62.水不足は解消です
「どうだった?」
「私の予想通りだったよ。水の岩に含まれてた未知の成分はスライムだったんだ」
様々な物質に触れて来た私でも、魔物の身体まで調べたことはなかった。
だから知らなかっただけだ。
こうして実際に触れて調べてしまえば、答えは意外とあっさりしている。
「よーし、そういうことなら予定通り、ここら一体のスライムを駆除しようか」
「うん! 出来るだけ倒さずに、生け捕りにしてくれると嬉しいな」
「氷に閉じ込めればできなくはないけどさ。そんな量を持ち運べないだろ?」
「そこはもう平気だよ」
「もう?」
キョトンとした顔で私を見るトーマ君。
口で説明するよりも、実際に見てもらったほうが早いだろう。
まだ私の目の前には、トーマ君が固めたスライムたちが残っている。
私より遥かに大きな氷の塊だ。
とてもじゃないけど、これを持ち運ぶなんて不可能。
このままなら。
「ちょっと待ってね? 準備するから」
「準備? 錬成陣か」
「うん」
「何をするつもりなの?」
シズクも興味があるらしい。
私の作業を覗き込んで見守っている。
スライムが凍った塊を囲むように錬成陣を書き上げた私は、錬成陣の端に立って両手を地面につける。
「見てて」
そのまま錬金術を発動させる。
光が包み込み、バチバチと電撃のような線が走る。
大きな氷の塊は一瞬で砕け散り、バラバラになった破片が粒状に変化して落下する。
錬金術の光が治まった後に残ったのは、手のひらサイズの小さな球体だった。
シズクが驚きながら呟く。
「氷が球になった?」
私は徐に球状に変化した物の一つをつまみ、シズクに見せる。
「これがスライムだよ」
「え、これが?」
「うん。スライムを超圧縮して鉱物に変換したんだ」
「そんなこと出来るの?」
私は頷き肯定する。
スライムの構造はすでに把握している。
物質を構成する要素さえわかれば、形を変化させるのは難しくない。
未知が難しいのはわからないからだ。
知らないことを知り、理解してしまえば、どんな物でも扱える。
それが錬金術なんだ。
「さすがだな。アメリア」
「ありがと。これで持ち運びは問題ないでしょ?」
「そうだな。一応聞くけど危険は?」
「ないよ。動けないようにしちゃったからね」
この形状のスライムは仮死状態だ。
死んではいないけど、自分の意思で動くことは叶わない。
食べたりとかしない限り害はない。
「そんじゃまぁ、片付けるかな」
「よろしくね」
「おう。これは俺の仕事だからな」
その後、トーマ君を主導に周囲にいたスライムたちを次々に退治していった。
彼が凍結したスライムは錬金術で球状に変え回収する。
退治が終わるころには、私が持ってきた瓶の中はいっぱいになっていた。
◇◇◇
スライム退治を終えた私たちは一旦スレイプ村へ戻った。
事情を話し、当分はスライムの危険がないことを伝えると、村の人たちはとても感謝してくれた。
ぜひお礼がしたいと言われたけど、急いでいたから断るしかなくて、ちょっぴり残念だ。
村でやるべきことを済ませたら、すぐに帰路へつく。
行きと同じ道を通り、四日かけて領地へ戻って来た。
「か、乾燥が……」
「これがあると、戻って来たーって感じがするだろ?」
「そう……だね」
あまり嬉しくない懐かしさを感じつつ、私たちは屋敷へ戻った。
「おっかえりー!」
「思ったより早かったな」
十日ぶりに戻った私たちをイルちゃんとシュンさんが出迎えてくれた。
二人とも特に変わりはなく元気そうだ。
私たちが不在の間は平和だったらしい。
そのことに安心しながら、私はさっそく仕事に取り掛かる。
材料はすでに揃っている。
一番重要なスライム以外は、どこでも手に入るものばかりだ。
水の岩が出来上がったのは偶然だけど、その構造と材料さえわかってしまえば作るのは難しくない。
もちろん、ただ作ればいいと言うわけでもない。
「大きすぎて移動できないと困るよね?」
「そうだな。時期的に湿気が多いタイミングもある。そういう時は保管して、使う時に持ち出せるようにしたい。例えば室内用と外用で分けるとかどうだ? 室内は一人で持ち運べる大きさにして、外は台車で動かせるギリギリの大きさにするとか」
「うん。室内のほうは生成された水を蓄えて使えるようにしないとかな? じゃないと置いた箇所がびちゃびちゃになるし」
「そこが出来ると助かるな。まぁ飲み水にはそのままじゃ無理そうだけど、水なら使い道もたくさんある」
用途や形、大きさについてトーマ君にも相談して決めた。
結論としては室内と外用で二パターン作ることになって、さっそく作業に取り掛かる。
素材を揃えて錬金術で合成する。
出来上がった水の岩は、スレイプ村で見た物よりも高純度でとても綺麗だ。
半透明な水色の結晶は、見ているだけでひんやり冷たさを感じる。
あとはこれを必要な数と大きさに分けて作り、各民家や街の数か所に設置する。
特に畑の周囲は必須だ。
作業自体にそこまで日数はかからず、私たちが戻って二日後には水の岩が行き渡っていた。
いつまでも水の岩と呼ぶのも変なので、新たに『水錬晶』と名付けることになった。
こうしてまた一つ、領地の問題を解決していく。
みんなの生活が文字通り潤い、トーマ君たちの役に立てる喜びに浸りながら、次なる問題に取り組んでいくだろう。
ただ、この時の私は知らなかった。
私の成果が、積み重ねた実績が、周囲にどう見られているのかを。
飛びぬけた成果は華々しく、それだけでいろんな物を引き付けてしまうということを。
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!