66.王子と領主
3/31と4/1にそれぞれ新刊がでます!
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街の真ん中は目立つ。
隣国の王子様が突然やってきて領主様と話している光景は、街の人たちにとって興味を引くものだろう。
興味、というより不安が大きいかもしれない。
隣国の第三王子の良くない噂はこの地ににも届いていた。
なにかよからぬことが起こるんじゃないか。
そんな不安を表情に見せる人たちもいた。
私たちは屋敷へと場所を移した。
応接室で私と王子様が向かい合って座る。
私の隣にはトーマ君がいて、その後ろにはシュンさんが立っている。
同じように王子様の後ろにも執事服を着たお爺さんが立っていた。
「改めて名乗らせてもらおう! 俺はアルザード王国第三王子エドワード・アルディオンだ! よろしく頼むぞ! 錬金術師……えーっと……名はなんというんだったか?」
「あ、はい。アメリアです」
「あーそうそう! そういう名前であったな! 忘れてしまっていたのだよ」
「は、はぁ……」
名前を聞いたのはつい数分前のはずなんだけど……。
私が微妙な表情を浮かべていると、王子様の隣に立っていた執事服のお爺さんが口を開く。
「申し訳ございませんアメリア様。坊ちゃまは他人の名を覚えるのが苦手なのです」
「は、はい。わかりました。えっと……」
「申し遅れました。私はミゲルと申します。エドワード坊ちゃまの専属執事をさせて頂いております故、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
ミゲルさんは凄く丁寧な人だ。
話し方も立ち振る舞いも、さすが王家に直接仕える執事さんだと納得する。
身近にいるメイドさんがフランク過ぎるせいかな?
こういう雰囲気にはちょっと慣れない。
二人の紹介が終わったところで、黙っていたトーマ君が咳ばらいをする。
「ごほんっ、それで? 本日はどのようなご用件で来られたのですか?」
「なんだトーマ、それはさっき伝えたはずだろう? 聞いていなかったのか? 俺はそこの錬金術師に用があって来たのだよ」
「アメリアです。そこは聞いております。私がお伺いしているのは、彼女にどのような用件があるのかということで――」
「トーマは相変わらず察しが悪いなぁー。それでは女性に嫌われてしまうぞ?」
エドワード殿下はニヤっと笑みを浮かべ、トーマ君を煽るように指をさす。
同じソファーに座っているから、彼が僅かにビクッと身を震わせたことがわかった。
そっと隣を見てみると、トーマ君は笑顔だった。
ただ、その笑顔からは苛立ちが漏れている。
「用件をお話されないのでしたら、こちらも対応しかねますがよろしいですか?」
「おいおい、この俺がわざわざ来てやったのだぞ? なにもせず追い返すなんて失礼な真似はしないであろうな?」
「……でしたらお早く用件をお話しください」
「このまま話してもつまらんだろう? まずはお前が答えを言ってみろ。当たっていれば教えてやろう」
どうやら殿下は話すつもりがないらしい。
というより、明らかにトーマ君をからかっている。
短気な人ならもう五回は怒鳴っているんじゃないかな?
相手は隣国の王子様だし、トーマ君も大人だ。
彼ならうまく対応するだろうと思っていた。
「どうした即答できんのか? やはりお前は頭が固いな! はっはっはっはっ!」
「……」
その時、隣からぶちっと何かがキレるような音が聞こえた。
ような気がした。
トーマ君の横顔は、作り笑顔すら崩れて――
「いい加減にしろよ馬鹿王子! 冷やかしに来たなら帰ってくれ!」
ついにトーマ君がキレた。
今まで彼が見せた怒りの中でも、特別大きな声で豪快に。
驚いてしまうくらいハッキリ苛立ちを解放していた。
王子様を相手にして……。
「ちょっ、トーマ君? こ、この方って王子様なんだよね?」
「ああ、そうだよ。隣の国の馬鹿王子だ」
「ば……シュンさん」
止めなくていいんですか?
声には出さず、視線だけでシュンさんにうったえかけた。
するとシュンさんは目を伏せ小さくため息をこぼす。
「大丈夫だアメリア。いつものことだ」
「え?」
いつものことって?
「大体な! アポもなしにいきなり訪ねてくるなよ! 領民が驚くだろうが!」
「よいではないか驚かせておけば。王族を間近で見られる機会など早々ないのだぞ? むしろいいことではないか」
「誰もお前を見たいなんて思ってないからな!」
「酷いことをいうではないか。仮にも俺は王子だぞ? これは国際問題になるのではないか?」
「今さらだろ!」
トーマ君の口調はどんどん荒っぽく砕けていく。
もう来賓を相手にする態度じゃない。
よく見知った友人同士のような……子供同士の喧嘩にも見えてくる。
「くっ、はっははははははははは! やはりお前はそうでなくてはな!」
「なんだ急に。何がしたいんだ?」
「いや、お前が変に畏まっているのでな? からかってやっただけだ」
「……はぁ」
トーマ君が大きなため息をこぼす。
少しずつ落ち着いて冷静さを取り戻した彼は、どっと疲れたように肩を落とす。
「あの、トーマ君」
「ん、あー悪いな。見苦しいところを見せて」
「それは全然。えっと、お二人はどういう関係なのか聞いてもいい?」
「どういう関係もないけどな。一言で表すなら、昔馴染みだ」
「うむ! トーマがこの地に来てすぐの頃からだからな。それなりに長い付き合いになるぞ」
トーマ君がこの領地にやってきたのは約五年前だったはずだ。
どういう経緯で知り合ったのか尋ねると……。
「森を冒険している時に偶々会ったのだよ」
「ぼ、冒険?」
「馬鹿だろ? こいつは王子の癖に護衛の一人もつけずに森の中をウロウロしてたんだよ」
「失礼だな。勇敢と言ってもらおうか」
「無謀を勇敢とは言わないんだよ……」
トーマ君は呆れてため息をこぼす。
短い時間で彼のため息を何度も聞いてしまった。
誰が見ても失礼な態度だけど、当の本人たちは気にしていない。
話を聞くと、出会った時に王子だと知らずに接していたことが理由らしい。
「王子だって知った後で直そうと思ったんだけどさ」
「俺がやめさせたのだ。堅苦しい話し方など俺が好きではないのでな」
「そういうわけで今のこのままってことだよ。あまり嬉しくないんだけどな」
「何をいう? 他国の人間で俺と対等に話せる者などお前くらいだぞ」
トーマ君は笑いながら、光栄だよと小声で言った。
ちょっぴり子供っぽいトーマ君は新鮮で、見ていて可愛いと思ってしまう。
そんな表情もするのだと。
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