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99.王都からのSOS

 トントントン――

 扉をノックする音が聞こえて、私はどうぞと声をかける。扉を開けて研究室に姿を見せたのは、私にとって意外な人物だった。


「シズク!? な、なんで?」

「戻ってきたのか」

「うん。ついさっき……なんでそんなに驚いてるの? アメリア」

「だ、だって! シズクが入り口から入ってくるなんて!」


 いつも窓から入ってきたり、私が気づかないうちに部屋にいたり……思い返しても、普通に入り口から入ってきたのは初めてだった。


「私をなんだと思ってるの……?」

「えっと、恥ずかしがり屋さん?」

「うぅ……」

「はははっ、案外間違いじゃないな」


 トーマ君が楽しそうに笑う前で、シズクはムスッと恥ずかしそうに視線を逸らす。不機嫌にさせてしまっただろうか。

 私は慌ててごめんと謝ったけど、シズクは気にしていないといつも通りの冷静な表情で答えた。

 彼女は研究室を左から右へと眺める。


「あの王子は帰ったの?」

「え、あ、うん。殿下なら昨日王国に戻られたよ」

「そう……」

「ありがとうシズク。シズクが出発する前に言っていた意味がわかったよ」


 周囲からどういう風に見られているか気にしたほうがいい。そんな意味合いの忠告を、私はシズクにされていた。

 言われた時は意味がわからなくて首を傾げたけど、今ならちゃんと理解できる。自分がこの数か月でしてきたことの意味を。


「これからは気を付ける。と言っても、やることは普段通りなんだけどね」

「そうだね。そこは無理に変えなくていい」

「うん。でも殿下がいい人で本当によかったよ」

「……え?」


 シズクのキョトンとした顔を見ながら、シーンとした静寂が場を包み込む。その静寂を破って、シズクが私に問いかける。


「いい……人?」

「うん。とってもいい人だったよ。ちょっと変わっているけど優しくて、街の変化も見たでしょ? 殿下が手伝ってくれたおかげで冬も乗り越えられそうなんだ」

「……あれがいい人……アメリア、騙されてない?」

「ぷっ、ふふ……とことん信用ないな、あいつは」


 心配そうにアワアワするシズクと、クスクスと面白そうに笑うトーマ君。どうやらシズクの殿下に対する評価は、世間で言うところの馬鹿王子のままみたいだ。

 それはすごく残念だから、ぜひいずれちゃんと話す機会を設けてほしい。殿下の人となりを知ればシズクも、彼への評価が変わるはずだから。


「ははっ、そういえばシズク、あいつの国に行ってたんだろ? もう仕事は終わったのか?」

「ううん、途中。別の命令が来た」

「へぇ、珍しいな。いつも下された命令が終わるまで、次の命令は来てなかっただろ?」


 シズクはコクリと頷く。これまでを知らない私にも、二人の会話からよほど緊急の要件が生まれたことを察する。

 シズクは王国に属する諜報員だ。その仕事の全貌は知らないけど、とても重要かつ繊細な情報を扱っていることは間違いない。

 そんなシズクに下された新しい命令って、いったい何だろう?


「急ぐのか?」

「うん。すぐ王都に戻ってきてほしいって言われてる。それから――」


 シズクの視線が意味深に私へと向く。


「シズク?」

「……アメリアを連れてくるようにって、言われてる」

「え?」

「――!? どういうことだ?」


 トーマ君が血相を変える。シズクに理由を尋ねたところ、王国から新たに下された命令というのが、私を王都に連れて帰ることだったらしい。

 私は困惑する。今さらどうして、私を王都に連れて行こうとするのか。その理由に心当たりがなかったから。

 いいや、もしかしたらこれもシズクが忠告してくれた意味の一つかもしれない。私の錬金術が便利だから、王国へ引き戻そうとしている……とか?

 だとしたら、それこそ今さらなのだけど。


「どういうことだ? どうしてアメリアを?」

「詳しくはわからない。ただ、王都でよくないこと……が起きてるみたいで。その解決のためにアメリアの力が必要らしい」

「よくないこと?」

「病気、感染、それも薬が効かない特殊なものが広まってる」


 シズクは自分宛に届いた命令書を私たちに見せてくれた。本来、彼女に与えられる任務は極秘であり、親しい友人であっても全貌を知ることはできない。

 ただ、今回は特別だからと言って見せてくれた。そこに記された内容によると……。


 今、王都では数種類の病気が広がっている。始まりは魔物の討伐から帰還した騎士たちだった。

 彼らは怪我を負い、その治療のために急いで帰還した。幸い深い傷ではなかったものの、傷口から魔物の毒を受けていた。

 通常、魔物から受ける毒や病気は特殊であり、薬や民間療法では治すことができない。そういう場合にポーションが役立つ。魔物との戦闘も頻繁に経験する騎士たちのケアも、宮廷で働く錬金術師の仕事だった。


 ポーション作りは錬金術師なら誰でも経験する当り前のことで、練度の差はあれど宮廷で働く者であれば一日に数十本作る程度余裕で熟せる。

 少なくとも私は、一日に数百本近いポーションを作ったこともあった。

 日ごろから必要になった時に備えて、ポーションを作成して倉庫で保管している。大規模な戦闘がある場合を除き、在庫が枯渇することはなかった。

 しかし今回は異例の事態が起こってしまった。

 騎士たちが受けた毒はポーションの効きが悪く、回復までに時間がかかった。加えてその毒は周囲の人間へ移る。

 魔物の毒は病気となって他の騎士たちに広まり、そこからさらに城や王宮で働く人間へ次々と感染していった。

 瞬く間に感染は広がり、現在では王都で暮らす人々の半数が魔物の病に侵されている。

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