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94.結晶化

「トーマ君、必ず助けるから」

「アメリア……ああ、信じているよ」


 今こそ期待に応えるべきだ。私も手に力が入る。そこへもう一人、およそ人の物ではない足音が屋敷に近づいていた。

 この足音は――


「リア姉さん! 採ってきたぞ!」

「イルちゃん。ありがとう」


 召喚獣の猿舞の肩に乗ったイルちゃんが勢いよく玄関の扉を開けてやってきた。彼女は両手に花や木の枝を抱え込んでいる。


「こんだけあった! とりあえず持てるだけ持ってきたんだ」


 どさっと地面に置かれた植物たち。進行度は違うけど、全部に結晶化の症状が現れている。どうやら結晶化は人間より植物のほうが早く進むらしい。

 単に大きさの違いだろうか。毒物も、身体が小さい生物のほうが早く全身に回ってしまう。もしくは生まれ持つ耐性によって変化する。

 私はさっそく結晶化した植物の調査を開始した。

 視診、触診、錬金術による解析を試す。いくつかの調査を終えて結論が出る。

 この結晶化は、まず初めに体表面が結晶化することで始まる。皮膚や体毛といった身体組織が直接変化するわけではなく、氷の幕が覆うように皮膚や皮の上に結晶ができる。

 そこから結晶化の範囲が広がり、完全に外界から遮断されたところで症状は急激に悪化し、内部の結晶化が始まる。結晶化の進行は外から中へ。不完全な結晶化だった植物は、観察していた二時間あまりで全体の一割ほど進行した。

 速度は対象の大きさによって変化し、小さい個体ほど結晶化が進む速度は速い。手の平サイズの花が完全に結晶化するには、おおよそ一日程度あれば十分のようだ。


「たぶん人間の場合はもっと遅い。けど、エルメトスさんが一週間後にはって言っていたから、遅くても一週間以内には完全に結晶化すると思う」

「完全に結晶化したどうなる?」

「……そうなったらもう、助けるのは難しい」

「そうか……だったらそうなる前に治療しないといけないな」


 私は頷き、頭の中で情報を整理する。完全に結晶化した物質は、元の物質を構成する要素と魔力の結晶がまじりあった状態になっていた。

 全ての組織が完全に結晶へと変化しているわけじゃなかったのは嬉しい情報だった。もし完全に変化しているのであれば、結晶化が始まった時点で手の施し様がない。

 いかに錬金術でも、無から新しいものは生み出せないように、素材がなければ元の形には戻せない。花や木なら結晶と植物に分離させられる。

 ただし、この方法は人間には使えない。分離させた花は一時間も経たずに枯れてしまった。これはつまり、結晶化した時点で生命は消失したことを意味する。

 錬金術で形は戻せても、終わってしまった命まで元通りになることはない。いよいよ手遅れになる前に処置しないといけなくなってきた。

 今から試せるのは、状態異常を治癒するタイプのポーションだ。これも一種の状態異常だとすれば効果はあるかもしれない。

 初日は作れるだけポーションを作成して終わった。


 翌日。領民の方々の多くに結晶化の症状が現れてしまった。昨日見せに来てくれた男性は、結晶化が右腕を全て覆うまでに至る。

 関節部分も結晶化してしまい、満足に動かすことができなくなっていた。しかし痛みは感じないらしい。あくまで表面だけが結晶化しているせいだろう。

 ただし、関節部分には痛みが生じているようだった。これは動かせないことによる拘縮の痛みだろうと推測する。結晶化による痛みはなくとも、動かせないことによる影響が出てしまう。

 対応は急を要する。

 昨日作成したポーションを使用したが、どうやら効果はなかった。状態異常回復ポーションでは改善の見込みはなさそうだ。

 治癒系のポーションも一緒に試したけど。同じく効果はなかった。痛みの軽減にはなるので、引き続き量産は進めておく。

 私たちは今日も研究室で頭を悩ませる。


「結晶化は病気でも状態異常でもないってことだな」

「うん……トーマ君は平気なの?」

「ん? ああ、今のところ俺にはなんともないな。イルやシュンたちも今朝確認したが無症状だったよ」

「そっか」


 ホッとする気持ちと、個人差の部分にも疑問を抱く。今のところ症状が出ているのは比較的若い男女だった。

 私の予想では、長くこの領地に暮らしている人ほど発症が早い、というものだったけど、ご老人はむしろ遅いようだ。

 活動性の高さが影響しているのか。ただし子供たちにも影響が出ていない点から、滞在時間は無関係じゃないと思う。

 それに同じ年代で、同じくらいの活動量、性別も一緒な人でも症状に差が生まれていた。時間や活動性だけじゃない。他にも要因があると予想される。

 この結晶化は異質な魔法のエネルギーが蓄積されることによって起こると、エルメトスさんが教えてくれた。

 だとしたら……。


「魔力の総量が、発症に関わっているのかもしれないね」

「魔力が多いほど症状の出が遅いってことか?」

「うん。人間は誰しも魔力を宿してるけど、その量には個人差があるでしょ? 自分の魔力が、異質な魔法に対する抵抗力になっているのかも」

「その理屈だと、俺やシュン、あとイルあたりは症状の出が遅そうだな」


 トーマ君ははじめからこの地で暮らしていたわけじゃない。イルちゃんも年齢的に滞在時間が短い。予想通りなら、この三人の中で最初に症状が出るのはシュンさんだ。


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