71.お悩み相談バトル
「勝負……だと?」
唐突な発言をした私を殿下は訝しむ。
目を細め、低い声を出す。
睨まれているようで少しだけ怖かった。
自分でも、どうしてこんなことを言ったのかわからない。
わからないけど、ここで引いちゃ駄目だと誰かに言われている気がする。
「はい。私と勝負をしましょう」
「……」
だから私はできるだけ平静を装い、めいっぱいの笑顔で答えた。
殿下は私をじっと見つめる。
その隣からトーマ君が歩み寄り、私に尋ねる。
「どうしたんだ、アメリア? いきなり勝負だなんて、何か理由があるのか?」
トーマ君は心配そうな顔で私と視線を合わす。
私は大丈夫だと伝えるように口角をわずかにあげて答える。
「ううん。二人の勝負を見てたら、今度は私の番かなって思っただけだよ」
「アメリア……」
納得、は難しいと思う。
私自身、どうして自分が勝負を口にしたのか未だにわかっていない。
自分でもわかっていないことを誰かに伝えるなんて無理なことだった。
それでもトーマ君は私の表情をしばらく見つめ、何か納得したような顔で目を伏せる。
「そうか」
そう一言口にして、彼は一歩下がる。
再び私は殿下のほうへと視線を向ける。
「殿下、私と……勝負して頂けませんか?」
三度目のお願い。
意図も伝えず、予定があったわけでもなく、一方的なお願いを。
私たちはついさっき出会ったばかりだ。
彼は隣国の王子で、私は他国の領地で働く一人の錬金術師。
身分の差は大きく、こうして向かい合って話していることすら奇跡に近い。
そんなお願い、普通なら聞くはずもない。
だけど私には不思議と自信があった。
この人は……断らない。
「ふっ、面白いな」
そう言って殿下は笑う。
退屈そうにしていた瞳が、少しだけ輝きを取り戻す。
「いいだろう。よくわからないが、その勝負受けて立つのだよ」
「ありがとうございます!」
やっぱり、思った通りの人だった。
心のうちでホッとしながら大きく長く呼吸をする。
「それで、勝負内容はどうするつもりなのだ? 先のように直接戦うのか?」
「そ、それはできません。私には戦う力なんてありませんから」
戦いなんてしたら大変なことになる。
もちろん私が。
二人の戦いを見た後だから自信を持って言えるよ。
二秒も立っていられない。
「ではどうするのだ? 戦闘以外なら、知恵比べでもするか?」
「知恵比べ、知識を競うんですか?」
「方法は?」
「知らん。お前たちで考えろ」
お前なぁ……と、トーマ君は呆れた顔で腰に手を当て肩をおとす。
畢竟、私が提案した勝負なのだから、私が考えなくてはならないこと。
力での勝負なんてする以前に結果が見えている。
知識……も、どういう知識を競うかで変わってくる。
錬金術に関することなら誰にも負けない自信はあるけど、それを勝負に持っていくのは聊か卑怯だ。
勝負はあくまで公平にいかないと。
「うーん……」
パッと思いつけば楽だった。
新しいものを作る時のようにアイデアが浮かばない。
悩む私を見つめるトーマ君と殿下。
そしてもう一人……。
「でしたら、こういうのはいかがでしょうか?」
と、助け舟を出してくれたのは私と一緒に二人の戦いを見守っていたミゲルさんだった。
「いい案があるのだな?」
「はい。失礼ながら意見させて頂いてもよろしいでしょうか」
「構わん。言ってみろ」
殿下の許しを受けたミゲルさんは提案する。
その内容は――
「この街に住む者たちから悩みや相談事を集め、それをどれだけ多く解決できるかを競うのです」
彼の提案はこうだ。
まず、街の人たちから日々の生活で困っていることを聞く。
実際に聞いて回るのは大変なので、箱と紙を用意して街の人たちに自主的に書いてもらう。
明日の昼まで待って、一度回収する。
その中から適当に、お互い一枚ずつ紙を引き、その悩みを解決する。
一つが終わればもう一度紙を引き、次の悩みへ。
お互いがもっている力であればなにを使ってもいい。
他者に協力を仰ぐのも自由。
◇◇◇
「――ということだ! 街の中心部に回収用の箱と紙を用意しておく!」
話がまとまった一時間後。
殿下は街の人たちを呼びかけ広場に集合させた。
急な呼び出しに何事かと慌てて集まる人たち。
仕事途中の人もいたみたいで、正直私は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「悩みを書けばいいのか?」
「よくわからんがそうらしいな。勝負と言っていたが誰と戦うんだ?」
「そもそもなんの勝負なんだ」
至るところから疑問の声が聞こえてくる。
ざわつく広間。
だけど殿下はそんなことは気にせず続けて説明する。
「悩みの内容はこの街の中でのことに限定する。参加はもちろん自由だ。興味のない者は無理に参加する必要はない。箱は明日の正午には回収する。よってそれまでに書け。今からでも構わん」
街の人たちは互いに顔を見合わせている。
疑問は多いだろう。
「どうする?」
「せっかくだし何か書いてみるか」
「そうだな。なんだかちょっと面白そうではあるし」
すでに興味を持ってくれた人もいるみたいでホッとする。
殿下にもその声は届いていたらしく、彼はニヤリと笑みを浮かべて最後の一言を口にする。
「俺からの話は以上だ! 戻って構わないぞ」
ぞろぞろと人がばらけだす。
急いで仕事に戻る人も大勢いた。
いきなり呼び出されて話を聞いてくれただけでもありがたいことだろう。
それに、箱の前にはもう人だかりができている。
「これで準備は整う。明日が楽しみなのだよ」
「はい」
勝負開始は明日の正午から。
それまでに私も、必要になるものを準備しておこう。
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