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48.賢い愚か者

 些細な切っ掛け一つで、人と人は仲良くなれる。

 決して難しいことなんかじゃないのだと、シズクさんと話して感じた。

 私たちは時間を忘れて盛り上がる。

 気づけば夕日は沈み、外は暗くなっていた。


「シズクさんって結構おしゃべりなんですね」

「そう?」

「そうですよ」

「……ならそうなのかもね」


 シズクさんは柔らかな微笑みを見せる。

 クールに受け答えする彼女も嫌いじゃないけど、今のほうが自然体っぽくて好きだな。

 もう少し話していたいと思って、私は話の続きを始めようとする。

 すると、シズクさんは何かに気付いたように窓の方を見る。


「シズクさん?」

「帰ってきたみたいね」

「トーマ君たちが?」

「そう」


 二人とも、街の皆さんに説明は終わったみたいだ。

 窓の外を見ると、かすかに移動する明かりが見える。

 明かりは玄関の方に向っている。


「本当だ」

「……それじゃ、私はもう行くわ」

「え? もう行くって」

「王都への帰還命令が出てるの。欲しがってる情報が手に入ったから急ぎでね。ここに立ち寄ったのは序でだから」


 そう言って立ち上がり、徐に彼女は窓を開けた。

 

「そこから出ていくんです?」

「ええ」

「二人とも帰ってきたんだし、シュンさんにもあいさつしないんですか?」

「うっ……したいけど、それすると残りたくなっちゃうから」


 シズクさんは乙女な表情で照れている。

 彼女はシュンさんの話をしている時が一番可愛いな。

 

「報告が終わったら戻ってくる。二人にもそう伝えておいてほしい」

「わかりました。シズクさんと話せて楽しかったです」

「シズクで良い。今更だけど敬語もいらない。歳は同じだし、私もアメリアって呼ぶから」

「わかった! じゃあまたね? シズク」

「ええ」


 彼女は窓に手をかけ外に出ようとする。

 でも、途中でぴたっと動きを止める。


「あ、大事なことを言い忘れていたわ」

「大事なこと?」

「ええ。あの貴族には気を付けたほうが良いわ」

「貴族って、カイウス様のこと?」


 シズクはこくりと頷き、真剣な表情で続きを話す。


「あれはたぶん諦めてない。賢そうに見えるけど、中身は何も考えてない馬鹿なタイプだから、強引な手段をとってくることも考えられるわ」

「ば、馬鹿ってさすがに……あーでもそうかも」

「だから気を付けて。いざって時に切り抜けられる準備はしておいた方がいいわ。それじゃ」

「あ、うん! ありがと……行っちゃった」


 ふらっと現れて、気づけばいなくなっている。

 楽しくて面白い人なんだけど、やっぱりどこか不思議な雰囲気の人だな。

 次に会う時は、もう少しゆっくり話したいと思った。


 ガチャリ、と扉が開く。


「戻ったぞ、アメリア」

「お帰りなさいトーマ君。シュンさんは?」

「イルたちのところ。シズクは?」

「もう行っちゃった。大切な報告があるから王都に行くって。終わったら戻ってくるから、トーマ君たちによろしくって言ってたよ」


 私は開いた窓を指さす。


「なるほどな。仕事とはいえせわしない奴だ」

「そうだね。私ももっと話したかったなー」

「その様子だと仲良くなれたか。良かったな」

「うん。良いお友達になれそうだったよ」


 私がそう言うと、トーマ君が優しく笑う。

 シュンさんの話もしたいし、他にも話したいことはいっぱいあるよ。

 それから……


「気を付けたほうが良い……かぁ~」


 シズクが忠告してくれたし、何か対策はしておいた方が良いよね?

 何があるかなんて予想できないけど、いざという時になんとかできるように。

 私なりの方法で、錬金術師の備えを。


  ◇◇◇


 領土の西。

 森の奥にある小さな洞窟に、人工的な明かりがふわふわと浮いている。

 それは魔導具による照明。

 自然の洞窟の中に、ぞろぞろとガラの悪い男たちが入り込む。


「お呼びですか? カイウスの旦那」

「名を呼ぶな下衆共が」

「そう言わないでくださいよ~ 俺たちはあんたに雇われてるんですぜぇ~」

「ふんっ、私とて本当は貴様らなんぞと手を組みたくはなかった。だが……アメリアめ」


 ぐっと力強く歯を噛みしめる。

 誘いを拒否したアメリアと、彼女の味方をしたトーマたち。

 カイウスの予定では、なんの障害もなくアメリアを回収できるはずだった。

 その目的は一切達成されず、逆に弱みを握られてしまう始末。

 何もかもが上手くいっていない。

 ここに至るまで様々な予想外を経て苛立ちを抱えていたカイウスは、とうとう限界を超えてしまう。


「あの女を攫ってここに連れてくるんだ。余計な騒ぎは立てずにだ」

「了解しやした。でもいいんですかい? 一応あそこは辺境伯の屋敷ですぜ」

「構うものか。私が関与した証拠さえ残さなければ良い。アメリアさえ手中に収めてしまえば良いのだ。そのために高い買い物もしたのだからな」


 彼の手には紫色をしたポーションが握られている。

 ポーションの効果は色によって判断できる。

 紫の効果は負。

 飲んだ者に悪い作用をもたらす。

 王都でも作成されている種類だが、その一部は罪人への拷問に使われている。


「覚悟しておけよアメリア。私の誘いを断ったこと……必ず後悔させてやろう」


 下衆な笑みを浮かべるカイウス。

 彼の賢さは、そのまま愚かさと同義である。

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