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2.むしろ助かります

「君は宮廷錬金術師に相応しくないから、その席を空けてほしいんだ。安心して良いよ? 君の代わりは、優秀なこのリベラが務めるから」

「リベラが?」

「はいお姉さま。私も宮廷錬金術師の試験に合格したのです。これでお姉さまと一緒にお仕事が出来ると思っていたのですが……とても残念です」


 そう言ってリベラは寂しがるような表情と仕草を見せる。

 わざとらしい演技だ。

 本当はそんなこと思っていないと丸わかりの。


「彼女はとても優秀だよ。試験時に数多くの新ポーションを提示してくれた。君も見るかい? きっと自分との才能の差が理解できるさ」


 カイウス様から手渡された資料に目を通す。

 リベラが試験で提示したというポーションは五種類。

 どれも新しく画期的なものばかりで、国にとっても有益なものだろう。

 だけどこれ……


「私が研究していたポーション?」

「ん? 何を言っているんだ?」

「これは全部、私が研究して作成方法を考案したものばかりです! 時間と材料が不足して完成まで進められなかったですが……」

「おやおやふざけたことを言うんだね? それじゃまるで、リベラが君の成果を横取りしたみたいじゃないか」


 哀れな妄想だな、と言われている気分になった。

 彼の態度に苛立った私は、彼らに背を向け散らかった研究資料たちを漁る。


「何をしているんだい?」

「少々お待ちください。私が嘘を言っていないことを今から証明いたします」

「証明? どうやって証明してくれるんだい?」

「――あった!」


 山のようにつまれた資料を崩しながら、過去の研究資料を取り出す。

 内容は私がリベラが提出したものと似ている。

 いいや、ほぼそのままと言っても過言じゃない。


「これを見てください」

「これは……」


 さすがのカイウス様も、これを見ればわかるはずだ。

 私が先に考案していた物を、どうやってかリベラが持ち出していたことに。

 盗み出すタイミングなんていくらでもあった。

 同じ家で暮らしているし、勉強したいからという理由で定期的にこの部屋にも訪れていたから。

 今から思い返すと、彼女一人残して部屋を出たこともある。

 きっとその時に盗み見たに違いない。

 資料に目を通したカイウス様は驚愕を露にしている。


「アメリア……」

「わかってくださいましたか?」

「ああ、よくわかったよ。やはり私の判断は正しかったようだ」

「え?」


 カイウス様は私のことを睨みつける。

 リベラにその表情を見せるのならわかる。

 どうして私に?

 理由はすぐ、彼の口から聞こえた。


「君はあろうことか妹の成果を横取りしようと考えていたんだね? 自ら証拠を出すなんて愚かにもほどがある」

「なっ、違います! 私じゃなくてリベラが――」

「もう良い。君の言い訳は腹立たしくて聞くに堪えない。婚約解消、宮廷付きからの除名、どちらの決定にも変更はない。むしろより推奨する理由ができたほどだよ」

「そ、そんな……」


 私の行動が裏目に出て、余計にカイウス様を怒らせてしまった。

 もはや私の言葉は何一つ届かないだろう。

 今日までの努力を否定され、あげく濡れ衣まで着せられて。

 落ち込み顔を伏せる。


 でも、それ以上に――


 やっと解放される、と思ったんだ。

 

 そうか、そうなんだ。

 もう私は宮廷で働かなくていいんだ。

 カイウス様の婚約者として振る舞う必要もない?

 そんなの最高じゃない?


「ありがとうございます!」

「……は?」

「カイウス様のお陰で、やっと仕事から解放されます!」

「な、何を言っているんだ? 急に開き直って……ショックで頭でもおかしくなったか?」


 困惑するカイウス様。

 隣にいるリベラもポカンと口を開けている。

 そんな反応になるのは無理もない。

 普通、婚約者を奪われて、地位まで剥奪されたら悲しむだろう。

 私だって多少はショックだし、悲しいとも思った。

 だけど、二人とも知らないんだ。

 私がこの宮廷で、どんな扱いを受けて来たのか。


 最年少で宮廷錬金術師に選ばれた。

 孤児から名門貴族の養子に迎え入れられた。

 その事実だけでも私のことを羨ましく思い、妬みや僻みを向ける人も多い。

 周囲からは期待されていたのかもしれないけど、より近い同僚たちからは、贔屓されてるとか不正をしたんだと、散々陰口を叩かれてきた。

 上司にも嫌われて、毎日毎日普通の人がこなす五倍近い仕事を押し付けられ……

 その所為で自分の研究はまったくできなくなった。

 

 カイウス様にしたってそうだ。

 彼は驚いただろう、なんて最初に言ったけど、私はずっと前から彼の浮気には気づいていた。

 その相手がリベラであることも知っていた。

 まさか婚約に至るとは思っていなくて、その点だけは素直に驚きはしたけど、以外は概ね予想通り。

 最初は優しかった彼も、仕事に追われ会う機会が減ってからそっけなくなり、最近ではほとんど話すこともなくなっていた。

 関係は冷え切っていたにも関わらず、公爵家の婚約者として正しい振る舞いは要求されて、正直かなり息苦しかったんだ。


 そのどちらも、これからは耐えなくて良い。

 全部リベラが代わってくれるそうだ。

 なんて素晴らしいことなんだ。

 成果を横取りしたのには腹が立ったけど、これからの不幸を肩代わりしてくれるということで許しても良いとさえ思える。


「カイウス様、今までありがとうございました。リベラとお幸せになってください」

「あ、ああ……」

「リベラも。これから大変だと思うけど、私の代わりに頑張ってね?」

「は、はい。もちろんですお姉さま」


 心からの言葉に二人とも唖然とする。

 悲しみで満ちていたであろう私の表情は、きっと今は解放感で溢れているはずだ。

 今日から宮廷錬金術師じゃないってことは、今日の仕事もしなくていいということ。

 テーブルに積まれ崩れた資料にも、今更目を通す必要はなくなった。


「それで、今すぐ出ていけばよろしいのでしょうか?」

「あ、いや、明日で良い。今日中に荷物をまとめて出て行きたまえ」

「わかりました」


 荷物はそんなに多くないし、一日あれば余裕で片付けられる。

 私はそれだけ聞くと、二人に頭を下げて片付けを始めた。

 しばらく二人はせっせと片付ける私を見ていたけど、いつの間にかいなくなっていた。


 それから一週間――

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