51.愚か者たちの末路
王城。
辺境領地からの一報を聞きつけ、王国騎士団が派遣された。
騎士たち十数名の護衛の元、罪人が王都へ輸送される。
罪人は全部で二十六名。
うち二十五名は近年王国各地で精力的に活動していた野盗集団。
残る一人は、王国に属する公爵家の嫡男である。
「っ、離せ貴様ら! 私を誰だと思っているんだ!」
「暴れないでください。今の貴方は貴族ではなく、国に仇なす罪人として呼ばれているのです。発言や行動は慎むように」
「くっ……」
両腕を背中で拘束されたカイウスが、王座の間に連行されていく。
周囲には武装した騎士四名が並んで歩く。
拘束されたカイウスに逃げる術はなく、そのまま引っ張られる形で先を急ぐ。
道中、通り過ぎる者たちからは憐れみの視線が向けられた。
すでに噂は王城内に広がっている。
王城の外、貴族たちに漏れるのも時間の問題だろう。
それほど大きな事件となっていた。
当たり前だ。
王国を支える貴族の一人が野盗を手引きし、あまつさえ許可なく国王の名を騙ったのだから。
「さぁ入れ、陛下がお待ちだ」
王座の間にたどり着き、重厚な扉が開かれる。
赤いじゅうたんの先にある王座に、この国の王が座っている。
酷く苛立ちを見せながら、今にも襲い掛かりそうなほど荒々しい形相で。
カイウスは国王と目を合わせ戦慄する。
彼は王都でも有数の名家出身。
いずれ当主となることも決まっており、その関係上国王との謁見は何度もしている。
王座の間に入るのも初めてではなかった。
だがそれは、彼にとって初めての光景だったのだ。
「カイウス」
名を呼ばれた。
低く、野太い男性の声で。
およそ今まで耳にしていた国王の声とは違う。
「お前は、自分が何をしたのかわかっているのか?」
「へ、陛下……」
カイウスは否定するつもりでいた。
絶望的な状況とはいえ、まだ完全に敗北したわけではない。
貴族の立場を利用すれば乗り切れると、浅い頭で考えていた。
しかし、そんな甘さは吹き飛んでしまう。
目の前の威圧感が、嘘を許してくれないから。
「すでに噂は王城内から出ようとしている。もはや止められない。この意味がわかるか? お前の行いが広まれば、民衆はどう思うのか」
「そ、それは……」
「答えられないか? ならば代わりに言おう。王国に属する貴族が野盗と繋がり、王の名を不当に扱う。そんな人間が貴族なのだと、国を支える人間なのだと。もうわかるだろう? お前の愚かな行い一つで、我々への反感が強まるのだ! お前一人の行いで!」
「っ、も、申し訳ございません」
咄嗟に頭を下げるカイウス。
謝罪する気など一切なかった彼が謝った。
それほどの圧と怒声に、身体が無意識に動いてしまったのだ。
ただし、この謝罪が国王の怒りをさらに掻き立ててしまう。
「今さら謝罪してどうなる? こうなることはお前が一番よくわかっていただろう! なぜこんなことをしたのだ!」
「そ、それは……」
自分のためだ。
カイウスは最初から、己のためだけに行動していた。
とても狭い視野で、見通しの立たない未来を見据えて。
故に理解できなかった。
理想が崩れ落ちた先で待っているのが、自身の破滅であるということを。
言葉を返せないカイウスに国王は呆れ、特大のため息をこぼす。
「はぁ……もう良い。お前に聞くことなど何もない。現時点をもって貴族の地位を剥奪し、国外へと永久追放を勧告する」
「なっ、お待ちください陛下! 私に挽回の機会を!」
「そんなものが与えられると思うな! 死罪とならないだけ幸運だと思うが良い」
「そ、そんな……私は……」
もはや意見する意味もなく、カイウスは崩れ落ちる。
瞳から流れる涙が床を濡らす。
今さら後悔したところで手遅れだというのに。
どれだけ涙を流そうと、そんな汚れた涙では誰も同情しない。
その後すぐ、カイウスは王城を追い出され、拘束されたまま国外へと輸送された。
罪の責任はカイウス一人では留まらない。
彼が属するファウスト公爵家も、嫡男が犯した重罪の責を負う形で、貴族の地位と権力を剥奪されてしまう。
そしてもう一人……いいや、より多くの者たちが責を負う。
彼の罪は彼の責任。
しかし、そんな彼の甘い言葉に唆された人物は多い。
例えばそう。
彼の強引な推挙で宮廷錬金術師となった者がいただろう?
◇◇◇
アメリアの妹リベラ。
姉の代わりに宮廷錬金術師となった彼女だったが、残念ながら姉の代わりは務まらなかった。
錬金術師としての才能は持っている。
しかし圧倒的に努力が足らず、現実を甘く見ていたのだ。
姉に出来ることなら自分にも出来る。
自分のほうが才能に溢れていて、誰よりも優れているのだから……と。
その結果、一人では到底こなせない仕事量を与えられパンクしてしまった。
現在はアルスター家の屋敷で療養中。
そんな彼女にも、カイウスが起こした事件と末路について知らされた。
「そ、そんな……カイウス様が?」
「聞いての通りだ。我々アルスター家にも疑いの目が向けられている。特にリベラ、婚約者だった君に対して。陛下から早急に王城へ来るよう命が出ている。すぐに仕度をしなさい」
「ま、待ってくださいお父様。この件に私は無関係で――」
「だからそれを説明して来いと言っているのだ! いい加減いつまでも引きこもっているんじゃない!」
父親の怒声が部屋の窓を揺らす。
宮廷付きになってからも早期に休み、引きこもり。
錬金術師の名家の者が、仕事も満足に出来ずに休み続けている。
それだけでも十分に不信感を抱かれるのに、罪人となったカイウスとの関係も重なれば、周囲から疑いの視線を向けられるのは必然。
「こんなことならアメリアを残して……くそっ、早く準備するんだ」
「はい……」
泣きそうになっても慰めてはくれない。
厳しい言葉ばかりが飛び交う。
自業自得、本末転倒。
彼女に、いや彼女たちに相応しい言葉はたくさんあるだろう。
第三章開始です!
新キャラも登場予定なので、ぜひお楽しみに!
投稿ペースは週2~3と落ちますが、三章終了まではこのペースを保ちます。
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします!!






