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84.新しい街へ

 殿下が部下に命じ、あっという間に素材を乗せた大量の馬車が領地に入る。降り積もる雪をかき分けながら進むのは大変だっただろう。

 馬車の定員の三倍以上の人員を集めたことで、なんとか素材を居住区の付近まで輸送することができたらしい。

 彼らの到着を知った私たちは、エルメトスさんから貰った結界の魔導具を展開させる。結界が発動した直後から吹雪は止む。

 晴れ渡る太陽こそ見えないが、久々に穏やかな空気の流れが周囲を包む。結界によって外から吹き抜ける風は温かさを宿し、真っ白な化粧をした街の気温を上げる。

 ただし当然、一階が埋まるほどの積雪を溶かすことはできない。これからの作業には領民の方々の協力もいる。その前に除雪作業だ。

 いちいち掘ってかき分けていては時間がかかりすぎる。

 こういう時、彼女の存在は大きい。


「――おいで、猿舞!」


 イルちゃんがペンダントを媒介にして召喚した炎の大猿。猿舞は猛々しい炎を身にまとい、道を塞ぐ雪をかき分けていく。


「どんどん掘っていけよ! 雪なんて全部溶かしちゃえ!」

「イルがいてくれて助かったな」

「うん」

「うむ、以前に見た時よりも少し大きくなっているな。成長しているのか」


 イルちゃんが猿舞で雪かきをしている様を遠目に見ながら、私たちもスコップを使って雪かきの手伝いをする。

 殿下も猿舞の存在を知っていたみたいで、あまり驚いていなかった。

 イルちゃんの召喚獣、猿舞は炎を司る獣。炎の力を宿している彼女は、冬の寒さに耐えうる身体を持っている。

 吹雪が止み、結界で遮断してもまだまだ寒い。

外で作業すると手がかじかんで、吐く息も凍る。そんな中で元気いっぱいに動けるのは、イルちゃんだからこそだ。

 そして、冬の寒さに強いのは彼女だけじゃない。


「フレアストロー」


 熱線が降り積もった雪を一瞬で溶かし、懐かしき地面が顔を出す。魔法を放ったシュンさんが、小さく息を吐いて安堵した表情を見せる。


「さすが」

「道だけを狙って溶かすのは大変なんだぞ?」

「知ってる。けど、シュンなら余裕だろ?」

「簡単に言ってくれるな」


 シュンさんは炎の魔法を得意としている。以前、ドレイクを討伐するときに見せてもらった炎の魔法は凄まじかった。

 シュンさんは上手く威力を調整して、建物や植物を傷つけないように雪だけを狙って溶かしている。私には魔法の技術はわからないけど、きっと誰でもできることじゃない。

 イルちゃんとシュンさん、二人のおかげでどんどん街並みが雪の中から顔を出す。その様子を横目に、トーマ君がぼそりと呟く。


「俺も炎の魔法が使えたらよかったんだけどなぁ……」

「トーマ君の得意な魔法は氷だもんね」

「ああ、この状況じゃ何の役にも立たない」

「そんなに落ち込まないで。私だって錬金術しか使えないんだから。誰だって、できることとできないことはあるんだよ」


 適材適所という言葉があるように、人間はそこまで完璧な生き物じゃないことを、みんなが知っている。どれだけ知識を蓄えても、知らないことは増えていく。

 才能に恵まれていても、異なる分野では素人同然で役に立たないことだってある。一人の人間が手にできる力はそんなに多くない。

 だからたくさんの人たちが必要で、私たちは一か所に集まり街を作り、国を作って発展してきたんだ。


「そうだな。今はこれでいい」

「うん」

 本当にこの領地には、頼りになる仲間がたくさんいる。おかげで私も自分の仕事がやりやすい。

「な、なんだ? 雪が溶けていくぞ?」

「もう冬が終わっちまったのか」


 イルちゃんたちが雪を取り除いたおかげで、建物から人々が姿を見せる。何事かと戸惑う彼らにトーマ君が歩み寄る。


「あ、領主様! これは一体……」

「今から説明します。皆さんの力も貸してもらいたいから」


 トーマ君の元には次々に領民の方々が集まっていく。トーマ君は彼らにわかりやすいように状況を説明し、これから何をするのかを。

 みんなが驚いていた。そんなことができるのかと、疑問を口にする者たちも多かった。そんな彼らにトーマ君はハッキリと、やり遂げると宣言する。


「できるんだ。俺たちと、ここにいるみんなの力を合わせれば必ず」

「お、おお! この寒さから解放されるんですね!」

「もちろん協力します! 俺たちは何をすればいいですか? 領主様!」


 トーマ君の話を聞いて、領民の方々のやる気にも火が付いたらしい。これで人員がさらに増えてくれた。トーマ君が私の元へ戻ってくる。


「アメリア、領民の協力は得られた。ここからは並行して作業を進めよう」

「うん。私は獄煉石の錬成をするよ」

「建設の指揮は俺に任せるのだよ。あらかじめ外でやれる作業は終わらせてから部品を運ばせている。二日と半日、見事に完成させてやろうではないか」

「ああ。俺はこのまま領民たちと一緒に除雪作業を続けるよ。イルとシュンも、そろそろ魔力が限界だろうからな」


 トーマ君の視線の先には二人の姿がある。二人とも頑張ってくれているおかげで、居住区の半分の雪を取り除くことができた。

 その額からは季節に似合わない大量の汗が流れ落ちる。元気いっぱいだったイルちゃんも、今は肩で息をしていた。


「あたしはまだ、もうちょいならいけるぜ」

「無理するなイル。倒れられても困るんだよ」

「シュン兄だってヘロヘロじゃん。あたしより先に休んだほうがいいんじゃない?」

「大人を侮るなよ。自分の限界くらい把握してる」


 トーマ君の言う通り、二人とも休んでもらったほうがよさそうだ。もう十分に働いてもらった。ここから先は私たちの大仕事だ。


「トーマ君、殿下、必ず時間内に終わらせましょう」

「おう」

「当然なのだよ。俺が指揮するのだ。終わらないなどありえない」


 私たちは誓い合い、それぞれの方向へと歩き出す。自分がなすべき役割を全うするために。この地にいる理由を証明するために。

 この瞬間から約二日後。

 領地は新しい姿へと変化した。

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