17.みんなで石拾い
大嵐から三日が過ぎた。
トーマ君曰く、シュンさんの勘はよく当たるらしい。
その言葉通り、三日で嵐は治まり、外では嵐に襲われたことが嘘みたいな青空が顔を出していた。
「よーし、みんな準備はいいか? そろそろ出発するぞ」
「俺は良いぞ」
「あたしも良いよ~」
シュンさんとイルちゃんが返事をする。
二人の返事を聞いてから、トーマ君は私に問いかける。
「アメリアも良いか?」
「うん」
「じゃあ出発するぞ」
私たちは四人並んで屋敷を出発した。
向かった先は領民が暮らす街中。
嵐も過ぎて、たくさんの人たちが街の外を歩いている。
中には壊れた建物を修理する人の姿も。
「魔導具があっても多少の被害は出るんだよ。特に古い建物は壊れやすいからな」
「そうだな。建て替えるにも費用かかるし世知辛いよな」
「ちょっと二人とも! なんでそんな暗い顔して話してんのさ! リア姉さんがなんとかしてくれるって言ってるんだよ? お金のことなんて後で良いじゃん!」
「そうだな、イルの言う通りだよ」
トーマ君から期待の眼差しを向けられる。
期待されすぎも困るけど、みんなから頼りにされるのは素直に嬉しい。
応えたいと思う。
「そのためにもまず、街の大掃除だな」
「よっし! じゃ、あたしみんなの家周ってお願いしてくるよ!」
「頼むぞイル」
「ほーい! そっちもサボらないでよねっ」
最後に余計な一言を添えて、イルちゃんが街を駆けて行く。
彼女を見送ってから、今度はシュンさんにトーマ君は指示を出す。
「シュンは荷台の確保を頼むよ」
「おう。あとあれだ。保管場所の確保も必要だろ? 量を考えたら屋敷の倉庫じゃ収まらんだろうし」
「だな。街で一番でかい倉庫があっただろ? あそこに入れてもらえないか相談頼む」
「任せてくれ。終わったらすぐ合流する」
そう言ってシュンさんも歩いていく。
私はトーマ君と一緒に、街を歩いている人や外に出ている人たちに呼びかける。
ちょっと恥ずかしいけど自信を持って。
みんなに聞こえる大きな声を出す。
「すみません皆さん! 少し話を聞いていただけませんか?」
「ん? なんだ?」
「あの女の子の隣にいるの領主様じゃないか?」
「本当だ。なんだろう?」
私の声掛けに反応してくれた人たちが、次々に集まってくる。
一人二人、十人と増え続け、瞬く間に大勢の人たちが私とトーマ君を囲む。
複数の視線が私たちに向けられて、次の声を待っていた。
き、緊張する……
こんなに大勢の前で話したことないし、ちゃんと話せるかな?
そんなことを考えていると、トーマ君が私の肩をトンと軽く叩く。
視線が告げている。
大丈夫、自信を持って良いと。
声ではなく雰囲気に絆されて、少しずつ落ち着いていく。
最後に一回、大きく深呼吸をして覚悟を決め、私は集まった人たちに語り掛ける。
「皆さん集まって頂きありがとうございます! 私はアメリアと言います! つい先日からトーマく、じゃなくて領主様の元で働くことになった錬金術師です」
「錬金術師様だって?」
「この街にも錬金術師様が来てくださったのか」
ざわざわと声が広がる。
隣の人同士で話し始めて、辺りが騒がしくなる。
私の声なんて書き消えそうなくらい大きくなっていく。
そんな中――
「すまないみんな! 驚くのもわかるんだが、今は彼女の話を聞いてほしい。大事なことなんだ」
と、トーマ君が一言伝えると、話し声がピタリと止んだ。
彼の言葉に耳を傾け従い、言われた通り静かになって、私のことを真剣に見つめている。
こういう場面を見ていると、トーマ君が領主様なんだと改めて実感するよ。
「アメリア、続きを」
「あ、うん。えっと、実は皆さんにお願いしたいことがあります! 私は強風から建物を守るための素材を新しく作ろうと考えています。そのためにたくさんの石が必要なんです! これから皆さんも一緒に石を集めてくださいませんか?」
「石かぁ、石ならいっぱい転がってるぞ」
「おう丁度良いなー。強風で家の庭に石ころがたくさん飛んできてたし、掃除しなきゃって思ってたんだ」
近くから聞こえてくる声からやる気を感じる。
よくわからないけど必要なら手伝おう。
そんな声も聞こえてきて、思わず嬉しくなってしまった。
誰一人、私の言葉を疑わない。
初めましての私なんかの言葉を信用して、やる気を表情で見せてくれる。
「どこに持っていけばいいんですかー?」
「たくさんってのはどのくらい? 大きさとかも指定はないんかのう」
ついでに質問も次々にとんでくる。
私はあわあわしながらも一つずつ答えて、段取りを説明した。
そして――
「じゃあみんな! たくさん石を拾ってきてくれ!」
「「「おー!」」」
街の人たち総出での石拾いがスタートした。
話を聞いてくれた人たちから、聞きそびれた人に伝達され、家にいた人にはイルちゃんが説明しに行っている。
拾った石はシュンさんが準備した荷台に乗せ、街の倉庫へ運ばれる。
街中では石を探すために歩き回り、腰を下ろして拾う姿が広がっていた。
「嵐明けでみんなも大変なのに、当たり前みたいに手伝ってくれるんだね」
「良い人たちばかりだろ? うちの領民は」
「うん。トーマ君みたいだよ」
「俺なんて普通のことしかしてないぞ?」
君はそう言うだろうけど、みんなが快く手伝ってくれたのも、私の話を聞いてくれたのも……
きっと隣に、トーマ君がいてくれたからだよ?






