27.あるだけ氷出してくれる?
「新しい物質を作る?」
「そう! まだイメージしかないけど作れると思うの。例えば熱を吸収する鉱石とか、氷みたいに冷気を放つ鉱石とか」
「さらっと凄いこと言うよな……でもアメリアならやれるのか」
「やれる! と思う」
我ながら曖昧な返事で申し訳ないけど、作れる気がするだけで具体的な構図が浮かんでいるわけじゃない。
元々ある物質を作るわけじゃないから、どの素材を集めれば良いかも手探りだ。
まずは予測を立てて実験しないと。
「今までの研究で役立ちそうなものあるかな。あーでも全部王都に置いてきちゃったしなぁ~」
「始める前から大変そうだな。何か必要なものがあったら言ってくれよ」
「ありがとう。そうだね、適当に冷えそうな物を集めないと。無難なところだと水、氷、雪……あとは体温を下げる効果のある薬草とかかな」
他にはパッと思いつかない。
名前を挙げた中でも必須になりそうなのは、やっぱり氷か雪かな。
どっちも冷たいだけじゃなくて周囲を冷やす冷気を放つし。
それに氷は熱耐性ポーションを作る材料だから今後の必須素材だ。
ただ今は見ての通りの猛暑。
氷を手に入れるのは難しい上、保存はほぼ効かない。
王都でやっていたみたいに簡単に生成する魔導具があれば……
「あっ、その手があったわ」
私はトーマ君に熱視線を送る。
「ん? なんだ?」
「トーマ君って魔法使えるよね」
「ああ」
「氷の魔法が得意だって聞いたよ?」
「そうだな。他も使えるけど一番得意なのは氷……大体察したよ」
さすがトーマ君。
言う前に理解してくれるなんて素敵ね。
私はニコリと笑顔で言う。
「いっぱい氷がほしいの。あるだけ出して」
「……そのセリフだと金を奪いに来た野盗みたいだな」
「失礼な! 別に奪おうとしてないよ! ちゃんとお願いしてるし!」
「はいはいわかった。今すぐほしいのか?」
やれやれ顔でトーマ君が尋ねてきた。
私は首を横に振り答える。
「ううん、まだ後で良いよ。先に必要な素材だけ揃えちゃってからにしたいの。氷はすぐ溶けちゃうでしょ?」
「それもそうだな。他の素材は倉庫にあるのか? 取りに行くなら手伝うぞ」
「良いの? だったら一緒に森へ行ってくれると嬉しいな。いくつか採取したい薬草があるの」
「わかった。準備するから少し待っててくれ」
トーマ君と森へ行く約束をしてから一時的に別れて、私は書斎で資料を読み漁っていた。
森へ入るのは涼しくなる夕方ごろにする予定だ。
それまでに新しい物質を作るために役立ちそうな素材はないか調べる。
錬金術は素材への理解が不可欠。
だから王都で学べる知識は全て頭に叩き込んだけど、ここに来て意外とまだ知らない物が多いことに気付かされた。
王都で身に付く知識は所詮、王都で使えるものが優先されるから。
特に古い書物は新しく書き直され、一部が解釈違いを起こしていたり、書き直した作者が不必要と感じた情報が削られていたり。
この屋敷の書斎には古い書物が古いまま保管されているから、王都で学べない知識を身に付けられる。
調べる中でいくつか気になる情報を手に入れ、あっという間に時間が過ぎた。
◇◇◇
夕刻。
太陽が濃いオレンジ色に輝きだすと、少しずつ暑さが和らいでいく。
そうは言っても汗が出る程度には暑いけど。
「随分マシにはなったね」
「だな。夜は比較的まだ過ごしやすいよ。それでも寝苦しさは感じるんだけどな」
「そうなんだよね~ 昨日もあんまり寝れなかったし、起きたらベッドが汗で濡れてたよ」
「今の時期はそれがずっとだ。改善出来たらみんなも喜ぶだろうな」
歩きながら領民のことを心配するトーマ君。
私が寝苦しい、熱いと感じることを、ここ住む人たちは生まれた時からずっと体験していたわけだ。
多少は慣れるのだろうけど、だからと言って過ごしやすくなるわけじゃない。
それは強風の時にも体感した。
みんな安心で便利な生活を求めている。
私はその願いを現実にしたい。
強風の問題を解決した時みたいに、錬金術師のやり方で領地に貢献するんだ。
私はぐっと握りこぶしを作る。
「気合入ってるな」
「当然! 解決すればみんなも喜ぶし、私も嬉しいしね! 暑いのが苦手だって初めて知ったよ」
「はははっ、ある意味良い経験になったな」
「そうかも。ここ来て今まで気づかなかったこともわかったしね」
働きすぎていろいろと考え方がおかしくなってるとか……
仕事をしていないと落ち着かないって、普通に考えたらおかしいよね?
おかしいって思えるようになった私は成長してるよ。
「ちなみに聞いてなかったんだが、薬草はどのくらい必要なんだ? 今回は夕方スタートだし時間もそこまでないぞ? 籠もいらないって言ってたけど」
「そこは大丈夫だよ。この間は急いで欲しかったし集めて回ったけど、今回は今すぐどうこうするわけじゃないでしょ? だからある程度集めて、研究室で栽培しようかなって思ってるの」
「栽培?」
「うん。いずれは薬草園も作りたいよね。毎回取りに行くのも大変だしさ」
自分専用の薬草園にはちょっとした憧れもある。
必要な薬草を自分で育てるのも楽しそう。
なんだか考えるだけで夢が広がるよ。






