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55.シズクのお手伝い

「――というわけなんだが、何か良い意見あったりしないか?」

「……」

「シズク? なんだか不機嫌そうだな」

「部屋に入ってきていきなり質問するからでしょ」


 トーマ君と一緒にシズクの元にやってきた。

 会って早々に事情を話して、何か意見がほしいとお願いしたら、露骨に嫌そうな顔をされたわけです。


「すまんすまん。ちょっと気が逸ったよ」

「はぁ、良い意見って? 私には錬金術のことはわからないけど」

「錬金術関連じゃなくても良い……んだよな?」


 トーマ君が私に同意を求めてくる。

 私はこくりと頷いて、途中から代わりに話を続ける。


「乾燥対策に使えそうな物があれば教えてほしいの。植物でも良いし鉱物でも良いんだ。素材に出来そうってくらいでも」

「乾燥……雨を降らせたいの?」

「それが出来たら良かったんだけどね。私じゃそれは出来ないから」

「普通できないよ。だから落ち込むことない」


 さらっと慰めてくれている?

 クールな表情は相変わらずだけど、シズクも優しい人だね。


「水、水の関係……ああ、一つ聞いた話ならある」

「なに!? どんな話!?」

「ちょっ、顔近い!」

「あーごめん。つい勢い余って」


 情報が貰えると思ったら嬉しくて身を乗り出してしまった。

 顔と顔が近づいて、シズクは頬を赤くしている。

 こういう所もすごく可愛い。

 普段からもっと砕けた感じでいればいいのに、トーマ君もいるから遠慮してるのかな?

 ちょっと残念だ。


「それで話って?」

「えっと、水が固まって出来た岩の話を聞いたことがある」

「水が固まって? それは氷とか雪の話?」

「違う。水が岩になった」


 水が固まって岩になる。

 そんな話は聞いた事ないし、もちろん見たこともない。

 水が固形になるなら氷だろう。

 でもシズクは氷ではなくて、あくまで水が岩になった物だという。

 その後、詳しい話を聞いた。


 とある村が嵐に襲われ大洪水が起こった。

 小さな村の隣を流れる川が氾濫して、周囲にも多大な影響を及ぼしたという。

 しかし不思議なことに、村には大した被害は起こらなかった。

 川は村のすぐ隣を流れている。

 洪水は免れない距離にも関わらず、水が押し寄せることはなかった。

 嵐が治まった後、村の人が川を確認しに行くと……

 そこには、青く光る宝石のような岩が聳え立っていた。

 まるで村を守るかのように。


「それが水の岩だってことなの?」

「そうらしい。話を聞いた限り、そんな岩はなかった。少なくとも嵐が来る前までは。私も噂程度だから詳しくは知らない。でもその岩を覗くと中に水が見えるらしい。砕いて乾いた地面に置いたら、そこが潤ったとも聞いた」

「水を含む青い岩……興味深いね」

 

 ただ結晶の中に水分が含まれている、とかなら理解できる。

 そうじゃなくて、水が氷以外の固形物に変化しているのなら……それこそ自然の錬金術。

 雪山で育った一本の木と同じだ。

 

「シズク! その噂がある場所ってわかるの?」

「おおよその場所なら」

「そこに案内してもらうって出来ないかな? 実際に見て確かめてみたいんだ」

「今すぐは無理」


 キッパリ即答されてしまった。

 

「そ、そっか……」

「落ち込むなよアメリア。シズクは今はって言ったんだぞ?」

「え、あ!」

「うん。今すぐは無理。任務があるから」


 シズクの任務。

 それは確か野盗の残党がいないか確かめて、もしいたら捕らえること、だったと思う。

 その任務を遂行するために、シズクは屋敷に滞在しているわけで。

 つまりはそっちが片付かないと他事に時間をかけれないってことか。


「わかった! じゃあそっちも手伝うよ!」

「え、手伝うって」

「野盗が残ってるか確かめて、見つけ出して捕まえれば良いんだよね? 私に良い考えがあるよ!」


  ◇◇◇


 森の奥には複数の洞窟がある。

 一つはドレイクが生息していた場所。

 そのさらに東へ行くと、滝に隠れた洞窟があった。

 季節の影響で滝を流れる水量も大幅に減っている。

 普段は隠れている穴も、今はすっかり丸見えだ。


「チクショウ! なんなんだこのクソみてーな環境はよぉ!」

「文句を言うなよ。この辺りが人も少なくて隠れるには最適なんだ」

「そう言って他の奴らは捕まったんだろ? どうすんだよ俺たちだけ残って」

「うるさいな! それを今考えてるんだろうが!」


 空気がピリついている。

 仲間が王国に捕まったという話は、すでに彼らにも届いていた。

 次は自分たちかもしれない。

 そんな怯えもあって気が立っている様子。

 でも、それにしては……


「警戒は疎かだったな」

「な、なんだてめぇら!」

「この地を治める領主だ。それから――」

「錬金術師のアメリアです」


 次はシズクの番。

 と思ったけど彼女は名乗らないよね。


「錬金術師? つーかなんでここがわかったんだ」

「あーそれは簡単です。私の作った人の痕跡を辿るポーションを使って、前にお仲間さんたちがいた洞窟から行き来している場所を探したんです。そしたらすぐ見つかりました」

「な、何言ってやがんだ」

「説明は以上です。私たちも急いでいるのでさっそく、眠ってください」


 あらかじめ用意した結晶と錬成陣。

 二つを使って麻痺の霧を発生させる。

 呼吸と共に霧を吸い込んだ野盗たちは、次々と倒れて行った。


「鮮やかだったな」

「さすがに何回も経験してるからね。これでお仕事も終わったし、心置きなく遠出が出来るよ! ね、シズク」

「……そうだね」


 なんだかちょっと不機嫌そう?

 たぶん気のせいかな。

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