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74.街の声

「トーマ君、お願いできる? 私じゃ梯子に乗っても手が届かなくて」

「まかせとけ。コーディングレイヤと一緒でいいんだな?」

「うん。使い方は一緒だよ」


 錬金術によって生み出された緑色の液体を、刷毛を使って天井に塗っていく。

 粘性の強いこの液体は、コーディングレイヤに近い性質をもった別の物質だ。

 私が新しく作り出したもので、名前もまだない。

 

「ほう。あれで雨漏りが解消されるんですな?」

「はい。塗ったあとはちょっと新築の家みたいな匂いはしますけど、時間が経てば乾いて無臭になります。錬成は成功しているので、効果もしっかり出るはずです」

「ほうほう。難しいことはよくわからんですが、これで安心して眠れる」


 初めて錬成した物質も、錬成に成功したかどうかで効果は変わる。

 さっきの感覚はこの上なく大成功だった。

 これでちゃんと効果が発揮されなかったら、私の見立てが間違っていることになるけど。

 そこは長年やってきた経験が言っている。

 大丈夫だって。


「終わったぞ。これでいいか?」

「うん、ありがとう」


 天井に塗り終わったトーマ君が梯子から降りてくる。

 空っぽになったバケツには液体が固まった跡がついていた。

 軽く触ってみて、べたつかないことを確認する。

 同様に天井に塗ったこれが固まれば、木材の補強と雨漏り防止の両方が達成される。


「すまんな兄ちゃん。ワシも早々肩があがらんから」

「お構いなく。慣れてますから」

「お爺さん、これもどうぞ」

「ん? なんじゃこれは? ポーションか?」


 私はカバンから小瓶にはいったポーションを取り出し、お爺さんに手渡す。


「肩の痛みが強いときに飲んでください。強い鎮痛の効果があります」

「ほう、痛み止めか」

「そうです。慢性的な痛みはポーションでも完治はできないですが、痛みを抑えることはできます。薬より即効性があるので役に立つはずです」

「ポーションは高価なものなんじゃろ? よいのか?」

「気にしないでください。私は同じポーションでも安く作れますから。もちろん効果は保証しますよ」


 お爺さんを安心させるため、私はめいっぱいの笑顔で答えた。

 自分は腕のいい錬金術師だと自慢しているみたいだけど、こうして相手に信用してもらうために自分を大きく見せるのは必要なことだ。

 自信なさげな人に頼るのは不安でしょう?

 だから時には見栄を張ることだって必要なんだよ。


「すまんのう、ここまでしてもらって。返せるものは何もないというのに」

「それをお気になさらないでください。むしろ、私の我儘に皆さんを付き合わせてしまっているようなものですから。私のほうこそ感謝しています」

「よくできた娘さんじゃ。ワシに孫がおったらぜひ嫁にほしいくらいじゃわい」

「ふふっ、そのお気持ちだけで嬉しいです」


 優しいお爺さんだ。

 よそ者の私たちの言葉をすぐ信じてくれて、温かい言葉をくれる。

 この人だけじゃない。

 きっと、この街の人たちはみんな優しいんだ。

 街全体から人の温かさを感じるから。


「殿下もよい人を連れてきてくれたもんじゃ。いつも助かるのう」

「いつも?」


 お爺さんの一言に反応する。


「こういうことって初めてじゃないんですか?」

「ん? 錬金術師の人は初めてじゃよ? お祭りみたいになったのも初めてじゃな」


 ならどうして、いつも、なのか。

 気になった私は問いかけた。

 するとお爺さんは家の外にゆっくりと歩き出し、私たちを案内する。

 家から出るとそこには、ちょうど殿下とその部下たちの姿があった。


「早急に終わらせろ。必要な資材の確保はしてある」

「はっ!」

「申し訳ありません。殿下にこのような私事を手伝わせてしまうなんて」

「気にするな。これも俺のためだ」

「ありがとうございます」


 悩みを聞いてもらった人が殿下に深々と頭を下げている。

 その視線には感謝と、憧れに近い感情が籠っているように見えた。


「殿下がワシらの悩みを聞いてくださったのは初めてではないんじゃよ」

 

 その様子を見ながらお爺さんは語り出す。


「殿下がこの街に来るようになってから、時折街を回っておられてのう。その時に決まって尋ねてくださるのだ。何か困ったことはないか、とな」

「あいつがそんなことを?」


 トーマ君も驚いている。

 お爺さんは軽く頷いて続ける。


「本人は退屈凌ぎだとおっしゃっておられるが、ワシらの悩みに真摯に応えてくださる。とてもお優しい方じゃよ。王都ではどう呼ばれとるか知らんがのう」


 馬鹿王子……。

 それが殿下を表す言葉だと、お爺さんも知っているのだろう。

 だけどお爺さんはそれを否定する。


「ワシはエドワード殿下こそ、この国の王に相応しい方じゃと思っておるんじゃよ。ワシらのような弱い者に目を向けてくださる。そんなお方にこの国を守ってもらいたい」

「お爺さん……」

「きっと、ワシだけじゃないはずじゃ」


 そう言ってお爺さんは街の人たちを見つめる。

 殿下を見る人々の目は、どれもキラキラと輝いていて。

 誰一人、彼を馬鹿王子だとは思っていない。

 この街での彼は、正当に評価されている。

 

 ふと、ミゲルさんの言葉を思い出す。


 殿下は素晴らしいお方です。お兄様方も素晴らしい方であることは確かですが、私は殿下のほうが優れていると思っております。


「勿体ないなぁ……」

「俺もそう思うよ」

「トーマ君」

「この勝負で勝ったら要求することだけどさ? こういうのはどうかな?」


 トーマ君が私の耳元で言う。

 それを聞いた私は明るく答える。


「いいと思う!」

「だろ? あいつにもう、退屈だなんて言わせない」


 トーマ君も同じ気持ちなのだろう。

 私より殿下のことを知っているからだからこそ、私以上に思うところがあったのかもしれない。


 そうして、時間は過ぎていく。

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