助手に憑りつかれたサーファー気取りの男
目を覚ますと白衣を着た男が立っていた。
名前を聞くと「平山です。助手をしています」とだけ答える。
冷静に警察を呼ぶことにした。
しかし、彼らにその男は見えないようで、異常者扱いされる。
「言ったでしょう、無駄だと」
男は冷静に言った。
ようやく俺は、ヤバイ奴に憑りつかれたと気づく。
こいつは幽霊だ。
それから数日。
俺は普段通りの生活を送る。
愛用するサーフィンを車に乗せ、都内のスタジオへ。
モデルたちと一緒に写真を撮ってSNSに上げるのが日課。
というか、仕事。
これをやるだけで金が稼げるのだから、良い時代になったものだ。
「海へ行かなくてもいいのですか?」
平山が言う。
こいつはどこへ行こうと付いてくる。
車に乗ろうが、電車に乗ろうが、同じ速さで並走するのだ。
「ああ……別に行く必要はないだろう。
どうせ俺、泳げないし」
「今からスイミングスクールに通っては?」
「はっ! ばかばかしい!」
今更そんな無様な真似ができるか。
週刊誌に写真を撮られて以来、ナイーブになっていると言うのに……。
俺はスタジオの備品であるプールサイドチェアに寝転び、天井を見上げる。
まばゆい照明が太陽のように輝いている。
本当にこのままでいいのか……。
平山に憑りつかれてから、少しずつ今の自分を疑問に思うようになった。
「はぁ……はぁ……」
「ようやく5メートル泳げるようになりましたね」
何を血迷ったか、俺は水泳の練習を始めた。
都内のプールで小学生に交じり特訓をしている。
コーチはもちろん平山だ。
「落ち着いて呼吸をしましょう。
同じ動作を繰り返せば必ず泳げるようになります」
「ああ……分かった」
一緒にプールに入った平山がアドバイスしてくれる。
奴は水中でも白衣を着たままだった。
数か月後。
泳げるようになった俺は、ついに海へ行った。
サーフボードをわきに抱え、鈍色の海を眺める。
「さぁ……いよいよ本番ですよ。
心の準備はよろしいですか?」
「ああ、行ってくるよ」
平山が見守る中、俺はサーフィンに初挑戦する。
波には一度も乗れなかったが、手ごたえを感じる。
陸へ戻ると、人だかりができていた。
「すげー! サーフィンしてるよぉ!」
「週刊誌のアレ、嘘だったの?」
「マジで本物ジャン!」
面白半分で写真を撮る野次馬たち。
もう何も気にならない。
平山の姿を探すが、見つからなかった。
おそらくだが……彼は俺の未練を姿に現した存在だったのかもしれない。
今までありがとな、俺はもう一人で大丈夫だ。