盗賊ダカツ(3)
ダカツは意外と義理堅く、弱い者に対しては気遣いも見せる(ドライバッハの顔を立ててのことだろうけれど)男だ。
負けると分かっていて若き英雄に挑んだチョイ役の小悪党としてしか描かれていなかった彼の本当の姿らしきものを、ロシュは蛇蝎の態度の端々に見出している。
「……なんだよ。こっち見ても何も出ねぇぞ」
「ごめん」
別にどうでもいいけど、とか何とか言いながら、魔法のランプの灯りの中で、またもダカツがごそごそと手を動かす。
カネを気前よく払ったからか、彼は彼の"お節介"にコースを用意してくれた。
曰く、ひとつは34階までの警護・戦闘。
もう一つは試練についてのちょっとした解説と、武器防具と道具の扱い方──いわゆる冒険初心者のための講座。
ロシュはこれまでの経験を(嫌で仕方なかったが)思い返し、ただ闇雲に進もうとしていたことにようやく気付いた。
なので、ダカツのぶっきらぼうな気遣いに甘えて、この凄まじい試練に生き残るためのヒントを求めた。
「こういうのはガラの専門なんだがなァ」なんて(自分から講座の話を持ち掛けたくせに)文句を言いながらも準備を整えてくれている、というわけだ。
「……よし。まあ、ざっとだが、俺らの話を聞いといて損はねぇ」
「はい」
「お前は2階ほど経験してると思うが、ここじゃあ、小せぇ失敗でも充分に命取りになるんだよ。どんな状態になっても生きてるっつー利点はあるがそれだけだ──回復するだけで時間を使うし、フツーの人間にゃ色々と堪える仕様だぁな」
「うん」
「お前も考えてる通り、できる限り冷静に考えて、少しでも自分が優位になるように……しかも最大限に注意深く行動しなけりゃならんわけ。ま、痛いのやら怖いのやらが好きなら別だけどな」
小さく喉を鳴らして、また息を吸う。
本人は絶対にそうしないだろうが、彼は良い講師になれそうである。
「さーあ、そこで問題になるのは試練を受ける側、つまりお前の実力ってことになる訳なんだが。……まあ、そんなもんあるんだったら俺に講義なんてさせんわな。お前の場合は道具やらを使いこなして何とかして行くのがいいんだろうよ。まずは手前ぇがどんな物持ってんのかを把握しな」
ダカツがロシュのアイテムボックスを自分の物にしたかのように操り、10個のアイテムを順番に取り出して、冷たい石床に並べたてた。
ロシュは小さく頷き、金細工の専用ケースに収まった円形の手裏剣を慎重に掴む。
「さっきの機械仕掛けの得物だな。『旋風刃』っていうらしい」
「良い名前だね。かっこいい」
「ふふん、まぁな──使ってみたから分かるが、こりゃなかなかの代物だ。こいつを上手く使えるように工夫しないと始まらんぞ」
「うん」
「恨んでんじゃねぇぞ。魔力がねぇってのには同情するがよ……こいつらをこさえたガラにとっちゃ、軽い魔力付与くらいはできて当然だからな。良い物を作るが、使う側にいちいち気を遣うような女じゃねぇ」
「知ってる人、っていうか騎士団の人なんだね。【創造者】なんだ。すごいなぁ」
「それ本人にも言ってやれな。イイコトになるぜ、たぶん」
愉快そうに(そして意味深に)低く喉を鳴らした盗賊が、小さく折りたたまれた薄い長袖ジャケットを広げた。
続けて解説書を読み上げる。
「あー……っと、『透明ジャケット』だな。効果は聞いた通り。いつも着ることになるだろうよ」
「ぼく、怖がりだからね」
「臆病なくらいがいいのさ。勇敢さやら獰猛さが却って邪魔になる【職業】もある。俺やお前はそれを選んでるんだ」
「……はい。これは?」
ロシュも眼前に並んだアイテムを自分から手に取ってみた。複雑怪奇な文様がびっしりと施された、菱形の宝石箱のようだ。
「マジで困ったとき以外は開けンなよ。何が出て来るか分からんぞ。『試しの函』だとさ」
「また試されるんだね……やだなぁ」
「それだ」
「え」
「お前、なんでもまず嫌がるタイプだろ。それ、やめとけ……少なくともこの塔の中じゃな。まずロクなことにならん」
菱形の箱がひとりでに開き始めた。
ロシュは箱をすぐに放り出したが、もう遅い。
2022/10/18更新。
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2022/10/21更新。




