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52.あっちは激務、こっちは休暇

 カイウスの追放、ファウスト公爵家の没落。

 関りのある者たちは次々と影響を受けていく。

 その影響は間接的に宮廷にも及んだ。


「減給!? 私がなぜですか?」


 宮廷錬金術師の室長。

 上からの伝達を受けた彼女は異を唱えた。

 対して伝達役は淡々と語る。


「陛下からの指示です。貴女は元公爵家カイウスと密接に繋がり、宮廷付きの人員を私的な理由で動かしましたね?」

「そ、そんな! あれは彼が強引に推薦するから仕方なくやっただけです!」

「ですが最終的に判断を下したのは貴女でしょう? 貴女の推薦で試験を通さず新人を着任させた。その結果、生産力が著しく落ちています。問題が生じた期間からして原因は明らかでしょう」

「っ……」


 室長は言い返せず口を噤む。

 指摘されたことは事実であり、彼女を含む全宮廷錬金術師の仕事負担が増加していた。

 原因は、ただ一人の喪失にある。

 リベラの前任、宮廷付きとして働いていたアメリアがいなくなったことで、彼女がこなしていた分の仕事が他の者たちを圧迫している。

 彼女がいたからこその生産力、仕事効率だった。

 故に、彼女がいなくなればその分が落ち込むのは当然だろう。

 これもわかっていたことだ。

 一人に何倍もの仕事を押し付け、自分たちは悠々と通常通りの仕事をこなして、アメリアが奮闘していることなんて知らんぷり。

 そんなことをしていたから、今の事態に陥った。


「責任は室長である貴女にある。陛下はそうおっしゃっています。異論がある場合は、直接陛下に申し入れください」

「……」

「今以上に失態が続くようであれば……言わなくてもわかるでしょう」

「は、はい」


 室長の座にたどり着くまで何年もかけた。

 その地位が今、脅かされようとしている危機感。

 彼女はこれから仕事に励むことだろう。

 一人に背負わせていた業務の全ては無理でも、一部を担えるように奮闘するだろう。

 そうしなければ地位を守れない。

 来る日も来る日も仕事に明け暮れ、朝早くに目覚めて夜遅くまで研究室に残る。

 アメリアが過ごしていた日々を繰り返す様に。


 一方、アメリアはというと……


  ◇◇◇


「なんでまたお休みなの!」

「さっき説明しただろ? ここ最近色々あったんだからしっかり休むんだ!」

「色々はあったけどお仕事は全然進んでないんだよ!」

「大丈夫だって話もさっきしたぞ!」


 休む休まないでもめるのは何度目だろう?

 カイウス様との一件が片付いて、彼が王都に護送された翌日。

 もうすぐ季節も変わるし準備しなきゃ!

 と思って仕事を始めようとしたら、トーマ君に今日も休めと言われて現在に至る。


「大体なんでトーマ君は私を休ませたがるの? お休みならこの間一緒にしたでしょ?」

「たった一日だけだ。しかもその後すぐバカ貴族が君を誘拐して! 君こそあんなことがあったばかりでよく仕事したいって思えるよね」

「仕方ないよ! 仕事しなきゃって思うのはもう癖なんだから」

「癖って……はぁ~ 君らしいと思ってしまうんだよな。それを聞くと」


 トーマ君は呆れて大きくため息をこぼし、腰に手を当て肩の力を抜く。

 実際癖になっているんだから仕方がない。

 働きすぎとはよく言われるし、その自覚もあるのだけど。

 でも休みがたくさんあると落ち着かない。

 一日休んだら一日分の仕事が次の日に増えるわけでしょ?

 そう思ったら早めにやっておきたくならない?


「仕事量はこっちで調整する。そもそも今すぐやらなきゃいけない仕事ばかりじゃないんだ。程よくで良いんだよ」

「そう言われても……あ! だったらこうしようよ! トーマ君も一緒にお休みしてくれたら私も休む」

「え、なんでそうなるんだ? 俺は別に休まなくても――」

「だったら私も大丈夫です! ってなるけど?」


 私は悪戯をしかける子供みたいに笑って、あざとく首を傾げてみる。

 我ながら強引だとは思った。

 でもトーマ君も私と同じで働きたがりだし、こう言えば折れてくれるかなーと思って。


「……はぁ、もうわかった」

「じゃあお仕事いくね?」

「何言ってるんだ? 一緒に休むんだよ」

「え? そっち!?」


 意外にも休む方を選択されてしまった。

 予想と違ってビックリしてしまう。

 そんな私を見て、トーマ君はニヤっと笑った。


「じゃあ仕事して良いって言うと思ったか?」

「……うん」

「残念だったな。実は俺もちょっと疲れていてね? あの馬鹿の後始末であちこち行ったり来たりしてたし、王都に送る手続きも面倒だったんだ」

「あー……確かに忙しそうだったね」


 王都からたくさん騎士たちがやってきて、カイウス様と野盗たちを連行していった。

 その間、捕えた人たちが逃げないよう交代で監視したり、領地の皆さんへの説明に周ったり。

 騎士さんたちとのやりとりも多くて、気を遣う場面ばかりだったように見える。

 私も事情聴取だーって言われて朝から御昼過ぎまで拘束されたし。


「本当に余計なことばかりしてくれたよ。あのバカ貴族」

「あはははっ、本当だよね。どうなるのかな?」

「バカ貴族のことか?」

「うん」


 もう王城には到着しているだろうし、陛下の前かな?

 罪に罪を重ねたから、間違いなくタダでは済まないと思うけど。


「永久投獄か国外追放って所かな? 俺の予想だと追放が可能性高そうだ」

「なんで?」

「ただの勘だよ。そっちの方が良いなって思ったんだ。アメリアにしたことを自分で受けるってことだからさ」

「なにそれ? トーマ君にしては性格の悪いこと言うんだね。でもまぁ、確かにスッキリするかな」

「だろ? 自業自得ってことだ」


 その通り。

 今頃どこで何をしているか知らないけど、たくさん苦労してください。

 私が苦労して毎日を過ごしてきたように。

 自分で体験すれば少しは理解できるでしょう?

 

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― 新着の感想 ―
 責任を取るのが責任者と当事者だからね。  王様も最終的に責任を取らされないように潰しておくんだろう。同じように。
[気になる点] 生きてるうちは恨まれるんだろうね。
[気になる点] こういうざまあ系小説で国外追放ってよく見ますけど…王の名を騙ってますし反逆罪は極刑でしょう、何故罰を緩くするのか不思議です。それに…主人公に責任転嫁するような最低野郎だから生きていれば…
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