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19.吉報あり

 粘着草と並行して樹液も探す。

 こちらはそこまで探す必要はなく、よく育った木から採取できた。

 昆虫が群がっているからわかりやすいんだ。

 嵐が過ぎ去ってようやく落ち着いて食事をしていただろうに、ちょっと申し訳ないと思う。

 でも私たちものんびりはしていられない。

 いつまた大嵐がくるかわからないんだ。

 可能なら次の嵐が来る前に終わらせたい。


「アメリアそろそろ戻ろう」

「あと少し」

「駄目だ。日が落ちるとこの辺りでも危険だ。それに朝から動きっぱなしで疲れてるだろ?」

「私なら全然平気だよ?」


 一日二十時間労働とか平気でやってましたからね。

 寝る時間なんて二時間あれば十分だった時期もあったよ。

 それに比べたら今日なんて――


「ここは宮廷じゃない。無理してまで頑張り過ぎるな」

「トーマ君……」

「それと、今は一人じゃないしな? 少しは周りも見てやれ」


 トーマ君は視線を斜め下へ。

 森へ入ったのは私とトーマ君だけじゃない。

 視線の先にはイルちゃんがいて、見るからに疲れている様子だった。


「なんだよ? あたしもまだ平気だぞ!」

「無理するな。お前が一番歩き回ってるんだから、疲れて当然なんだよ」

「平気だし! あたしは主様より体力あるからな!」

「はいはいわかったよ。俺がばてたから帰ろう。シュンのほうも様子が気になるしな」


 トーマ君はイルちゃんの頭をポンポンと撫でる。

 イルちゃんなら、子ども扱いするな、とか怒りそうなのに。

 受け入れているのは本当に疲れているからだと思う。


「アメリアも、帰ろう」

「……うん」


 そうだよね。

 私一人でやってるんじゃない。

 イルちゃんのこと、トーマ君のこと、みんなのことも考えなきゃ。

 それから私自身のことも。


「アメリアは無理をするのに慣れてるよな。そういうの良くないぞ」

「あはははっ……そうみたい。自分じゃ気付かないよね」

「ならわかるまで俺が言うさ。頑張り過ぎるな。無理して働くことが美徳なんて思ってると、あっさり早死にする」

「主様もだぞ、それ」

「え……そう?」


 イルちゃんはこくりと頷く。

 どうやら私だけじゃないみたいだ。

 

「ふふっ、お互い様みたいだね」

「……そんなつもりなかったけどな」

「わっかんないなら、あたしが蹴飛ばしてあげるよ」

「勘弁してくれ」


 そんな会話をしながら帰路につく。

 沈む夕日に照らされて、私たちが付けた足跡がオレンジ色に染まる。


  ◇◇◇


 森から戻り、街でシュンさんと合流する。

 石拾いのほうは進み、私が想定した数に届きそうなほど倉庫がいっぱいになっていた。

 イルちゃんの呼びかけのお陰で、いらない鉄製品もかなり集まっている。

 しっかり計算してないから断言できないけど、このペースなら明日にでも素材が揃いそうだ。

 粘着草と樹液も今日だけで七割は採取できている。

 となると残るは……


「ドレイクの外皮だけだね」

「そうだな。屋敷に戻って報告を待とう。あいつのことだし何か掴んでるかもしれないからな」

「あいつ? シュンさん?」

「いいや俺じゃないよ。うちの諜報部員? みたいなやつさ。あんま屋敷にいないから会う機会少ないだろうけど、いつか会えるさ」


 シュンさんがそう語る諜報部員とは一体何者なんだろう?

 なんだか怖そうなイメージだ。


 その後、私たちは屋敷へと戻った。

 玄関を開けると、ロレンさんが出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ皆さま」

「ただいまロレン。特に変わりなかったか?」

「はい。先ほどシズク様が戻られました」

「早いな! ってことはもう情報を掴んだのか」


 トーマ君とロレンさんの会話に耳を傾ける。

 情報という単語が聞こえて、シズクさんという人が諜報部員なのだと悟る。

 名前からして女の人っぽい響きだ。

 最初のイメージとだいぶ違っている気がして、頭の中でムキムキの女性が浮かぶ。

 

 さすがにこれはないな……


「シズク様からこちらをお預かりしております」


 ロレンさんが白い手紙をトーマ君に渡す。

 受け取った彼はロレンさんに尋ねる。


「シズクは?」

「すぐに出発されました」

「もう行ったのか。相変わらずせわしないな。せっかくの機会だしアメリアを紹介したかったんだが……また今度にしよう」


 どうやらシズクさんは屋敷にいないらしい。

 会えるかもと期待したから、ちょっと残念な気分だ。

 ただ今は、それより優先すべきことがある。


「ねぇトーマ君、手紙にはなんて書いてあるの?」

「ん、ああ今から読むよ。えっと……なるほどな。シュン、読んでみてくれ」

「おう」


 トーマ君からシュンさんへ手紙が渡される。


「うーんと、領地北にある山脈の麓。滝の裏側に洞窟あり。奥地に目的の棲家……あいつ変わらず字が下手だな。読みづらい」

「そこは本人に言ってくれ。滝の場所は知ってるだろ? 昔遊びに行って義父さんに怒られたところだ」

「あーそんなことあったな。あの時はこっぴどく叱られて、トーマもエンエン泣いて」

「その話はしなくていい!」


 トーマ君が慌てて止める。

 惜しい。

 ちょっと興味ある話だったのに。


「おほんっ、この位置はわりと街にも近い。素材のこと抜きにしても、放置はできないよな?」

「そうだな。冒険者に依頼出すか?」

「遅すぎるよ。依頼出して到着するまで十日はかかる」

「だよな。ってことはまぁ、俺たちで何とかするって言いたいんだろ?」


 シュンさんがそう言うと、トーマ君は頷いた。


 自分たちで?

 それってまさか――


「明日の朝、ドレイクを倒しに行こう」

「……え」


 本気で言ってる?




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