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6.愉快な使用人たち

「あ、あの……」

「犯罪者だ! 女に飢えた主様が犯罪者になっちまった! 母さんと爺ちゃんに報告しないと!」

「誰が犯罪者だ! 俺がそんなことするわけないだろ! というか話を聞け!」

「犯罪者の話なんて聞けるか! くっそ、なんでこんな時にみんないないんだよ! こうなったらあたしがなんとか……」


 彼女の視線がパッと私に向けられる。

 あまりに真剣な表情で見るものだから、ピクリと身体が反応して、自然と背筋が伸びる。


「おいお姉さん! この変態はあたしが止めとくから今のうちに逃げな!」

「え、いや、えっと……」

「大丈夫だ! 脅されてるんだろうけど気にすんな! 主様の不始末はあたしらの責任だかんな! あたしの手でこの怪物を仕留めて――」

「落ち着け馬鹿」


 突然現れた背の高い男の人が、興奮する彼女の頭を軽く叩く。

 ポコンと軽い音が鳴って、彼女は頭を抱えて叩いた男の人を睨んだ。


「痛っ! 何すんだよシュン兄!」

「お前こそ何やってるんだ。ったく……」


 彼はやれやれと呆れ顔。

 

 今度は誰?


 トーマ君より背が高くて、髪も短くて細いけど力がありそう。

 腰に剣を携えているし、服装がどことなく騎士さんっぽいような気がする。

 もしかしてこの屋敷を守ってくれてる兵隊さん?


「イル、お前なぁ~ いきなり主人を背後から蹴り飛ばすメイドがいるか? トーマじゃなかったらクビだぞ?」

「はんっ! そんなもん簡単に背後を取らせるのが悪いんだよ! 精進が足らないんだ!」

「それはお前――確かにそうだな」

「納得するなよシュン!」

「冗談だよ冗談。お帰りなさいトーマ。今回は随分かかったな?」

 

 シュンと呼ばれていた彼はトーマ君に砕けた口調で話しかける。

 それに対してトーマ君も普段通りに、「いろいろあったんだよ」と答えていた。

 トーマ君を蹴った女の子といい、彼女を諫めた男の人といい……どういう立ち位置なのか気になる。

 少なくとも主人と使用人の関係には見えない。

 戸惑う私に気付いたのか、トーマ君が話を切り替える。


「悪いアメリア、変に騒がしくて」

「ううん、それよりその……」

「俺たちが誰か気になるって顔してるぞ?」

「あたしはこの人が誰なのか先に知りたい! 主様教えてよ」


 彼女の視線……

 あれはまだ疑っているみたいだ。

 トーマ君は小さくため息をこぼす。


「ったく、じゃあ先に彼女の紹介をするよ。彼女はアメリア、今日からうちで一緒に働く錬金術師だ」

「錬金術師?」

「マジで!? それって前からよく話してたあのめちゃくちゃ凄いっていう?」

「そうそうってやめろイル。本人の前でその話は恥ずかしいから」


 そう言って照れるトーマ君。

 どうやら私のことを前から話には出していたらしい。

 彼女の反応を見る限り、よほど褒めてくれていたようで?

 なんだか私も恥ずかしい。


「おいトーマ、どうやって連れて来たんだ? 確かお前の話だと宮廷で働いてるんじゃ……」

「いろいろとあったみたいでね。その辺も説明するから、一先ず部屋に入らないか? イルはクラベルさんとロレンさんを呼んできてくれ」

「応接室でいいの?」

「ああ、よろしく頼むよ」


 お願いされた彼女は頷いて、背を向け階段を駆け上がっていく。

 続けてトーマ君が私とシュンさんに言う。


「俺たちは先に部屋で待っていよう」

「おう」

「うん」


 あれ?

 結局二人の紹介はしてもらえなかったような……

 

 私はよくわからないままトーマ君に連れられ、一階の応接室に案内された。

 横に長いテーブルが部屋の真ん中に一つ。

 十いくつの椅子が均等な間隔で置かれていて、私は左側に座り、その隣にトーマ君が座る。

 シュンさんは向かい側の一席へ。

 それから数分後に部屋の扉が開き、イルと呼ばれていた女の子が黒い執事服を着た御年輩の男性と、しっかりメイド服を着こなす桃色髪の女性を連れてきた。

 三人はシュンさん側に座る。


「全員揃ったな! 先にみんなの紹介をするよ。アメリアもそっちの方が良いだろ?」

「うん。そうしてほしい」


 特にトーマ君と二人の関係性が気になって仕方がない。


「じゃあ右から順番に。こいつはシュン、俺の護衛兼相談役だ」

「よろしくアメリアさん。トーマから君の自慢話をよく聞かされてね? いつか会ってみたいと思ってたんだ」

「よろしくお願いします。そ、そうなんですね……あはははっ」

「それはもう良いって」


 反応に困る。

 自慢話ってどんなこと話したの?


「次いくぞ。その隣、さっき俺の背中を蹴飛ばしたワンパクメイドのイルミナ。俺たちはイルって呼んでる」

「あたしのどこがワンパクメイドなんだよ!」

「全部だよ全部。どこの世界に主の背中蹴飛ばすメイドがいるか。世界中探してもイル一人だぞ」

「それは仕方ないよ! あたしはオンリーワンだからな!」


 自信満々に胸を張る彼女に、トーマ君は大きなため息をこぼす。


「こんなだけど根は真面目だし良い奴だから。アメリアも仲良くしてやってくれ」

「う、うん。よろしくね? えっと、イルミナちゃん?」

「イルでいいぜ! あたしはえーっと、アメリア……じゃあリア姉さんって呼ぶから!」


 リ、リア姉さん?

 そんな呼ばれ方したことないんだけど……

 これが噂に聞く仇名っていうの?

 仲の良いお友達同士で呼び合うって言う。

 だったらちょっと嬉しいかも。


「よろしくな! リア姉さん!」

「うん。よろし――」

「イルミナ。お客様には礼儀正しくしなさい」


 彼女の隣から口を挟む。

 お淑やかで若干冷たい視線を向けられ、イルちゃんがビクッと反応する。


「か、母さん……」

「教えましたよね? 初対面の方には特に礼儀正しくしなさいと」

「うっ、それはその……」

「あとで教育し直しましょう。お仕置きも必要ですね」

「ひぃ! ご、ごめんなさい」


 さっきまで元気いっぱいで強気だったイルちゃんが泣きそうな顔に?

 彼女のお母さん? 

 もしかして怖い人なの……かな?


 するとさらに隣から、黒い服の男性が口を開く。


「まぁまぁクラベルさん、ここは大目に見てあげましょう。イルミナも久しぶりのお客様に舞い上がっていただけでしょうから」

「爺ちゃん……」

「いけませんよお父様。甘やかしてはイルミナのためになりません」


 そのまま三人の会話が続く。

 イルちゃんのお母さんがいて、お母さんのお父さん?

 困惑していると、トーマ君が教えてくれる。


「三人は血のつながった家族なんだ。うちの家に代々仕えてる使用人の家系なんだよ」

「なるほど。そういうこと」


 とりあえず納得した。

 目の前で繰り広げられている会話も家族らしくて、聞いているとなんだか微笑ましい。

 トーマ君も同じ気持ちだったのか。

 しばらく誰も止めたりせず、三人の様子を見守っていた。


 それにしても……


 楽しそうな人たちばかりだな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お母さん、教育のし直しも何も一応主人が連れてきた客の前で内輪もめ自体が恥ずかしいですよ アットホームのつもりかもしれませんが…
[一言] ٩(。˃ ᵕ ˂ )وイェーィ♪ 連載版、ありがとうございます。
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