16.ずぶ濡れシュンさん
本日も張り切って更新していきます!
屋敷の倉庫を散策する。
コーディングレイヤの錬成に必要な素材は全部で五種類。
鉄粉、岩石、粘着草、樹脂、ドレイクの外皮。
「鉄粉はあるけどちょっと足りないかな。石は集めてないよね。今回は一番量がいるし、たくさん拾って来ないと。粘着草と樹脂もないけど、二つとも数は必要ないし周りが森だから採ってくればなんとか。問題はドレイクの外皮かぁ~」
岩山や洞窟などに生息するオオトカゲのモンスター。
とても凶暴で気性が荒く、肉食で獲物を見つけると問答無用で襲い掛かってくるとか。
足の速さが特徴で、馬車に平気で追い付けてしまうらしい。
モンスター退治は、王都では騎士団の仕事だった。
錬金で素材が必要な時も、騎士団に依頼して取ってきてもらっていた。
あの頃は気楽にお願いできる環境だったけど、今はそういうわけにもいかない。
「一般の人は冒険者に依頼するんだっけ? 冒険者を雇うっていくらかかるのかな? そもそもこの領地に冒険者っているの?」
ブツブツと考えながら、倉庫の中を行ったり来たり。
身体を動かしながら頭も回す。
量が必要な素材に関しては領地の中で集められそうだし、植物系素材も森で探せば見つかるだろう。
モンスターの素材だけが問題だ。
まず第一に、目当てのモンスターがどこに生息しているか調べないと。
冒険者を雇うほうが安いのか、素材を購入したほうが安いのか。
街の建物全部に使うコーディングレイヤなら、ドレイク一匹分くらい必要になるんじゃ?
「……駄目だ。考えてても次に進めない」
こういう時は素直に相談したほうが良さそうだ。
本当は自分一人でやれたら良いのだけど、規模も権限も宮廷時代とはまったく異なる。
私一人に出来ることなんてたかが知れてる。
それに今は、頼れる人が傍にいるんだから。
「トーマ君に相談しよう」
そう思った私は倉庫を後にして、トーマ君のいる執務室へ足を運んだ。
執務室は二階にある。
階段のある玄関へ行くと、ちょうど同じタイミングで玄関の扉が勢いよく開いた。
「ただいま~ あーもう疲れた」
「シュンさん!」
玄関を開けたのはシュンさんだった。
全身ずぶぬれで、彼が立っている真下の床に水たまりが出来そうなほど。
「お、アメリアちゃんじゃないか。俺がいない間に、トーマに変なことされなかったか?」
「トーマ君? 別に何も、それより大丈夫だったんですか? 外すごい荒れてて」
「平気だよこれくらい。割とよくあることだし慣れてる。まぁさすがにびしょ濡れでちょっと寒……へっくしゅん!」
シュンさんは盛大に大きなくしゃみをした。
背が高く身体が大きい大人の人のくしゃみは、声量も迫力も凄かった。
だから遠くまで声が届いたのだろう。
二階からドタバタと走り近づく足音が聞こえてきて。
「戻ったかシュン」
トーマ君が廊下を走り、階段を駆け下りてくる。
大丈夫だとか言っていた癖に、本心では心配してたのだろう。
無事に戻ってきたシュンさんを見て、ホッとしたのが私にもわかった。
「無事か?」
「見ての通り。服だけ無事じゃない」
「それくらい洗えば何とかなるだろ。街の人たちの様子は?」
「いつも通りだよ。みんな大人しく家の中にいる。不用意に出歩くやつはいない。もう慣れたもんさ」
「そうか。なら良い」
続けてホッとするトーマ君。
シュンさんだけじゃなくて、領民の皆さんのことも心配だった。
話を聞く限り、命にかかわるような被害は起こってなさそう。
とは言っても外は大荒れ。
未だに窓をガタガタ慣らすほど強風が吹き荒れている。
「今回は間が空いたし、ちょっと長く続きそうだよな。早くても三日はこのままだろ」
「三日か。最悪長引きそうなら悪いけど」
「わかってる。食料の配給だろ? それくらい喜んでやるさ。だからお前はちゃんと屋敷にいろよ? 俺がいない時に勝手に出歩くのも禁止な?」
「うっ、言われなくてもわかってる」
とか言いながらトーマ君はプイっと目を逸らす。
ああ、この感じ……今まで勝手に出歩いてたんだね。
「しっかし面倒だよなこの嵐も。結界魔導具が正常に動いてるから良いけど、また修理とかなったら大変だぞ」
「そうだな。でも、その心配は今後なくなりそうだぞ?」
「ん? それってどういう」
トーマ君が誘導するように私へ視線を向ける。
それにつれられシュンさんも私を見る。
「アメリアちゃん?」
「彼女が結界に替わるものを作ってくれるそうだよ」
「おっ! 本当かそれ!」
「はい。実はそのことでトーマ君に相談したくて」
ちょうど良い機会だ。
シュンさんにも相談に乗ってもらおう。
人の手は多い方が順調に作業を進められるだろう。
私とトーマ君は先に執務室へ。
シュンさんは濡れた服を着替えて、数分後に合流した。
三人そろってから錬成に必要な素材と量、懸念事項を説明する。
「なるほどな~ モンスターの素材もいるわけね」
「はい。領地の建物全部に使うとなると、それなりに量も必要です」
「他の素材はもっと必要なんだろ? どうする? トーマ」
「そうだな……大量に必要な石はみんなにも手伝ってもらおう。鉄粉は街から使ってない鉄製品とか集めれば足りるだろ。粘着草と樹脂は森で取れるし問題ない。モンスターは先に情報集めだな。近くにいれば行動しやすい」
トーマ君は淡々と状況を整理しながら話を進める。
一先ず今から取り掛かれることを優先して、嵐が治まるのを待つことになった。