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77.できることを

 すぐさま二人が私とトーマ君の元へ駆け寄ってくる。顔を近づけ小さな声で、殿下には聞こえないように私たちに尋ねる。


「おいトーマ、何があった?」

「滞在するってなんだよ! ずっとあいついるの? ちょっと主様! リア姉さん!」

「事情は今から説明する。いったん落ち着いてくれ」


 トーマ君はやれやれと首を横に振り、二人にここに至るまでの経緯を説明した。私はそれを隣で聞いている。


「――というわけで、俺たちは勝負に一応勝った……ことになった」

「その時の勝利報酬として、エドワード殿下に領地の問題解決に協力してもらうことになった……か。なるほどな」

「あたしは全然意味わかんないんだけど!」

「俺も正直理解は難しいな。その場にいなかったから……でも――」


 シュンさんは私と視線を合わせ、優しい表情で尋ねる。


「二人で決めたことなんだろ?」

「……はい」

「ああ。俺とアメリアが望んだことだよ」

「そうか。だったら異論はない。ここの領主はトーマだ。その領主様が決めたことに従うのも、俺たちの役目だからな。そうだろ? イル」

「うぅ……あたしあの人苦手なんだけど……」


 イルちゃんはもの凄く嫌そうな顔をしている。過去に何かあったのか。単にイルちゃんと殿下は性格的に相性も悪そうだなと思う。

 勝手に決めてしまったことを申し訳なく思いつつ、後悔はしていなかった。イルちゃんも、嫌そうな顔をしながらも頷く。


「主様とリア姉さんがそうしたいって言うならいいよ」

「悪いな、イル」

「ありがとう、イルちゃん」


 私たちは精一杯の感謝の気持ちを、声と笑顔で伝えた。


「その代わり! あたしは普段通りにしてるからな!」

「それでいい。あいつも、もてなしてもらうために来たわけじゃない……そうだろ?」

「ん? なんだ俺の話をしていたのか?」

「お前以外に誰がいるんだよ。どうせ話は聞こえてたんだろ?」


 トーマ君の問いに殿下はニヤりと笑みを浮かべる。どうやら本当に聞こえていたらしい。


「無論だ。そもそも、こんな状況の領地で俺を満足させるもてなしなどできるわけがない。期待していないから気にすることはないのだよ。小さいメイド」

「なっ、馬鹿にすんなよな! 王子の一人くらい余裕でもてなせるっての!」

「そうか? そうとは思えないが」

「くぅ……じゃあ見てろよ。絶対満足させてやるからな!」


 そう言ってぷんぷん怒りながらイルちゃんは食事の支度に向かった。私たちは去っていく彼女の後姿を眺めなら口をそろえる。


「まんまと乗せられたな」

「そうだね」

「はっはっはっ! 相変わらず面白いメイドだな。うちにほしいくらいなのだよ」

「絶対あげないぞ」

「む、お前は何ならくれるのだ?」

「何もだよ。少なくともこの領地にあるものはダメだ」


 今更だけど、イルちゃんも殿下に対して大きな態度で接していた。殿下は気にしていないみたいだし、あれが普通なのだろう。

 普通、使用人があんな態度をとったら大問題になるのに。

私のほうが変に緊張してしまいそうだ。


 屋敷へ戻った私たちはさっそく冬の問題とその対策について話し合う。今日くらい休んでもいいとトーマ君は言ってくれたけど、外の状況を目の当たりにして休んではいられない。

 トーマ君の部屋に集まった五人。私とトーマ君と殿下がソファーに座り、シュンさんとミゲルさんは私たちの後ろに立つ。

 テーブルの上にはイルちゃんが用意してくれた温かい紅茶が置かれていた。殿下は紅茶のカップを手に、一口飲んでホッとした顔で微笑む。


「悪くはないのだよ。安物ではあるが」

「お前のところと一緒にするな。これでもうちで一番いい紅茶だぞ」

「そうか。それは悪いことを言った。他意はないのだよ。素直に驚いている。こんな状況下でも、客に振舞える物があるのだな」

「……やっぱり馬鹿にしてるだろ」


 トーマ君は大きくため息をこぼす。殿下の表情は決してちゃかしているわけでもなく、どちらかといえば真剣だった。

 窓の外を見つめる視線も、いつになく鋭い。私も窓のほうへと視線を向ける。今もずっと吹き続ける吹雪で真っ白だった。


「見ての通り、この季節最大の問題はあの吹雪だ。冬が終わって春が来るまで、ほぼ毎日あの状態が続く。おかげで迂闊に外にも出られないんだ」

「これが一月……」


 以前、トーマ君とイルちゃんと一緒に雪山に登った時のことを思い返す。あの時も吹雪が凄くて、歩く先が全く見えなかった。

 雪山だから当然といえばそうなのだけど、この領地の冬は雪山と同じかそれ以上の吹雪が吹き荒れている。しかもこれが一か月ずっと続く。

 トーマ君曰く、冬に晴れ渡る青空を見たことは、今まで一度もないらしい。


「ぞっとするのだよ。常識では考えられない劣悪な環境なのだよ。領民たちもよく逃げ出さないものだな」

「だからこそ、俺たちにできることを最大限したいんだ。この地を愛し、今も残ってくれている人々のために」

「そうだね。私たちにできることをやろう」

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