彼がそうしていないのに、ぼくがそうするわけにはいかない』

魔物が言葉を切る。

少し考えて、『取引をしないかい、ロシュ君』と軽やかに告げた。

2023/4/21更新。

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