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盗賊ダカツ(1)

「よお。起きたか」

涼やかな低音で呼びかけられ、ロシュはゆっくりと半身を起こした。

また膝枕などされて、眠りこけていたらしい。

古代の騎士団に情報共有でもされているのだろうか、とか他所事を考えながら慎重に身体を動かして、生暖かく見守ってくれていた相手と対面して座る。


「悪かったなぁ、柔らけぇ膝じゃなくて……ひひひっ!」

まだ喋るなよと黒髪の少年が言うので、小さく首を横に振ってみせる。

相手の身体と心を回復させるのには、どんな形でもこちらの身体を触れさせておくのが最も効率がよいのだと、ユェンに教わった。

冷たい身体の半猫族キャッツアイもそれを知っていて、迷いなく実行してくれただけだ。


喉に触れてみた。

実際に内側から皮ふまで裂けて血を流していた傷口が、きれいにふさがっている。


「俺がった。なかなかの腕だろ? 糸が溶けりゃ喋れるようになる、安心しなよ」

自らの仕事を誇示するかのように、半猫族が低く喉を鳴らす。

こちらの心境が読めるらしい彼に名前を尋ねてみた。

蛇蝎ダカツだ。嫌われ者の盗賊ダカツ。知ってるか」


ドライバッハが若い頃、最初に征伐した盗賊団の頭目の名だ。

挿絵の彼は醜くむさ苦しいおっさんの姿だった気がする。

ダカツは小さな砦を拠点とし、多数の手下を従えて若き英雄を迎え撃ったが、小心ゆえにあっさりと敗れ去った。

その後は消息不明として、ドライバッハの物語を書き記したどの書物にも、ただの1字も触れられていない。


「単なる悪役、チョイ役。未来の英雄に倒されるだけの小悪党。ひひひ……俺には似合いの役どころだが、奴は気に入らなかったらしい。俺が噂と違って結構な使い手だったからかもな。奴の言う覇道になんか興味なかったからそう言ったが……ま、負けた弱みだ。俺の名前をどこにも残さねぇ条件で奴に従ったってわけよ」


王の軍門にくだり表立って活動する必要がなくなってからは、宝探しや食料の調達を主な任務とし、時には斥候やせんぺいとして戦場に赴くこともあった──種族として多弁な半猫族らしく、ダカツが早口で自らの為人ひととなりをざっと語った。


ドライバッハと彼の仲間たちが常に潤沢な資金を持ち、物資の補給や食事に不自由することなく、常に優位戦を戦えていたのは、彼のような名もなき人々の助力があったからこそなのだろう。

敬意をこめて視線を向けると、ダカツが照れたように笑った。

「俺なんか喜ばせてどうする気だよ。俺は男色家だが、お前はそうじゃねぇだろ」


「でも、悪い気、しないでしょ?」

ロシュは内心で勇気を出し、口を開いて声を発する。

わずかに残った喉の違和感がゆっくりと消えてゆくのが分かったからだ。


「まぁな」

悪くないとでも言いたげに鼻を鳴らしたダカツが、「お前、カネは持ってンのか」

「今のお金、いるの?」

「時々、奴らの使いっぱしりをな。あって困るもんでもねぇし。で、どうなんだ」


ロシュは頷くと、傍に無造作に置かれていたリュックサックを開けた。

縫物ができるようになりたくて作ってみた、不格好な小銭入れを取り出す。

自分の物だからか、試練の地に入っても没収されなかった。


ザクセンから小遣いとして渡された銀貨が2万クレジット分、20枚ほど入っている。

とりあえず5枚渡そうと思って用意したが、思い切って全部を石床にぶちまけてみた。

ほのかにあおじろいランプが一つと持っているだけの暗い地下に銀貨がきらめき、乾いた高い音を立てて小さく跳ねる。


「いつ見てもいい眺めだぜ、ひひひっ、たまんねぇ」

にやりと笑ったダカツが、惚れた美少年を扱うような優しい手つきで銀貨を掴み、懐にしまいこんだ。「治療費として全部いただいてもいいが……ドライバッハの野郎、困ってる奴をっとくなってうるせぇからな。今からお前にお節介を焼いてやろう。遠慮なんかすんじゃねぇぞ、小僧。俺の問題でもあるんだからよぅ」


一通り喋りまくって一方的に宣言したダカツが、再び腐臭が漂い始めた方向へ、数本の短剣を投げつける。

異形の魔獣が叫び声を上げ、不気味な色の宝石を残して消えた。

2022/10/12更新。

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