26.暑さに負けるな!
第二章スタートです!
季節の巡りが早いと感じたことはある?
ついこの間寒さが和らいで温かくなってきたと思ったら、いつの間にか汗が出るくらい暑くなったり。
その年々によって異なる変化に身体が驚くこともあると思う。
ただ、これは異常すぎる……
「あ、暑い……」
おかしい。
なんでこんなに暑いの?
一昨日まで日差しが気持ちいとか思ってたのに、今は日差しを浴びると肌が痛い。
研究室の中が蒸し風呂状態で、全身から汗がダラダラ流れる。
水分を取らないと脱水で倒れてしまうそうだ。
間違いなく季節が移り替わった。
春から夏へ、それも一瞬かつ急激に。
「あ、ありえない……」
「実感したか? うちの領地の恐ろしさを」
「トーマ君……」
そんなところにトーマ君がやってきた。
散らかった研究室を右から左へ見渡して、おかしなものを見たように笑う。
「溶けそうだな」
「仕方ないでしょ……こんな暑さ体験したことないんだから」
「はっはっはっ、そりゃそうか。王都じゃ季節の変化もほとんどないもんな。あっちで慣れてるとここじゃきついぞぉ~」
「実感してるよ……今ね」
本当にもう、身体が拒否反応を示すくらい怠い。
夏の暑さを鬱陶しく感じたのは初めてだし、仕事していてもこんなに汗はかかないよ。
「トーマ君は平気なの?」
「ん? この汗を見て平気に見えるか?」
彼も額からダラダラと汗を流していた。
どう見ても大丈夫じゃなさそう。
我慢しているのがわかってしまう。
「はぁ……他のみんなは?」
「それぞれ仕事中」
「凄いなぁ……私もう無理かも」
「アメリアがそんなこと言うなんて珍しいな。まぁ気持ちはわかる。俺もこっち来たばかりで初めての夏はそんな感じだった」
トーマ君は昔を思い出したのか、苦笑いをしながらそう言った。
この暑さに慣れてなくて普段通りとか無理です。
散々働き過ぎとか言われたけど、この暑さには勝てません。
「街のみんなもダウンしてるだろうな~ 季節の移り変わりはどうしても身体が付いて行かない人もいる。特に歳をとると如実に差がでるっぽいな」
「年なんて関係なくこんなに変わったら駄目になるよ。この間まで嵐と戦ってたのに、それが急に暑さに変わっちゃうんだもん」
「その代わり、夏の時期は嵐もないぞ? 大雨が時々くるくらいだ」
「それでもきついから……」
嵐の対策が終わったと思ったら、それとは別の猛威が来る?
この領地は人が住むには適してなさすぎるよ。
歴史を聞く限り私たち人間が争った結果だから、自業自得ではあるんだけど……
「こんなに暑いんじゃ仕事にならないよね」
「そうなんだよ。夏の問題として、暑さの所為で仕事効率が大幅に落ちるんだよ。特に外で働く人たちにとっては致命的だ。これだけ暑いと慣れる慣れないの問題以前に、身体がもたなくて倒れるからな」
「そうだよね……部屋の中だからまだなんとか耐えられるけど、これを日の下で耐えろとか……」
控えめに言って地獄だ。
お肌が焼けちゃうーとか女の子らしいことを言える程度を振り切っている。
「服がもう汗だくだよ」
「それは仕方ないって。なるべく薄着にするくらいしか対策できないぞ」
「だね。もういっそ水着のほうが……」
「そ、それは勘弁してくれ。俺が困るから」
トーマ君は顔を赤くしてそっぽを向く。
冗談のつもりで言ったのに、何やら面白い反応をしてくれた。
大人になったみたいだけど、彼も男の子なんだね。
「でも何か対策はほしいよね。この暑さがあとひと月……しかも三回に分かれてくるんでしょ?」
「ああ、そういうこと」
「やっぱり地獄だ……」
暑さを凌ぐ方法はいくつかある。
室内なら魔道具が便利だ。
冷気を一定間隔で放出する魔導具があって、夏の暑さを調整できる。
ただ問題なのが、その魔導具がとても高価で数が少ないということ。
そもそも私には魔導具は作れない。
私は錬金術師だから、錬金術師らしい解決策を考えなきゃ。
「うーん……一時的に暑さを凌ぐだけならポーションで良いんだけどな~」
「そういうポーションもあるのか?」
「うん。一時的に暑さ耐性を身に着けるポーションとか。身体を急激に冷やすポーションとかもあるよ」
「それ簡単に作れたりしないか? 一時的でも良いから暑さが凌げるのは助かるんだよ。特に仕事中とかはほしいな」
トーマ君が食いついてきた。
身を乗り上げ顔を近づけてくる。
それだけ彼も暑さに耐えていたということか。
「良いよ。でも倉庫に素材はなかったから、また取りにいかないといけないよ。それに一時的なだけだし、ポーション以外の方法も考えないと」
「ポーション以外なんて出来るのか? 魔導具とかしか浮かばないんだが」
「うーん……私にも冷気を放出する魔導具が作れたら……あっ、そっか。別に魔導具じゃなくてもいいんだ」
「お? もしかして何か閃いたか?」
「うん」
閃いた。
というかよく考えればそうだ。
錬金術で作っちゃえばいいんだよ。
空気を冷やす新しい物質を。
第二章も張り切って更新していきます!






