23.存在証明
鉄粉、岩石、粘着草、樹液、ドレイクの外皮。
錬成に必要な素材は全て揃った。
あとは容器に使う入れ物だけど、それについては嵐で散乱した材木を再利用しよう。
どうせ作成したらすぐ使うし、この際入れ物は何だって良い。
私はトーマ君たちと一緒に、街の倉庫の前に来ていた。
協力してくれた多くの人たちも集まっている。
空はとっくに太陽も沈み、代わりに月が顔を出していた。
心地良い風が吹き抜ける中、私はトーマ君に言う。
「ここに錬成陣を描くよ。素材が多すぎて移動が大変だし、一度にたくさん作ったほうが効率も良いし」
「それは別に構わないけど、今からやるつもりか? もう夜だぞ」
「ううん、錬成陣だけ先に描いておきたいの。それで明日の朝すぐに始めたいんだ。いつまた嵐が来るかわからないんでしょ?」
「ああ。下手したら明日にもありえるよ」
本当なら今すぐに錬成を始めたい所だ。
ただ、現在の時刻は午後七時。
普段なら夕食時の今、錬成しても塗る作業が始められない。
暗い時間帯にやるにはちょっと危険だからだ。
ならせめて明日の早朝から初めて、昼までには終われるようにしたい。
そう思っての提案だった。
「わかった。みんなにもそのつもりでいてもらおう」
「うん!」
私は地面に錬成陣を掘り描いていく。
白いチョークで大きく円を一つ、中に文字と記号を混ぜて錬成陣を完成させる。
作業中ずっと見られていて少し恥ずかしかった。
描き終わってしまえば、明日の朝が晴れていることを祈るばかり。
そして――
翌朝。
祈りが通じたのか、見事な快晴。
「今から錬成を始めます! 私が言った量の素材を用意してください! 設置する位置もこちらで指定します!」
倉庫前で指示を飛ばし、錬成陣に素材を配置していく。
こんなにも大掛かりな作業は私も初めてだ。
一人じゃ絶対に無理だけど、みんなが手伝ってくれる今なら出来る。
巨大錬成陣によるコーディングレイヤ錬成を。
「アメリア! ドレイクの素材は中央でいいんだよな?」
「うん!」
「リア姉さーん! 石が入りきらないんだけど積んで良いの?」
「高さは関係ないから大丈夫だよ」
慌ただしい中で声を掛け合いながら作業が進む。
全員が一丸となって作業をしている感じ。
なんだかとても……楽しいな。
やる気はもとから十分。
だけどそこへ喜びが加算されて、余計にやる気が増していく。
順調に作業は進んで、錬成陣の上に素材が揃う。
「あとはアメリア、君の仕事だよ」
「うん。見ていて」
錬金術の難易度は、錬成する物の量や価値など、様々な要因で上下する。
今回は量がとても多いから、難易度もそれだけ高くなる。
この規模の錬成陣なら、消費する魔力量も桁違いだ。
王都でこれと同じ規模でやるなら、錬金術師五人態勢とかで錬成するんじゃないかな?
だけどここに錬金術師は私一人。
私だけが出来ること。
みんなの期待に、頑張りに応えらえるのも私だけ。
なんて誇らしい。
「始めます」
膝をつき、錬成陣に両手を触れる。
錬成開始の合図は、錬成陣が白く光り輝き出すこと。
太陽の日差しにも負けない強い輝きが放たれる。
近くで見ている人たちは、その眩しさから逃げるように目を隠す。
慣れてないと眩しいよね?
でも残念。
目を隠した一瞬で、錬成は終わってしまうんだよ。
まばゆい光がふわっと消える。
目を隠した人たちが次に見た時、そこにあったのは素材ではなく、整列された木の容器。
大人の頭くらい大きな箱が、全部で千を超える。
「あっという間に……これが錬金術か」
「まさに神の御業だねぇ」
大袈裟なことを言う人たちもいた。
彼らの視線が、錬成を終えた私に向けられる。
「錬成は完了しました! 今からこれを各建物に塗っていきます!」
「おー! ついにか!」
「塗る道具はあるんじゃろうか。それと高い場所は大人の男に任せた方が良いかのう」
「やり方は今から説明します! よく聞いてください!」
私から街のみんなに、コーディングレイヤの特徴を解説した。
コーディングレイヤは半液体の状態で木箱に入っている。
しかしふたを開け空気に触れると固まり始める。
空気と接触してから約五分。
その間に建物の壁や天井に塗っていく。
「刷毛は用意してあります。刷毛も放置すると固まってしまうので、一箱使い切ったら水で洗い流してください。固まる前なら溶けて流せます。固まってしまったら流れないので、なるべく早く作業しましょう」
説明は終わり。
あとは建物に塗っていくだけだ。
街の建物は街の人たちに任せ、私たちは屋敷の壁を塗っていく。
並行して結界魔導具も、古いものは回収する。
いざという時だけ使えるようにする予定だ。
「なぁトーマ、これが実際に効果あるって光景を見せたほうが良くないか?」
「そうだな。結界を回収しても大丈夫だって思ってもらわないと……よし! 作業が終わったら一度みんなを屋敷に集めよう」
「どうするんだ?」
「実演するんだよ。この屋敷で」
実演するって?
まさかと思うけど……魔法でもぶつけるつもりなのかな?
その後作業が進み、昼前には全ての建物に塗り終わった。
予定通り領民を屋敷に集める。
トーマ君はみんなに聞こえる大声で言い放つ。
「今から効果のほどを実演で見せる! こいつが魔法で屋敷を攻撃するから、ちゃんと無事か見ていてくれ」
「な、魔法を!?」
「本気なのですか領主様!」
「大丈夫だ。うちの錬金術師は優秀だからな。そうだろ? アメリア」
勝手に話を進めて……どや顔してるし。
でもまぁ、その通りだ。
「大丈夫! 思いっきりやっちゃって!」
「だそうだ。やれシュン」
「了解。嵐を模して攻めようか! ストーンブラスト!」
シュンさんが魔法を発動。
突風によって巻き上げられた大きめの岩が屋敷を襲う。
この間の嵐より激しいくらいの衝撃が走る。
土煙が舞い、多くの人たちが不安そうに見つめる中――
「大丈夫だったでしょ?」
「だな」
屋敷は傷一つない。
それを見た人たちは、目を丸くして驚いていた。
「見ての通りだ! これで嵐で建物が被害を受けることもないぞ!」
「お、おお、おおお!」
遅れて歓声が沸く。
その全てが私に向けられた感謝だった。
この時、私は思ったんだ。
私もちゃんと、この領地の一員として認められたんだと。






