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59.スライムいっぱい

 川の辺に聳え立つ青い壁。

 その岩を表現するなら、この一言につきる。

 木々を抜けて真っ先に飛び込んできたのは、世にも珍しい青い壁だった。

 波打つ水の模様のように見える岩の表面。

 日の光に照らされ反射し、私たちの動きに合わせて揺らめいているようにすら見える。


「これがシズクの言っていた……」

「そう。水の岩」

「不思議な岩だな。宝石みたいだけど違う。氷とも異なる結晶……水がそのまま固まって出来たみたいだな」

「うん。近くで見てもいいよね?」

「ああ。許可はとって――待てアメリア!」


 一歩を踏み出そうとした私の腕を、トーマ君が唐突につかんだ。

 ビックリした私はふらついて、慌てて踏みとどまりホッとする。


「な、なに?」

「気を付けろ」

「え?」

「何かいる」


 そう言ったのはシズクだった。

 彼女も警戒して、腰の武器に手をかけている。

 二人が見据えているのは水の壁、というよりその先みたいだ。

 私には何も感じないけど、他の気配があるらしい。

 二人は私を守るように私の前に立つ。


「人じゃない」

「ああ、気配は小さいな。小型の魔物か?」

「たぶん。来るよ」

「ああ」


 そして姿を現す。

 水の岩にピッタリ張り付きながら、ピチャピチャと音をたてて。

 色も岩と同化して、ハッキリ見えるまで数秒の間がかかった。


「スライム!?」


 私が声をあげた。

 気配の正体はスライムという魔物だったんだ。

 一匹だけかと思ったら、次々に岩の裏に隠れていた個体が表に出てくる。

 

「スライムだったか」

「トーマ」

「わかってる。こいつら相手なら魔法が一番だな」


 スライムは半分液体で半分固体。

 形はあるようでない見た目で、攻撃力はあまりない。

 比較的弱い魔物とされているけど、実際はとても厄介な相手だと聞く。

 まず物理攻撃が一切通じない。

 潰しても斬っても、バラバラにしても再生する。

 そんなスライムに最も効果的な攻撃が――


「フリーズブレス」


 魔法だ。

 トーマ君が息を吹きかける。

 冷気を伴った風がスライムを包み、一瞬でバキバキと凍結してしまう。

 半分が水のスライムは凍結に弱い。

 それ以外にも熱で蒸発するし、物理的な手段以外ならかなり簡単に倒せる。

 私の場合は、酸で溶かしたり?

 

「岩とセットだと良い感じに馴染むな」

「そうだね。凍ったスライムが岩の一部みたいになってるよ」

「だな。しかし驚いたな。こんな近くに魔物がいるなんて……スライムとは言え魔物は魔物。村の人たちは大丈夫なのか?」

「そうだね。後で戻ったら聞いてみよう」


 村の人たちが知らないなら一大事だ。

 凍結したスライムは、トーマ君が剣で斬り裂いて粉砕した。

 完全に凍っているから、あとは水と一緒に溶けて消えるという。

 スライムの身体って本当に水と変わらないんだ。

 少し興味が湧いて、機会があれば調べてみたいと思いつつ、私はようやく水の岩に触れる。


「冷たい。ほんのり湿ってる」

「どれどれ、お、本当だ。水を生み出すっていうのは本当だったのか」

「うん。岩のある地面だけ異様に濡れてる」


 私が指をさすと、トーマ君も視線をさげる。

 川の辺であることを差し引いても、この場所の地面だけ濡れて暗い色になっていた。

 

「これと同じ物があれば、畑とかに置いて農業にも役立ちそうだね」

「空気の乾燥も多少は和らぐか。問題はどういう仕組みなのか、だが……」

「そこは今から調べる。削っても良いよね?」

「ああ。岩をなくさない限りは好きにしていいいぞ」


 トーマ君に再確認した後で、私はカバンからアイスピックと金槌を取り出す。

 氷に近い要領で削ってみることに。

 カンカンと音を立てながら削り取り、破片が地面に落ちる。

 私は落ちた破片を拾い上げた。


「よし。後はこれを錬金術で成分を調べれば」

「ひとかけらで良いのか?」

「もう少しとってもいいなら」

「良いんじゃないか? これだけデカいんだしあと少しくらい平気だろ」


 トーマ君がそういうなら。

 私は同じくらいの大きさの欠片を、後二つ採取した。

 それを持って一旦村へと戻る。

 その場で解析を初めても良かったけど、スライムの件もあったから村の人たちへの報告もかねて早々に戻ることにした。


 村に戻った私たちは、使って良いと言われていた空き家に入る。

 子供が少なく、大きくなったら村を出る者が多いため、人口が減り空き家も増えたそうだ。

 借りた空き家はちょうど去年まで人が住んでいたらしい。

 比較的綺麗で、掃除もされていたから助かった。

 一階のリビングにあった長いテーブルに素材を乗せ、さっそく解析を始める。


「先にやっててくれ。俺は村の人たちにスライムのことを話してくる。終わったらすぐ戻るよ」

「うん」

「私はここに残れば良い?」

「おう。アメリアを手伝ってやってくれ」

「わかった」


 そう言ってトーマ君が部屋を出て行く。

 残った私とシズクで、入手した水の岩の解析を始める。

 あらかじめ錬成陣を書いた用紙を取り出し、その上に欠片を置いて準備を進める。


「これが錬金術の解析……」

「そっか。シズクは見るの初めてだよね? こうやって一度分解するときに成分がわかるんだ」

「へぇ、便利だね」

「そうだね。でも結構難しいんだよ」


 成分がわかるのは一瞬。

 その一瞬の情報を読み取って、理解しなければならない。

 雪山での時と同じ。

 未知の物質に対しては、特に集中がいる。


「始めるね」

「わかった」


 錬金術を発動し、欠片を分解する。

 分解と共に頭の中に情報が流れ込む。


「ほとんど水……あと砂と泥……あれ?」


 分解が完全に終わり、錬金術の光が消える。

 錬成陣の上には何もなくなっていた。


「どうしたの? わかった?」

「……わからなかった」

「そう。じゃあ次の」

「そうじゃなくて、わからない物質が混ざってる」


 初めてのことに困惑する。

 未知の中に新しく見つけた未知……それはまるで、この世の物とは思えない現象だった。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スライムが作ったんかな?あれ……それとも何かの相互作用??
[一言] スライム解析してみ? 多分、それで分かるから
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