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賢者ガラ(6)

「そんなにすごいんだ……」

ゼナから信頼されていない訳ではない(そうでなければ『妹』と呼ばせてくれる理由がない)だろうが、これまで彼女の戦う姿や技を見たことがない。

「責めないであげてね。魔人族ウォーモンガーの戦いは、どの種族よりも過激で苛烈だから」

「はい」

怖がりな性格を変えられれば、また違っても来るのだろう。

ロシュはすぐに話題を切り替えた。


「快活で勇気に溢れた人……ララベル姉さんは」

「あー。あなたにいちばん近い形の厳しい試練になったわね」

「え?」


常に不快と不安と恐怖に覆われ、少しの失敗の先にもさまざまな"終わり"の疑似体験が待っている。

自分と同じような試練を、かつてのララベルも受けなければならなかった。

ガラの言うことがすべて正しいとすれば、この迷宮は受験者の心を正確に写し取って姿を変える。

それはつまり、ララベルが暗く辛く苦しい時期を耐え忍んで来たと言うことになりはしないか。

優しくて明るくておもしろくて、そして体も心も強い──【勇者ブレイバー】のほまれも高い姉さんが?


「陰気な態度や影のある部分を決して見せない人はたくさんいる。だからと言って、本人が全く挫折を味わったことがない訳じゃないわ」

「違うんです」


「何が」

「ララベル姉さんのこと、どうしてわかってあげられなかったのかなって。甘えたり頼ったりするばっかりだった。すごく恥ずかしい」

「そうなの。……話が逸れるけど聞きたいな。どんなふうに甘えてたの? あの子に」


「ぼくの身体のことをよく分かってくれて、気遣ってくれていました。疲れたらお湯で足を温めてくれたし、肩とか腕とかの、ええと」

「可動域」

「それです。可動域を広げる施術とかも」


「ふむ」

「声もたくさん掛けてくれました。ぼくの身体が動かないのは生まれつきで、誰も悪くなくて。だからぼくが悩まなくてもいいんだって」

「抱えてたあれこれを降ろせた」


ロシュは頷いた。

今も覚えている。

春の日によく干した布団みたいな温かい手が丁寧ていねいに触れるたびに、こわばって言うことを聞かない身体が楽になってゆく感覚。


「感謝してもしきれません。伝えると照れちゃうんで、あんまり言えなかったんですけど」

ララベルの知識と技術は、今まで得ることのできなかった感覚をロシュにもたらした。

が、それだけにはとどまらなかった。

身体の状態は数日もすれば振出しに戻ってしまっていた(不実なことだ)が、そのたびにギルド員の誰かが──ぶっきらぼうなザクセンでさえ、器用にララベルを真似まねてマッサージ等を施してくれていたものだ。

「……わたしだから分かるんだけど、ヴァレリアもそうしたがったんじゃない?」


「はい、先生も。お手すきの時には魔力を自分の体の動きのために使う方法を教えてくださいました。皆と同じように手足の指を直々に揉みほぐしてくださいました……怠け者の指だとののしられた、何も作り出せない指を」

「なるほどね。ララベルが楽に過ごせる環境を整えてくれたと言ってもいいわけだ、あなたにとっては」


「はい。でも、それなのに、ぼくは」

そんな恩人の。

ちょっと(ちょっとってのがミソらしい)年上のお姉さんだとでも思いなさいと笑っていた人の、本当の気持ちを。

心に抱え続けている何かを。

少しも考えてあげる事ができていなかったなんて。


「余裕がなかっただけなんじゃないの」

「そうでしょうか」

「そうよ。至らなかったと気づいたら、少しずつ改善して行けばいい。あなたの身体が、ギルドの皆のおかげで動くようになったのと同じよ。試練を乗り越えて帰りたい場所へ帰る頃には、ララベルやギルドの皆の知らなかった面を知る事ができるようになるでしょう。あなたなりに戦って戻るのだもの、まったく成長しないなんてことはないと思う」


そうなれるように課題を出してゆくのが自分の務めだ、と穏やかに言って、ガラが深く息をついた。

「こんなところかしらね。分かりやすく話そうと思って頑張ってみたけど、心の持ち方が大切だって事、分かってもらえたかしら」

「わかりました。ありがとうございます、ガラ様」

2022/11/18更新。

2022/11/22更新。

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