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賢者ガラ(3)

何かと無遠慮に見える妖魔族の賢者は、気を遣ってくれたのか、戦場的で挑発的な衣装をまったく逆の意匠に改めた。

わざわざ「あなたの敬愛する賢者ヴァレリアに成り代わって尋ねましょう」と前置きし、更にロシュの為人ひととなりを掘り下げにかかった。

「あなたはどのように生きて来ましたか、ロシュ」


心を読むなり頭の中をじかに探るなりして把握すれば手っ取り早いだろうと思うのだが、相手から襟を開いて話そうとしているのに、真摯しんしに向き合わない理由はない。

『瑞風の園』の末席にある者として、賢者ヴァレリアの教え子の1人として、あってはならない。


「ぼくは……」

打ち明けよう。

ロシュはもやもやする心をようやく振り切って、決めた。

ダカツが彼女なら話を聞いてくれると言った。ヴァレリア様とも深い関係にあるようだ。

既にすべてを見せてしまった。今さら隠そうとしても無駄なことだ。


「できそこないと呼ばれ続けていました。家の稼業、農業の事は……学校に行って学んでも、全く分からなくて。体力も気力も足りなくて、全然、手伝えなくて」

振り返ってみれば、学んでいても、学ぶ事柄を消化できていなかったのだと思う。

まったく興味のない身にもたらされる"学び"を。それがどれだけ金の必要なことで、大人になってからでは遅い、貴重なものだったとしても、受け入れる事ができなかったのだ。


──手前ぇでこうしたいってのがあんのに、手前ぇでそれを全部否定する。しんどいだろうなァ、ロシュ──


ダカツの声が脳裏をかすめた。

今はこの場にいない彼に頷き返して、ロシュは自らの言葉をようやく継ぐ。ずっと思って来た、今までヴァレリア先生にしか打ち明けられなかったこと。


故郷の小国が誇る農業大学校を退学になった話から、始めた。


「期待されて、高いお金を払って、3年も学校に通わせてもらっていた。でも、ぼくは、なぜかは分からないけれど──教えてもらえることや家族に言われることとは、全然違うことがしたかった。でも、他の国々に丹精込めて作った作物を送り届けることを誇りにしている人達に、どうしてそんなことを主張できるでしょう。自分らしく美しく着飾る必要も、詩や物語を暗唱あんしょうする必要もないと言い切られてしまっては、身体を動かして働かねばならない土地の人々の中で、動かない身体で生まれてしまったぼくは、一体どうできたでしょう」


徹底的なまでに反りが合わなかった実家を、ロシュはしかし──音に聞く優れた者たちのように──追放されたわけではない。

農業学校を退学に(学校史上初の不名誉な記録だ)なって戻った夜、親族の誰か(ショックで誰だか忘れた)が、恥ずかしくてどこにも出せないと言い放った時点で、即刻荷物をまとめて、自分から家を飛び出していた。

逃げ出してしまっただけだ。


所属するギルドなり小隊パーティなりの集団から追い出されてしまったことをきっかけに何かの能力に目覚め、その集団に仕返しをする人の物語を、よく実姉のアスカに貸してもらって読んでいた。

でも、熱心に読んでいただけのロシュに、本の中の出来事と同じようなことが待っている筈などなかった。


困ったらどうすればいいか優しく教えてくれた近所のおばさんの伝手を頼って役場に駆け込み、王家が運営する救済施設に転がり込んでしばらく過ごした後、ヴァレリア先生に招かれて『瑞風の園』に至った、という、ガラにしてみれば取るに足らない経緯。


「わかりました。では、『瑞風の園』では、どのように過ごしましたか」

「異世界の医療技術に詳しいギルド仲間がいます。その人について、まず身体を動かす訓練から始めました。ヴァレリア先生から身体を動かすための補助魔法を学びながらでした」


「ヴァレリアや彼女のギルド員が与える学びは、あなたが体験していた学びと、どう違っていましたか。一度は、与えられる学びを受容できずに困っていたのでしょう」

「ぼくの興味のあることから、先に勉強させてくれました。身体がきつければいつでも機能訓練をやめられたし──」

2022/11/7更新。

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