表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/109

33.クリスタルバレー

 クリスタルバレー。

 領地の北側にそびえたつ山脈。

 そのうちもっと高く険しい山を指す。


「どうしてクリスタルって名前か知ってるか?」

「ううん、理由があるの?」

「あるぞ。山の天辺、あそこが一年中吹雪が続いてるんだが、稀に晴れて雲がかかってない時があるんだ。その時に外から見ると、宝石みたいにキラキラ光って見えるんだよ」

「へぇ~ 見てみたかったな~」


 と、語りながら上を見上げる。

 山頂は雲にかくれて輪郭すら見えない。


 私たちは今、クリスタルバレーの頂上を目指して山登りの最中だ。

 話が出た二日後、準備を整えて出発して現在に至る。

 ちなみにシュンさんも参加する予定だったけど、街のほうでも熱中症で倒れる人がたくさん出てしまって、そっちの対応に勤しんでいる。

 今頃は、私の作ったポーションを配っているだろうか?

 というわけで、今回は私とトーマ君の二人だけで登山に挑む…… 


「しっかし寒いな~ 街と正反対だ」

「当たり前だろ。こっちは雪が降ってるんだからな」

「そんなん知ってるし」

「そうですか」


 ではなく、イルちゃんも同行している。

 三人とも登山用にモコモコの服を着こんでいた。

 出発時点は地獄のような暑さだったけど、山の麓にきたあたりから急激に寒くなって丁度良い。

 

「でも意外だったな。イルも参加したいって言うなんて」

「今のあたしはリア姉さんのお手伝いだからな! リア姉さんが行くならあたしも行くし! てかそうじゃなかったら、シュン兄が二人だけで行くなんて許可しなかったぞ」

「まぁそうだろうな……あいつ、自分が参加できないってわかった途端悔しそうだったな~」

「今頃シュン兄は複雑な気持ちで走り回ってると思うぞ~」


 二人とも意地悪な笑みを浮かべていた。

 本当に仲良しだな。

 素直に羨ましいと思いながら、私は雪の積もった地面を踏みしめる。

 硬い地面ばかり歩いてきた私にとって、雪の上を歩くのは不思議な感覚だった。

 踏んだ瞬間沈みこんで、足を上げようとすると雪が邪魔をする。

 単純に歩きにくいし、重い。

 ただでさえ山道は斜めで大変なのに、雪にも邪魔されたら体力が心配だ。


 最後まで登り切れるかな……


「大丈夫か? アメリア」

「え、うん。まだ全然平気だよ。二人こそ平気? 寒かったらいつでも言ってね」


 登山に備えて寒耐性ポーションを用意してきた。

 熱耐性ポーションと同じで効果は五時間くらいしか持たないけど、登山の行き帰り用に数も用意したし大丈夫だろう。

 聞いた話によると、頂上は息も凍るくらいの寒さだとか。

 想像するだけで身体がぶるっと震える。


「アメリアこそ寒いんじゃないか?」

「ううん、今のは想像して……あ、でもちょっと寒くなってきたかも」

「麓よりは寒いな。中腹に差し掛かる頃にはまた一段と寒くなるし、斜面も険しくなるぞ」

「思っていたより大変そうだね」


 二人に迷惑をかけないように頑張らないと。

 心の中で強く思う。


「だからって無茶はするな。倒れるくらいなら引き返す。休めるならちゃんと休む。いいな?」

「わかってるよ」


 トーマ君は心配性だな。

 私的には、トーマ君のほうが無茶しそうだけど。


「おーい、二人とも遅いぞ~」

「イルが速いんだよ。あんまりはしゃぐと後でばてるぞ?」

「こんくらいあたしは平気だからな!」


 そう言ってイルちゃんは雪の斜面をぴょんぴょんと跳ねる。

 寒さなんて気にしていない様子。


「イルちゃんは元気だね」

「あいつに寒さは効かないからな。そういう意味じゃ俺より元気だよ。たぶんイルにはポーションも必要ないだろうし」

「いやいやいや、さすがにそれは厳しいんじゃ」

「見てればわかるよ。ああ……寒いと身体がかじかんで節々が痛くなるな」


 逆にトーマ君がお爺さんみたいなことを言う。

 イルちゃんが子供だから体温が高いとか、だから平気だって意味で言ってるのかな?

 そうだとしても、山頂に近づくころには寒さも倍になっているだろうし。

 彼の意味深な発言にモヤモヤしつつも登山を続ける。


 山頂までは遠い。

 斜面を歩き、雪の感覚にも慣れながら進む。

 ようやく中腹にたどり着いた頃には、西の空に夕日が沈みかけていた。


「もう日が沈む。一旦この辺りで野宿だな」

「えぇ~ まぁ仕方がないか。夜は真っ暗で危ないしな」

「そうだぞ。それに、イルは元気かもしれないが……」

「はぁ……疲れた」


 二人の視線が私に向けられる。


「見ての通り、彼女は休んだほうが良いだろ?」

「リア姉さん体力ないんだな」

「うぅ……返す言葉もありません」


 仕事の大半が部屋の中で、動き回るとしても大した距離じゃないし。

 その程度の運動で体力はつかないんだとしみじみ実感する。


「でも、野宿ってここでするの?」

「いいや。この辺りに洞窟があるんだよ。そこで一夜を明かそう」

「洞窟?」

「ああ。場所は俺よりイルのほうが詳しいと思うぞ。な?」


 イルちゃん?

 私が彼女に目を向けると、なぜかムスッとされてしまう。

 私にじゃなくて、トーマ君に。


「なんでイルちゃん?」

「それはな、昔イルが家出するーって言って飛び出した先が、このクリスタルバレーだったからだよ」

「え……えぇ!?」


 家出?

 そこより家出先がここ!?


「ど、どうして?」

「そんな昔の話は良いだろ! ほら二人ともさっさと行くぞ!」

「え、ちょっ……」

「ははっ。悪いなアメリア、また後で話すよ」


 そそくさと先へ行くイルちゃんの後を二人で追う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと気になったのが『バレー』って谷の事だから違和感が まぁ山の山頂付近に谷は存在するかもだけど感じ的に山そのものや山頂を示しているようだからちょっと違うんじゃないかな?と感じた。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ