表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/109

51.愚か者たちの末路

 王城。

 辺境領地からの一報を聞きつけ、王国騎士団が派遣された。

 騎士たち十数名の護衛の元、罪人が王都へ輸送される。

 罪人は全部で二十六名。

 うち二十五名は近年王国各地で精力的に活動していた野盗集団。

 残る一人は、王国に属する公爵家の嫡男である。


「っ、離せ貴様ら! 私を誰だと思っているんだ!」

「暴れないでください。今の貴方は貴族ではなく、国に仇なす罪人として呼ばれているのです。発言や行動は慎むように」

「くっ……」


 両腕を背中で拘束されたカイウスが、王座の間に連行されていく。

 周囲には武装した騎士四名が並んで歩く。

 拘束されたカイウスに逃げる術はなく、そのまま引っ張られる形で先を急ぐ。

 道中、通り過ぎる者たちからは憐れみの視線が向けられた。

 すでに噂は王城内に広がっている。

 王城の外、貴族たちに漏れるのも時間の問題だろう。

 それほど大きな事件となっていた。

 当たり前だ。

 王国を支える貴族の一人が野盗を手引きし、あまつさえ許可なく国王の名を騙ったのだから。


「さぁ入れ、陛下がお待ちだ」


 王座の間にたどり着き、重厚な扉が開かれる。

 赤いじゅうたんの先にある王座に、この国の王が座っている。

 酷く苛立ちを見せながら、今にも襲い掛かりそうなほど荒々しい形相で。

 カイウスは国王と目を合わせ戦慄する。

 彼は王都でも有数の名家出身。

 いずれ当主となることも決まっており、その関係上国王との謁見は何度もしている。

 王座の間に入るのも初めてではなかった。

 だがそれは、彼にとって初めての光景だったのだ。


「カイウス」


 名を呼ばれた。

 低く、野太い男性の声で。

 およそ今まで耳にしていた国王の声とは違う。


「お前は、自分が何をしたのかわかっているのか?」

「へ、陛下……」


 カイウスは否定するつもりでいた。

 絶望的な状況とはいえ、まだ完全に敗北したわけではない。

 貴族の立場を利用すれば乗り切れると、浅い頭で考えていた。

 しかし、そんな甘さは吹き飛んでしまう。

 目の前の威圧感が、嘘を許してくれないから。


「すでに噂は王城内から出ようとしている。もはや止められない。この意味がわかるか? お前の行いが広まれば、民衆はどう思うのか」

「そ、それは……」

「答えられないか? ならば代わりに言おう。王国に属する貴族が野盗と繋がり、王の名を不当に扱う。そんな人間が貴族なのだと、国を支える人間なのだと。もうわかるだろう? お前の愚かな行い一つで、我々への反感が強まるのだ! お前一人の行いで!」

「っ、も、申し訳ございません」


 咄嗟に頭を下げるカイウス。

 謝罪する気など一切なかった彼が謝った。

 それほどの圧と怒声に、身体が無意識に動いてしまったのだ。

 ただし、この謝罪が国王の怒りをさらに掻き立ててしまう。


「今さら謝罪してどうなる? こうなることはお前が一番よくわかっていただろう! なぜこんなことをしたのだ!」

「そ、それは……」


 自分のためだ。

 カイウスは最初から、己のためだけに行動していた。

 とても狭い視野で、見通しの立たない未来を見据えて。

 故に理解できなかった。

 理想が崩れ落ちた先で待っているのが、自身の破滅であるということを。

 言葉を返せないカイウスに国王は呆れ、特大のため息をこぼす。

 

「はぁ……もう良い。お前に聞くことなど何もない。現時点をもって貴族の地位を剥奪し、国外へと永久追放を勧告する」

「なっ、お待ちください陛下! 私に挽回の機会を!」

「そんなものが与えられると思うな! 死罪とならないだけ幸運だと思うが良い」

「そ、そんな……私は……」


 もはや意見する意味もなく、カイウスは崩れ落ちる。

 瞳から流れる涙が床を濡らす。

 今さら後悔したところで手遅れだというのに。

 どれだけ涙を流そうと、そんな汚れた涙では誰も同情しない。


 その後すぐ、カイウスは王城を追い出され、拘束されたまま国外へと輸送された。

 罪の責任はカイウス一人では留まらない。

 彼が属するファウスト公爵家も、嫡男が犯した重罪の責を負う形で、貴族の地位と権力を剥奪されてしまう。

 

 そしてもう一人……いいや、より多くの者たちが責を負う。

 彼の罪は彼の責任。

 しかし、そんな彼の甘い言葉に唆された人物は多い。

 

 例えばそう。

 彼の強引な推挙で宮廷錬金術師となった者がいただろう?


  ◇◇◇


 アメリアの妹リベラ。

 姉の代わりに宮廷錬金術師となった彼女だったが、残念ながら姉の代わりは務まらなかった。

 錬金術師としての才能は持っている。

 しかし圧倒的に努力が足らず、現実を甘く見ていたのだ。

 姉に出来ることなら自分にも出来る。

 自分のほうが才能に溢れていて、誰よりも優れているのだから……と。


 その結果、一人では到底こなせない仕事量を与えられパンクしてしまった。

 現在はアルスター家の屋敷で療養中。

 そんな彼女にも、カイウスが起こした事件と末路について知らされた。


「そ、そんな……カイウス様が?」

「聞いての通りだ。我々アルスター家にも疑いの目が向けられている。特にリベラ、婚約者だった君に対して。陛下から早急に王城へ来るよう命が出ている。すぐに仕度をしなさい」

「ま、待ってくださいお父様。この件に私は無関係で――」

「だからそれを説明して来いと言っているのだ! いい加減いつまでも引きこもっているんじゃない!」


 父親の怒声が部屋の窓を揺らす。

 宮廷付きになってからも早期に休み、引きこもり。

 錬金術師の名家の者が、仕事も満足に出来ずに休み続けている。

 それだけでも十分に不信感を抱かれるのに、罪人となったカイウスとの関係も重なれば、周囲から疑いの視線を向けられるのは必然。


「こんなことならアメリアを残して……くそっ、早く準備するんだ」

「はい……」


 泣きそうになっても慰めてはくれない。

 厳しい言葉ばかりが飛び交う。

 自業自得、本末転倒。

 彼女に、いや彼女たちに相応しい言葉はたくさんあるだろう。

第三章開始です!

新キャラも登場予定なので、ぜひお楽しみに!

投稿ペースは週2~3と落ちますが、三章終了まではこのペースを保ちます。


ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。

現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] 結局ブラックな労働環境はますます酷くなるだけじゃないか?アメリアに仕事を振りまくった事については全員棚に上げてるじゃん…
[一言] 「死罪とならないだけ幸運だと思うが良い」 と言いつつ、"拘束したまま"国外追放って殺す気満々 命があったと思った所で追放先に諜報員を送り込んで命を奪う…って感じかな?
[気になる点] 国家反逆罪が国外追放って随分と優しいね。 国外にコネ作っとけばこの国ではやりたい放題やなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ