21.魔法剣士の戦い
魔法――
それは人類が有する最大にして最も未知数な力。
魔力を内に秘める者たちが、特定の言語や行動、知識を用いることで奇跡を起こす。
古くから伝わった力の一つとして受け継がれ、適応者の減少と共に希少性が上がっている。
魔法が使えるというだけで、そうでない者と明確な差が生まれるほどに。
「ん、どうしたアメリア?」
「あーうん、本当に魔法……使えたんだね」
「信じてなかったのかよ」
「いや嘘って思ってたわけじゃないよ? ただ本当かなーとか思ったり思わなかったり」
自分で言ってて矛盾に気付く。
ようするに半信半疑だったというわけで、それを自白した。
「ったく、これで少しは安心できたか?」
「うーん……まだかな」
「なんだよそれ。どうすれば安心してくれるんだ?」
「そんなの決まってるよ!」
ドレイクを倒して、無事に屋敷へ帰ること。
そうして領民も、トーマ君たちも幸せに明日を迎えること。
私が望んでいるのはそれだけだ。
トーマ君が作った氷の道を進み、滝の裏側にあった洞窟へ入る。
中はひんやりしていてほどよく湿っていた。
滝の上を流れる川の影響だろうか?
天井からポツリと雫が落ちる。
私たちはランタンの明かりを頼りに先へ進む。
「なぁシュン、この洞窟変じゃないか?」
「トーマもそう思うか?」
「ああ。さっきから直進しかないし、壁が不規則に削られた跡もある。そもそも何度か来たことあるけど、こんな洞窟知らないぞ?」
「そうなんだよな。俺が思うに、ドレイクが掘ったんじゃないか? 巣穴を作るためにさ」
ありえる話だった。
私もドレイクについて調べたけど、ドレイクは自分の巣を地面や壁に掘って作るらしい。
元からある洞窟を利用する場合もあるけど、自然の洞窟より自分で掘ったほうがシンプルで覚えやすいから?
モンスターの気持ちは知らないけど、そういう情報もあった。
入り口を隠すために滝の裏側を選んだのだろうか?
だとしたらそれなりの知能はありそう。
しばらく無言で進む。
一歩一歩進むごとに、音が響いて自分に返ってくる。
なんだか不気味だし冷ややかだ。
誰かにずっと見られているような感覚もある。
不意にシュンさんが立ち止まる。
「……いるな」
「近いか?」
「ああ。音の響き方が変わった。たぶんこの先にでかい空洞があるよ」
「そこにいるってわけか」
この先に……暗くてよく見えないけど、確かに嫌な気配はある。
ごくりと息を飲む。
来るまでに覚悟は決めていた。
それでも怖いという感情は湧いてくるみたいだ。
「アメリア」
「え、何?」
「引き返すなら今のうちだぞ?」
トーマ君は意地悪な顔で問いかけてきた。
私が怖がっているとわかったのだろう。
からかっているようにも見えて、なんだか不快だった。
「平気だよ。ちゃんと近くで見るから」
だからムキになって返事をした。
すると彼はクスリと笑い、それなら良かったと一言。
どうやら上手く乗せられたらしい。
お陰で恐怖も和らいだ。
「じゃあ行くぞ。ついたらすぐ戦闘になるかもしれない。俺の後ろから出るんじゃないぞ?」
「うん。いざって時は私も手伝うよ」
「はっはははは、頼もしいな」
「……信じてないよね」
一応これでも準備してきたからね。
私には戦う力はないけど、みんなを助ける方法はあるんだ。
そして――
私たちは奥へと進む。
数分歩いたところで、シュンさんの言う通り空洞があった。
ドレイクが掘ったのだろうか?
思った以上に広い。
私たちが走り回って十分な広さ。
「なにもいない?」
もしかして留守だった?
そんなことを思った直後、洞窟の中に風が吹く。
風向きは上から。
「トーマ上だ!」
「わかってるよ!」
シュンさんの声でトーマ君が上を見上げる。
私も遅れて視線を上へ。
するとそこには、赤い目をして獰猛さを全身から醸し出す恐ろしいモンスターが張り付いていた。
ドレイクが天井を蹴って、私たちに襲い掛かる。
「掴まれアメリア!」
「う、うん!」
私はトーマ君に抱きかかえられ、ドレイクの攻撃を躱し大きく跳び避ける。
距離を取って私を降ろすと、二人は剣を抜いた。
「そこで見ててくれ。俺たちが強いってことを」
「うん。絶対負けないでね」
「任せとけ」
「来るぞトーマ! 良い所見せたいなら俺に遅れるなよ!」
先に飛び出したのはシュンさんだった。
目にも留まらぬ速さで駆け抜け、ドレイクの左をとる。
人間にあんな速さが出せるなんて初めて知った。
シュンさんは剣を振るい、ドレイクの側腹を斬る。
ガキンッ!
金属同士がぶつかるような音が響く。
「かったいな! さすがドレイク」
「離れろシュン!」
トーマ君はドレイクの右側面に立っていた。
距離は遠く、魔法を展開している。
彼の背後には十本の氷柱が生成されていた。
「貫け! アイススピア!」
放たれる十本の氷柱がドレイクを襲う。
回避するドレイク。
しかし間に合わず、三本が身体を貫き血を流す。
剣では弾かれたが、魔法の攻撃は有効らしい。
「寒いのは苦手か? だったら温めてやるよ! フレアサークル!」
悲鳴をあげるドレイクに追い打ちをかけるように、シュンさんも魔法を発動。
炎の柱がドレイクを包み、傷口から焼け焦げる臭いがする。
そこへ追撃する二人。
剣には強化が付与され、二度目の斬撃はドレイクの硬い表皮を斬り裂く。
「凄い……」
これが魔法使いの……ううん、魔法剣士の戦いなんだ。
二人の圧倒的な強さに魅入られ感動する。
この時点で私には、二人に対する心配は薄れ切っていた。
だけどまだ、終わりではない。
もう一つの脅威が、迫ろうとしていた。