61.確定しました
新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
水の岩がある位置から川辺にそって上流へと歩く。
道は軽い斜面になっていて、石ころや流れ着いた木々の枝などが混ざり合い、一歩一歩が脚への負担になる。
平らな道ばかり普段から歩いている人にとって、こういう道のりはただ歩いているだけで疲れるものだ。
かくいう私も慣れているほうじゃない。
体力には自信があっても慣れないことをすれば疲れる。
自然と歩くペースが落ちていく。
「どうしたアメリア。もう疲れたのか?」
「つ、疲れてないから大丈夫!」
「ははっ! なら良いけどさ。無理して帰り道フラフラになっても知らないぞ?」
「大丈夫だよ。それより――」
私はトーマ君と話しながら、未だ続く長い道のりの先を見つめる。
今のところは平和だ。
スライムが現れることはなく、他の魔物が出てくるわけでもない。
チラホラ野生の動物が顔を出して、私たちに気付いて逃げていく程度だった。
私とトーマ君より少し先を歩くシズク。
彼女は危機感知に長けていて、外敵の接近を見逃さない。
「シズク」
「この辺りには何もいない。争った形跡もない」
「だよな。俺でもわかる」
「本当に上流にスライムがいるのかな? これって森のどこか別の場所にいたっていう可能性もありそうだよね」
水の岩周辺でスライムと遭遇して、氾濫の話を聞いたから上流付近にスライムが集まっていると予想を立てた。
ただこの予想も外れている可能性だって高い。
私は川のほうへ近づき、その場でしゃがみ込む。
「アメリア?」
「少しだけ時間を貰っても良い? 調べてみたいことがあるんだ」
「構わないけど何を調べるんだ?」
「この水の成分」
私はカバンから小瓶を取り出し、川の水を掬い取る。
それを錬成陣の書かれた用紙の上に乗せ、錬金術による分解を開始する。
スライムが川の上流にいて水の岩に関わっているなら、流れる川の水にもスライムの成分が含まれていたりしないかなと。
予想、むしろ予感と言ったほうが当てはまっている。
ただどうやら、私の予感は当たっていたようだ。
私はなるほどと呟き、錬成陣の書かれた用紙を回収して立ち上がる。
「どうだった?」
「ほんの少しだけど水の岩と同じ成分が含まれてる。これがスライムの成分なら間違いなくこの先にいるよ」
「なるほどな。じゃあこのまま上流を目指そう」
「うん」
この先にスライムがいることはほぼ確定した。
無駄足にはならなそうで安心したからか、さっきまでより歩く速度が上がる。
対照的に道のりは険しくなる。
上流に進むほど傾斜が強くなり、川辺も歩けるスペースが狭まる。
川辺に転がる石の大きさも変化し、所々岩も増えてきた。
そして――
「トーマ、アメリア」
「どうし――やっと会えたな」
トーマ君がニヤリと笑う。
シズクが指を指した先には、川辺の大岩の影に隠れていたスライムがいた。
大きさも相当ある。
隠れていた岩の高さが、トーマ君の身長の二倍はあった。
その岩より少し小さい程度の大きさだ。
「かなりの大きさだね」
「ああ。でも俺にはあんまり大きさって関係ないけど」
そう言ってトーマ君が無造作に近づく。
「シズク。念のためアメリアの傍で」
「わかった」
シズクが私を守るように前に立つ。
スライムは半液体で半固体、物理的な攻撃は効果が薄い。
魔法による攻撃手段を持つトーマ君にとっては、大きくても小さくても変わらない。
ただの――
「フリーズブレス」
的でしかない。
放たれた冷気はスライムに直撃し、ピキピキと正面から順に凍結する。
凍結はそのまま全身に広がり、あっという間に氷の彫刻が誕生してしまった。
さすがトーマ君だ。
彼は小さく息をはき、私のほうへ振り向く。
「アメリア。一応まだ表層しか凍結させてない。中でスライムは生きてるはずだから、この状態なら調べられるか?」
「うん! ありがとうトーマ君」
完全に凍結するとスライムは死んでしまう。
そうならないように凍る部分を調整して、彼なりに手加減してくれたようだ。
「今さらなんだが、魔物をそのまま錬金術にかけるって大丈夫なのか? 危険とかないのか?」
「工程は一緒だから大丈夫だよ? 生物も錬金術の対象だしね」
あまりお勧めできないけど、生物を生み出すことだって可能なんだ。
錬金術はあくまで物質同士をかけ合わせる力で、その範囲に制限は存在しない。
あるとすれば、概念的な物は対象外だ。
魂とか、感情とか。
「なら、錬金術で相手を分解しちゃえば無敵だね」
そう言ったのはシズクだった。
物騒な話だけど、それも出来てしまうのが錬金術だ。
「あはははっ、確かにそうだけど簡単じゃないよ? 対象が複雑なほど発動までにかかる時間が長くなるんだ。分解は一瞬だけど、それが始まるまで時間かかって逃げられちゃうよ」
「ふぅーん、なら捕えて身動きが取れない相手を消すなら最適ね。証拠も残らないし」
「な、なんでそんな物騒なことばっかり言うのさ」
「……仕事柄そういうのもほしいって思うことがあるだけ。他意はない」
他意っていうか物凄く聞いちゃいけなかった話の匂いがするよ。
深く突っ込むと嫌な思いをする気がして、私は固まったスライムに視線を戻す。
これだけ大きいと、そのまま錬成陣の上には乗せられないな。
「トーマ君。これって一部を砕けないかな? 大きすぎて」
「出来るぞ。ちょっと待ってろ」
トーマ君が固まったスライムに触れる。
触れた箇所に力を込めると、バリっとヒビが入り一部が砕けてとれる。
一瞬だけど砕けた氷の表面でスライムが動いた。
それを一瞬で固めて封じ込めたみたいだ。
手のひらに乗るサイズ。
これなら錬成陣に乗せられる。
私はさっそく作業に取り掛かり、錬金術による分析を行った。
その結果は予想通りだ。
未知の成分はスライムだということが確定した。






