表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/109

46.諜報員さん

「今の発言……明らかに私を脅しているように聞こえますが?」

「そうでしょうか? 貴方が先に使った言葉を真似ただけなのですが」

「っ……」

「それでどうしますか? いえ違いますね。何をしに来られたのでしょうか?」


 トーマ君は最初の質問へ戻る。

 文字通り、彼の脅し。

 王家に伝達されたくなければ、今までの話や要求をなかったことにすれば良い。

 繰り返すのであれば報告するだけだ。

 カイウス様は自信満々に発言力の話をされていたけど、その立場も今は逆転している。

 すでに勝敗は決していた。


「……いえ、ただ挨拶を。本日はこれで失礼します」

「そうですか。では、お気をつけて」


 トーマ君はニコリと微笑む。

 私から見れば真っすぐで良い笑顔だけど、カイウス様には癪に障ったのだろう。

 あきらかに苛立って、眉をヒクつかせた。

 しかし文句など何も言えず、トーマ君とシズクさんを交互に睨んで馬車の中へと戻っていく。

 私たちは黙って、馬車の姿が見えなくなるのを待った。


 馬車が完全に見えなくなる。


「「はぁ~」」


 と同時に、私とトーマ君は盛大にため息をこぼした。

 緊張が解れた証拠だ。

 私たちは互いに目を合わせ、力を抜いて笑い合う。

 そこへシュンさんが声をかけてくる。


「途中ヒヤヒヤしたが何とか乗り切ったな。お疲れ様、二人とも」

「まったくな。正直きつかったよ」

「ごめんなさい。私がここに来たせいで迷惑をかけてしまって……」

「アメリアのせいじゃないよ。悪いのは完全にあっちだし、君を勧誘したのは俺だからな? 責任云々で言えば領主である俺にある。君が気に病むことじゃないよ」


 トーマ君は優しいからそう言ってくれるだろう。

 今回は相手が悪かった……二重の意味で。

 それでも多少、いやかなり申し訳ない気持ちは残る。


「そう落ち込むなって。良い感じ、かどうかは何とも言えないが、とりあえず収まったんだし。ほとんどシズクのお陰なんだがな」

「うん。あの、シズクさん! ありがとうございました!」


 私が勢いよく頭を下げると、彼女は淡々と手を横に振って答える。


「礼には及ばない。私は私の仕事をしただけだから」

「本当に助かったよ。シズクが来てなかったら、ここまで優位に話を進められなかった」

「どういたしまして」

「俺からも礼を言わせてくれ。良いタイミングで戻ってきてくれたな、シズク」

「シュンさん! は、はい。お役に立てて光栄です!」


 おや?

 なんだか反応がおかしいような?

 私やトーマ君と話すときは無感情という感じなのに、シュンさんと顔を合わせる時は活き活きとしているような……

 目がキラキラしている気が?


「今回も隣国の調査だったか? 仕事とは言え各地を飛び回るのは疲れただろ?」

「そんなことないです。私が選んだ仕事ですから」

「シズクは真面目だな」


 褒められて見せる笑顔には、単に嬉しい以外の感情も感じられて。

 もしかして……


「ね、ねぇトーマ君」

「ん?」


 私はヒソヒソ声でトーマ君に尋ねる。


「シズクさんってその、シュンさんのこと……」

「やっぱりわかりやすいよな?」

「あ、じゃあそうなんだ」

「ああ。シュンは鈍感だから気付いてなさそうだけど」


 やれやれと首を振るトーマ君と、楽しそうに話す二人を眺める。

 シズクさんのシュンさんを見つめる視線の熱さは、端から見ても明らかなのに。

 あれで気付かないんだね。


「おっ、そうだトーマ。シズクの紹介をしてあげたほうがいいんじゃないか?」

「そうだな。アメリア、時々話題にはなっていたと思う。彼女がシズク、王家の命で世界各地を飛び回ってる諜報員だ」

「初めまして! 錬金術師のアメリアです。よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 返事は一言だけだった。

 この人はシュンさん以外には不愛想なのかな?

 それにしても変わった服装……

 王都でも見たことのない形式だし、首に巻いたマフラーが一番気になる。

 こんなに外が暑いのに平気なのかな?

 よく見ると涼しい顔をして汗一つかいていない。

 不思議な雰囲気の人だなぁ。


「さてと、とりあえず乗り切ったはいいが……」

「ああ、街の住人たちは不安がっているだろうな。何せこの領地に王都から貴族が来るなんて早々ないことだ。何かトラブルが起こったんじゃないかと疑う者もいるだろう」

「だな。噂が広がって騒ぎになる前に、俺たちで説明に行こう。シュン、悪いが同行を頼めるか?」

「もちろん」


 トーマ君とシュンさんは二人で話を進めて、街の人たちに事情を説明しに行くことに。

 私の所為なんだし、私も同行すると提案したいけど……


「俺たちだけの方が説明しやすい。悪いがアメリアは屋敷にいてくれ」

「わかったよ。ごめんね、トーマ君」

「気にするなって。シズクには俺たちがいない間、屋敷と彼女のことを頼めるか?」

「良いよ」

「助かるよ。それじゃ行ってくる」


 手を振り、トーマ君とシュンさんは街の方へ歩いていく。

 気にするな、なんて簡単に言うけど、どうしたって気にするよ。

 私がいなければ、カイウス様がこの地を訪れることはなかったんだから。


「また迷惑かけちゃったな……」


 ぼそりと呟く。

 自分にしか聞こえないと思う声量で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
 報告すればいいんじゃね。
[良い点] カイウスがひっこんだ [気になる点] カイウスこれで終わりだろうか? [一言] カイウスをとことんやっつけて欲しい‼️
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ