11.仕事をください!
四つの季節で四季。
春、夏、秋、冬……それぞれ異なる特徴をもった季節が、一定周期で繰り返される。
生物や植物たちは、周囲の環境に合わせて変化し成長してきた。
過酷な環境下でも育つように形を変え、主食を変え、考え方を変えてきた。
だけど、どんなことにも限界はあるんだ。
いくら仕事を頑張りたくても、睡眠をとらなければ人間は死んでしまうように。
自然界に生きる者たちには必ず限界が存在する。
そういう意味で私は……
「あっ、もう終わっちゃった。予定より二時間も早い……余った時間どうしよう」
他人より限界までの距離が、ちょっとだけ長い気がする。
うん、たぶんほんの少しだ。
テーブルの上には治癒ポーションがずらっと並んでいる。
昨日に引き続き、今日もトーマ君から依頼されて治癒ポーションの作成を任せられた。
倉庫にある材料を全部使っても良いから、作れるだけ作ってほしいという依頼。
本当に良いのか尋ねたけど、彼は声を大にしてこう言ったんだ。
あれだけの素材で、この量が作れるならどんどん作ってほしい。
薬よりポーションが多くあったほうが領民も安心すると思うんだ。
大丈夫。
素材はまた仕入れるから心配しないでくれ。
ということで、残りの素材を全部使って完成したポーションがテーブルの上に並んだそれだ。
昨日より開始時間が早かったせいかな?
本当はお昼ちょうどに終わる予定だったのに、全然早く終わってしまって困っている。
「サボったと思われないかな? 大丈夫かな?」
不安になる。
昨日もあの後は休んで良いと言われ、午後からはお休みだったし。
一日のうちに働いたのが三時間だけって……
何かしてないと落ち着かない。
いや、というより、仕事をしていないと落ち着かない身体になってしまったみたいだ。
トーマ君に言わせればきっとよくない感覚なのだろうけど……
「うーん……どうしよう。何か他に出来ることないかなぁ」
落ち着かないものは落ち着かない。
やる気も体力も十分あるんだ。
せっかく新天地に来たんだし、もっと役に立つことをアピールしたい。
「そうだ。トーマ君に相談しよう」
自分一人で考えていてもわからないままだ。
こういう時は領主様に聞くのが一番。
困ったらいつでも声をかけてくれ、と優しい言葉も貰っていることだし気兼ねなく聞きに行こう。
◇◇◇
「――というわけなんだけど、他にお仕事ってないかな?」
「……」
「トーマ君?」
「早すぎだろ。もう終わったのか?」
トーマ君の執務室に足を運んだ。
仕事が終わったことを説明し始めた辺りからかな?
彼の表情が驚きから呆れに変わったのは。
もしかして終わったって嘘をついてると思われてる!?
「ちゃんと言われた物は作ったよ?」
「疑ってはないよ。いやでも……」
彼は壁にかかった時計に目を向ける。
時計の針は、午前十時を少し過ぎたところを指していた。
「あれだけの量を早すぎないか?」
「昨日より一時間くらい早く作業を始めたからね」
「それにしてもだろ。量は昨日と変わらなかったのに」
「同じ作業量だもん。昨日よりも早くなって当然じゃないかな?」
同じ仕事なら繰り返せば早くなるのは当然。
人間は慣れる生き物だし、昨日に限らず今まで何度もやってきた仕事だから。
「いや当然じゃないって……それを平気でやれる君が凄いんだよ?」
「そ、そうなの? これでも宮廷だったら仕事終わりが深夜になることもあったんだけど」
「……つくづく物凄い環境で仕事してたんだな。別の意味で尊敬するよ。真似したいとは思わないけど」
「あははははっ、真似は私もお勧めしないかな」
常に仕事のことばかり考えていて、来る日も来る日も仕事。
人生の八割以上が仕事で埋め尽くされる。
楽しいかと問われれば、迷いなくこう答えるだろう。
ぜんっぜん楽しくないよ!
「まぁとにかくお疲れ様だ。出来上がったポーションを倉庫に運んだら休んで良いよ」
「え、その後は?」
「だから休んで良いって」
「嘘だよね? 昨日もいっぱいお休みしたんだよ? 今日もお休みなんてしたら私……私……」
私は振り絞るように声を出す。
「おかしくなっちゃうよ!」
「普通は逆だからな? 働きすぎておかしくなるんだぞ? というかもうなってるよ!」
「う、嘘……」
「どう考えてもなってる。仕事が早く終わったから休んで良いって言ってるのに」
そ、そんな……私はもうおかしな身体になってしまったの?
その日の仕事が終わったら、また次の仕事を始めるのが普通じゃないの?
当日のノルマだけ終わらせたら休んで良いなんて……非常識って思われないかな。
あ……たぶんこれがおかしくなってるって意味なのか。
「そ、そうだよね……お休みって喜んでいいよね」
「そうだぞ。早く休めるのも君が優秀な証拠なんだから」
「ありがとう。でも……あーやっぱり落ち着かない! せめて定時までは働かせてほしいよ! じゃないと他の人たちからサボってるって思われそうで」
「そんなこと思うやつは周りにいないと思うけどな。ま、でも気持ちはわからなくもないし……ちょっと待っててくれ」
トーマ君はそういうと、手元で処理していた資料を机の端に避けた。
そのまま椅子から立ち上がり、私のほうへ歩み寄る。
「場所を移そうか?」
「え、どこに?」
「書斎だよ。この領地のこと、詳しく教えてあげよう」