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39.夏を飾る氷の花

 青い花、イモータルフラワー。

 クリスタルバレーの山頂で採取し、無事屋敷へ帰還した私たちは、一日休養をとって明日に備える。

 本当はすぐに始めたかったのだけど、トーマ君に止められた。

 ちゃんと休んでから仕事をしろ、と。

 どうせ休めとか言われるんだろうと思っていたから、やっぱりそうだよねと笑って返した。


 翌日――


 早朝、相変わらずの暑さに目が覚めて、普段より三十分早く仕事を始める。

 それを予想していたように、トーマ君とイルちゃんも同じ時間に起きて準備をしてくれていた。

 昨日採取したイモータルフラワーは種にして、念のためトーマ君の魔法で氷漬けにした状態で保管してある。

 地下の比較的涼しい場所で保管していても、朝とり出したらほとんど氷は溶けていた。

 錬金術で氷だけ取り除くつもりだったけど、普通に砕けて取り出せそうだ。


「トーマ君、氷を出してもらっても良い? 出来るだけたくさん」

「了解した」

「あたしは何すれば良いの?」

「イルちゃんは薬草とハーブを今から言う分量に分けて用意してほしいな」

「はーい!」


 二人が準備してくれている間に、私のほうで錬成陣を書き上げる。

 これまで試作した錬成陣の一部を採用して、新たに項目を付け加えよう。

 イモータルフラワーが半植物、半鉱物状態で助かった。

 鉱物と植物、異なる性質の物質同士の錬成は難しいし失敗しやすい。

 一番の難所をすでにクリアしてくれているお陰で、その先の工程がスムーズに進められる。


 材料の主は氷。

 冷気を放ち、周囲を冷やすために必要不可欠。

 そこに加えるのは体温を下げる効果をもつ薬草数種と、薬草の効果を延長するハーブ。

 さらにこれを永続化するための核が、イモータルフラワーの種。


「ねぇトーマ君、大きさなんだけど、あんまり大きすぎないほうがいいよね?」

「ああ。出来れば持ち運べるサイズだと助かるよ。なんせこの環境だろ? 夏以外じゃ使わないし、一年中家の中で保管は厳しいからな」

「そうだよね。持ち運べないと移動できないし……あ、保管場所なんだけどね? 私のほうでちょっと考えてることがあるんだ」

「ほう。どんな感じだ?」


 興味を示してくれたトーマ君に説明する。

 山頂で採取したイモータルフラワーの種のうち、一部は栽培用に残そうと思っている。

 ただ、山頂の環境で育っていたものを、ここで育てられるかは微妙なところだ。

 そこで今から作る新物質を用いて、寒さを一定以上に保てる環境を整える場所を思いついた。


「場所はもう聞いてあるんだ。街の外れに使ってない古い三階建ての建物があるらしいんだけど、そこを上手く改修して栽培できないかなって」

「なるほどな。良い案だと思う。こっちで改修の手配をしておくよ」

「ありがとう!」

「こちらこそだ。領民の暮らしを支える物だしな。期待してる」

「うん」


 トーマ君が期待してくれている。

 彼だけじゃなくて、この領地に住む大勢の人が笑顔になる。

 そんな未来を想像して、思わず手に力が入る。


「錬成を始めるよ。イルちゃん、素材を教えた通りに配置してもらって良い?」

「まかせてー」


 イルちゃんが錬成陣の上に素材を置いていく。

 中心には核となる種、薬草とハーブを種を囲うように置き、最後に上から氷をどばーっと出来るだけ多くかける。


「準備完了!」

「ありがとう。それじゃ始めよう……」


 山盛りになった氷を見つめる。

 私は錬成する物のイメージを頭で思い浮かべた。


「どうしたアメリア? 何か問題でもあったか?」

「ううん、そうじゃないんだけど」


 私がイメージしていたのは丸い水晶の形状だった。

 両手で持てる程度の大きさで、家に一つあれば家の中を涼しく保つ。

 素材は揃っているし、完成形の効果もしっかりイメージ出来ている。

 ただ何となく、元になったイモータルフラワーを思い浮かべた。

 あの透き通るような青と、空の青、雪の白さが織りなす美しさに目を引かれた。

 

「そっか、見た目も大事だよね」

「見た目?」

「ちょっと思いついただけだよ。せっかく作るなら綺麗じゃないと」


 そう思うと楽しくなる。

 私は自然に笑顔になって、錬成を始めた。


  ◇◇◇


 朝。

 この季節は寝苦しく、起きたら汗だく。

 なんて日々はもうおしまいだ。


「う、うーん……はぁ」


 時計を見る。

 久々にいつも通りの時間に目が覚めた。

 お陰で身体のダルさもないし、伸び伸びと起き上がれる。

 着替えてから廊下に出ると、ばったりトーマ君と出くわした。


「おはようアメリア」

「おはよう、トーマ君」

「その様子だとよく眠れたようだね」

「うんばっちり! ちゃんと効果が出てて安心したよ」


 話しながら廊下の壁に視線を向ける。

 綺麗に掃除された細いテーブルの上に、青く綺麗な花が飾られていた。


「まさか花の形にしちゃうとはな」

「綺麗でしょ?」

「ああ。領地のみんなも喜んでいたよ。もちろん俺やイルたちもな」

「ふふっ、それはそれは良かったです」


 名前は――スノーフラワー。

 絶景の頂に咲く永遠の花をモチーフにした溶けない氷。

 流れ出る冷気が空気を冷やし、夏の暑さを和らげる。

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