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4.まさかの領主様!?

 ガタン、ゴロゴロゴロゴロ――

 車輪が荒い地面を走る音と共に、時折揺れる馬車の窓から外を覗く。

 木々に覆われた大自然、一面の緑。

 王都やシーベルからも遠く離れた辺境の土地に、私はトーマお兄ちゃんと一緒にやってきた。


「移動に時間がかかって悪いな。こんな場所だから、馬車でもかなり時間がかかるんだよ」

「ううん。それより驚いたよ。お兄ちゃんが領主様になってるなんて」

「はははっ、俺も自分で驚いたよ。人生何が起こるかわからないな」


 彼はあっけらかんと笑う。

 フランロード家、それが彼を引き取った辺境貴族の名前らしい。

 私が貴族の一員となったように、彼も知らぬ間に貴族となっていたそうだ。

 引き取られた理由もほぼ同じ。

 跡取りがなく困っていて、養子を探していたという。

 交流がなくなったのも、彼を引き取った家が辺境の領主様だったから。

 遠すぎて手紙を送るにも手段がなく、日々の忙しさもあって断念したと語ってくれた。


「本当はもっと早くに挨拶しに行こうと思ったんだけどさ。君が宮廷付きに選ばれたと知って、自分も負けてられないって思ったんだ。次に会う時は堂々と、自慢話でもできるようにして会いたいってね」

「ふふっ、お兄ちゃんは相変わらず意地っ張りだね」

「これでも大人になったぞ? 見ての通り背も伸びたしな」

「うん。なんだか男の人って感じがする」


 実際に会っていた頃から五年。

 たかが五年で、人はこんなにも成長するのか。

 

「私も大きくなったでしょ?」

「ああ。綺麗になったな」

「え、あ、うん……ありがと」

「なにを照れてるんだよ」


 だってそんな臆面もなく綺麗とか言うから……

 お兄ちゃんは昔から素直に思ったことを口にするタイプだったけど、そこは変わっていないみたいだ。

 ある意味でホッとする。

 変わっていても、彼は彼のままなんだなと。


「でも本当に良いの? 私がいきなり来たら家の人も困るんじゃ……」

「心配ない。今の領主は俺だからな。実は去年、俺を引き取ってくれた……義父さんが亡くなったんだ」

「あ……ご、ごめんなさい」

「謝らなくて良い。病気だったけど、ちゃんと最後は見届けられた。後のことは任せるって言われたんだよ、その時にさ。だから俺の手で領地を守る。そのために今も色々やってる」


 道中に教えてくれた。

 彼が就いた領地は、一言でいうなら不遇。

 大きな街から遠く離れ、山と森で隔離された場所に位置している。

 四季よりも激しい環境の変化も相まって、土地はあっても活用が難しい状況とか。

 領地の人々は生活の中で様々な苦労を抱えていた。

 前領主はなんとか良い環境を造ろうと尽力していたそうだが、貴族と言えど辺境の出では発言力がなく、王都に支援を申し出ても断られていた。


「じゃあお兄ちゃんがあの街にいたのも支援を求めて?」

「まぁな。協力してくれる人材の確保と、食料とかもろもろ。うちは医者もいないから、薬を調達しなくちゃいけなくて。とにかく色々足りてない。そんな時、アメリアと再会した。こんな言い方はキザだけどさ。運命だって思うよ」

「運命……」

「アメリアの才能は知っているし、努力家だってことも。話を聞いて、すっごい頑張ってたんだなってわかるよ」


 お兄ちゃんはそう言ってくれる。

 私が頑張っていたと、話を聞いただけで疑いもせず。

 真っすぐに見てもらえることが恥ずかしくて、私は目を逸らす。


「迷惑だったか?」

「そんなことないよ! 嫌だったら今もこうしてないよ」

「なら良い。不甲斐ない話だけど、俺一人じゃ義父さんの理想は叶えられそうにない。だから頼む。君の力を貸してほしい」

「……うん。私で良ければ」


 行く宛もなく彷徨っていた私に手を差し伸べてくれた。

 その手の温かさも、笑顔が本物だとも知っている。

 彼なら信じられる。

 信じても良いと思えるから、ようやく一歩を踏み出せた。


「私頑張るね! トーマお兄ちゃん」

「おう。あ、でもそろそろさ? そのお兄ちゃんっていうのは止めてくれ。成人を越えてそう呼ばれるとこう……なんか恥ずかしい」

「そう? 私は抵抗ないけど……じゃあトーマ様?」

「様はもっとない! 呼び捨てで良いよ」

「うーん、それもなんだが違うような。あっ! じゃあトーマ君で!」


 こっちのほうがしっくりくる。

 領主様だと知った今も、彼とは昔みたいに自然体で話したい。

 彼も畏まることは望んでいないようだし、できるだけ気楽に、友人のように。


「それで良いよ。もうすぐ着くけど、到着前に軽く仕事の説明だけしておくぞ?」

「うん。お願いします」

「内容はたぶん王都でやってたことに近いな。ポーションを作ったり考案したり。錬金術で解決できそうな案件をお願いすると思う」

「任せて! 仕事の速さには自信あるから」


 これでも五年間、無茶な仕事量を熟してきた実績がある。

 仕事の速さと効率の良さは誰にも負けないぞ。


「頼もしいよ。あーでも無理はするなよ? 倒れられても困るし、三日に一度は最低でも休みを取れ。あと一日の労働時間も八時間以内で収めること。どうしても足りない時は相談してくれ」

「え……休んで良いの?」

「当たり前だろ? 休まずどうやって仕事するんだ?」

「休んだら仕事が終わらないよ?」

「そんな仕事量はありえないんだよ。宮廷と同じなんて思うなよ? 俺が無理してるって思ったら、無理やりにでも休ませるからな?」


 本当に……

 休んで良いの?

 仕事の合間に決まった休みがあるとか奇跡だよ?

 しかも一日八時間だけ働けばいいなんて。

 

「……天国だ」

「そんなことで至福の顔されても。君はあれだな。しばらく普通の環境に慣れたほうがよさそうだ」


 やれやれとトーマ君は呆れる。

 彼が提示してくれた条件、それは私にとって夢のような内容だ。

 働くこと最優先で、それ以外は捨てる覚悟で毎日を過ごす。

 当たり前みたいに繰り返してきたことの異常さを、これから思い知ることになりそうだ。


 期待してもいいのかな?

 これからの日々を、楽しく過ごせるかもって。

 良いのかもしれない。

 だってそれが、普通のことなんだから。


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