成果と激励
グレーゴルは嬉しそうに全身装甲に身を包んだ。
魔法を使っているのか、その動きには少しの迷いもなく、誰の助けも要らないほど滑らかだった。
『こいつぁすげぇや』
かつての輝きを取り戻した愛用の品をじっくりと確かめたあげく、喜びの声と共に立ち上がって、かたかたと笑った。『いい腕だ、ロシュ!』
「役に立てて良かった。今度は大事にしてね、ぼくが手入れしに来れるかどうか、わかんないし」
『そこは心配してねぇさ。継続的に鎧の手入れを恃むかどうかはともかく……。お前は生きて塔から脱出できる。周りは敵だらけで痛い目やら怖い目にも嫌ってほど遭うだろうけどな』
「え゛ぇぇ~? やだなぁ、痛いのとか……」
『しょうがねぇべ。ひとりで頑張るって自分で決めたんだろ。決めたことは守れ──できなくてもいい、守ろうとしてみるんだよ』
「う……うん」
『よーし! そんじゃあ、無茶振りの詫びと見事な仕事の礼をしなくちゃいかんな。何か欲しい物とかあるか?』
いつの間にか隣に立っていた女戦士をちらりと見る。
大きな青い瞳が『遠慮は不要だぞ』と雄弁に語っている。
「道具が欲しい。たくさん欲しい。ぼくは道具がないと何もできないから」
『ちがーう。道具があれば仕事ができる。ギルドで勉強してるんだろうに』
表現に気を付けると良い、と優しく諭してくれていたのは誰だったか。
ライヒェルト兄さんだ。
同じ言葉でも言い方によって意味が違う。長所を短所のように言えば、簡単に他者を追い込める。
逆に短所を長所であるかのように装い、ごまかすこともできる。
お前はどんな言葉を使う?
そう言って整った顔を優しく笑み崩し、頭を撫でてくれたものだ。
「……道具があれば、仕事ができる。ぼくの大事な仕事」
『そうだ』
満足げに深く頷いた骸骨戦士が、もう一度、先ほどと同じ問いを投げて来る。
ロシュは小さくうなずいて、息を吸い込んだ。
「ぼくの仕事の価値を、ぼくを認めてくれるなら……特別な道具を用意して欲しい。です」
『よろしい』
まるでどこかの王様みたいにふんぞり返って同意し、グレーゴルが水晶の指を音高く打ち鳴らす。
「わぁっ……!」
おもちゃ箱をひっくり返したように、多数の物品を無造作に呼び出した。ざっと見て、30種類くらいある。
『どれか1つ、なんてケチ臭せぇ事ぁ言わねぇ。好きなの惹かれるの役に立ちそうなの、まとめて持って行きな』
遠慮する前に先手を打たれてしまい、ロシュは苦笑して再び物置の床に座り込んだ。
新たに持ち出されて来た物品の群れに手を伸ばし、丁寧に触れてゆく。
仕事に対する例と言うことで少しは気を遣ってくれたのか、ある程度は分類されているようだ。
小型の武器や魔法の防具、魔法の道具の中でまずロシュの目についたのは、【忍者】が用いる特殊な投擲武器に酷似した品物。「これ……手裏剣っぽいね」
『作った奴の趣味なんだと。誰でも使えるように工夫してあるらしい』
「ふぅん……使えるなら、使ってみたいな」
『黒土乃国』には冒険者達が共同生活を送る集落が発展して出来た小国『郷』がいくつもある。
戦闘のプロたる【忍者】が集まった『郷』は国じゅうの信頼と尊敬を集めていたりする。
もちろん、ロシュも彼らに憧れる1人だ。
『おう、使ってみろ。次はどれだ?』
これから挑む塔の難度を考えると、どんな想定をしても足りないが……ロシュは自分の身に何が起きても適応できるように意識して、道具を選んでいった。
これで十分、なんてことはあり得ないけど、とにかく8種類10個ほどのアイテムを選び抜いた。
『もういいのか』
「うん。これで頑張ってみる」
『わかったぜ。そんじゃあ、お前がどこまでできるか……おれらに見せてくれ。勝手にお節介を焼いたりするかもしれねぇが、まあ、悪意じゃねぇことだけは保証できるからよぅ。怒ったりせずに受け取ってくれや』
「はい!」
『よし。じゃあ、そうだな……地下37階くらいから行ってみれ』
こともなげに言って、グレーゴルがまた指を鳴らす。
と見るや、
「え? あ……ぅわああーっ!」
ばくりと巨大な生物のように口を開けた床板が、ロシュを地下塔の深くへと落とした。
2022/10/6更新。




