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13.過酷過ぎる今

「四季が早いだけで、私たちの生活って簡単に変わっちゃうんだね」

「そうだな。人も動物も環境に生かされてる部分が大きんだろ。いくら進化を遂げても、がらっと環境が変わればそれまで……」

「さっき今でもって言ってたよね? じゃあ四季の変化は今も」

「ああ、一月周期で変わるよ。そこは変わってない」


 話しながらトーマ君はため息をこぼす。

 やれやれと言いたくなるのも無理はない。

 経緯はどうあれ、自分が守るべき土地が最悪なんて……彼じゃなかったら文句を言って逃げ出すと思うし。

 そうしないのは彼が強い人だからだ。

 

「でも変わってないなら、長い時間かけてこうして前の領主様も情報を残してくれてるし! 対策とかも立てやすいよね?」

「……それがそうでもないんだよね」

「え、どうして?」

「変わってないのは周期だけなんだよ」


 どういう意味?

 首をかしげる私に説明しようと、トーマ君は二冊目の本を開き、後ろの方のページを見せる。

 そのページの文章だけ異様に荒っぽく、刺々しい文体で書かれていた。

 内容を見れば、そうなってしまった理由もわかる。


「戦争のこと……」

「そう。三百年前に起こった人類史上もっとも大きな戦争だ。それはアメリアも知ってるだろ?」

「うん、習ったから」


 今の時代、どこでどう生まれようと知らない者はいない。

 三百年前、世界は荒れに荒れていた。

 領土や土地を巡って国同士が争い、最初は二つの国、その影響が外へ広がり世界中のあらゆる場所で戦争が起こった。

 戦わなければ滅ぼされる。

 だから戦うしかなかったのだと、歴史を語る中で多くの人が言い訳をする。

 間違いじゃない。

 実際その通りだったのだろう。

 だけど……


「そんな戦いに無関係のまま巻き込まれた人たちもいる。その一つが、当時この土地に暮らしていた人たちだよ」


 日誌にはこう記されていた。

 過酷な環境にも徐々に慣れ、生活の基盤も出来始め。

 村は町になり、都市になる寸前だった。

 だがそこに悲劇が襲う。

 世界中で広がる戦火に巻き込まれてしまった。

 どこの国にも属さない無関係なこの土地が、あろうことか戦場になった。


「まったく迷惑な話だよな。望んでもいないのに巻き込まれて、多くの血が流れた。大魔法で天候を、地形を操りめちゃくちゃにされて……その結果、過酷だった環境はより過酷になったんだ」


 当時は各国とも魔法使いを多く抱えていた。

 戦争の決め手は人数ではなく、魔法使いの質と魔導兵器の強さ。

 その中でも、私たちが今所属する王国は圧倒的だったらしい。

 結果的に王国が勝利して、この領土も王国が管理する土地の一つになった。

 しかし管理とは名ばかりで、特に支援はされない。

 戦争で死んでしまった土地とされ、戦後から長らく放置される。

 

「今だってほとんど放置だよ。何度も支援してほしいって話は出してるんだけど聞いてくれない。王国には俺たちがどうなろうが関係ないんだろ」

「そんな……巻き込んで領土に加えた癖に」


 無責任すぎる。

 当時の王国も、今も。

 事実を知っていくことで、徐々に王国に対する不満が湧いてくる。


「私、そんな国のために働いてたんだね……」


 無知だった自分が恥ずかしい。

 そう思ってしまう。

 私が頑張ってきた時間と成果を返してほしい。

 それを全部、トーマ君やこの領地のために使えたらどれほど……


「アメリアがそんな顔する必要ないだろ。君は君の仕事をしただけだ。それに君のお陰で助かった人たちだって大勢いるはずだよ。全員が悪いわけじゃないんだ」

「そうだけど……なんか嫌だ」

「怒ってくれてるだけで十分だよ。間違っても文句を言いに行こうとかしないでくれ?」

「うっ、さすがにそこまで大胆にはなれないよ」


 ちょっと考えた自分もいるけどね。

 思い返すほど文句の一つも言いたくなる。

 極力考えないほうがいいかな。


「話を戻すけど、戦争をきっかけに環境はさらに激化した。周期はそのままだけど、天候が著しく不安定になったんだ」

「そこなんだけど、不安定……には見えないんだよね」


 昨日も一昨日も、晴天で穏やかな陽気に包まれていた。

 大自然の新鮮な空気も美味しいし、今日だって心地良い風が吹いていた。

 とても住みにくい環境には見えない。


「ここ数日はかなり良好みたいだね。君が来てくれたから、とか思っちゃうくらいだよ」

「私はまだ何もしてないよ」

「冗談だって。でもまぁ、すぐにわかるさ。今の季節は春……この時期は建物だって吹き飛ぶくらいの強風がよくある」

「た、建物が!? 大丈夫なのそれ?」


 トーマ君は首をふる。

 大丈夫なわけないだろうと。

 彼の話によれば、王都で仕入れた特別な魔導具を使って建物を守っているそうだ。

 それを各家に配布したお陰で、建物が吹き飛ぶことはない。


「それすごく高かったんじゃ……」

「高かったよ。あれを買い揃えた時は節約しまくったし、一日二食も食べられなかったよ」

「同じ貴族と思えないよそれ」

「同じじゃーないしな。本当に名前だけだよ。それでも領主として、この土地を管理する責任がある。そのためなら何でもやるさ。犯罪とか以外ならな」


 トーマ君の言葉から固い決意が感じ取れる。

 過酷過ぎる環境の中で土地と、人々を守らなければならない。

 その意味を私はもっと理解しておく必要がありそうだ。

 そうじゃないと、まっすぐ向き合えない気がして。

 彼の話を聞きながら、私がごくりと息を飲む。


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