両想いな二人⑤
「もしそうなら、本当に恋をした人が昔にいたのかな」
「そうだろうな。すごいよな。一か月に一度しか会えないのに通じ合ってさ。お互いの想いを伝え合って、一緒にいるために奮闘するんだから」
「うん」
「それに比べて……俺は情けないな」
「え?」
私が彼を見つめると、照れくさそうにする横顔が見えた。
「なぁアメリア、あの日、好きだって言ってくれたこと覚えてるか?」
「――うん。忘れるはず、ないよ」
「俺もなんだ。あの日からずっとドキドキしてる。君を見るたびに、こうして話をするたびに、心臓がはち切れそうなんだ」
トーマ君は語りながら、自分の左胸に手を当てる。とても恥ずかしそうに、けれどすごくうれしそうに笑っている。
「ドキドキ……してくれていたの?」
「ああ。それを周りに悟らせたくなくてさ? いつも通りに振舞おうとしたんだ」
「そうだったんだ。てっきり私、あれは夢だったんじゃないかって」
「そんことあるか。君がくれた言葉を俺は覚えているし、俺が君を好きだって気持ちに嘘はない。信じられないなら何度でも言おう」
トーマ君は私の手を握ってくれた。力強く、離さないぞと示すように。
そうしてまっすぐ私のことを見つめながら、真剣な表情で口にする。
「アメリア、俺は君が好きだよ。大好きだ。世界で一番」
「――! わ、私も、トーマ君が好き……だよ」
こうして改めて言われると、なんだかとても恥ずかしい。
周りは静寂に包まれていて、自分たちの声しか聞こえないから余計に思うのだろう。
「ずっと考えていたんだ。あれから」
「何を?」
「アメリアの告白に応えた後のことだよ。告白は嬉しかったけど、できれば俺のほうから伝えたかったなと後悔したんだ。なんだか格好悪いだろ? ずっと好きだったのに、女の子に先を越されるのってさ」
「ずっと? 私のことを?」
「ああ」
トーマ君は優しくゆっくり頷いていた。
「小さい頃は妹みたいに思っていたけどさ。大きくなって再会して、運命みたいだって思ったんだ。成長した君は可愛くて、綺麗で、誰よりも強かった。そんな君に惹かれない理由が見つからなかったよ」
「そ、そうなんだ……」
「ああ。ずっと伝えたいと思っていた。でもお互いに忙しくて、それどころじゃなかったからな。タイミングを失っていたんだよ……」
トーマ君は小さくため息をもらす。そんなにも告白を自分からしたかったのだろうか。そう思うとすごく嬉しい。
「なぁ、アメリアはいつから俺のこと好きになってくれたんだ?」
「え、えっと……いつからかっていうのは難しいけど、気づいたのは最近」
「そうなのか? 何かきっかけてもでもあったのか?」
「うん。エドワード殿下とレイナ姫のおかげで気づけたんだと思う」
二人と出会い、自分の気持ちに気付かされた。いろいろ悩んだり苦しい時間もあったけど、今はとても感謝している。
と、思っている隣でトーマ君は複雑な表情をしていた。
「トーマ君?」
「あの二人、余計なことを言ったんじゃないだろうな?」
「そ、そんなことないよ?」
「そうか? ならいいけど……なんだか負けた気分だな」
トーマ君はさっきよりも大きく深いため息をこぼした。
よほどエドワード殿下たちに諭されたのが悔しかったのだろうか。二人に気付かされる前に私が自分の気持ちに気付いていたら……なんて、難しかっただろう。
私なんかが誰かを好きになってもいいのかと、昔の私なら思っていたはずだから。
自分に自信がなかったんだ。そんな私の背中をいつも押してくれたのは、トーマ君だったよ。
「季節の問題が一通り解決したら伝えようって思ってたんだよ」
「ああ、だからあのタイミングだったのか」
「うん。ちょうど春になって、ここしかないって思ったんだ」
「なるほどな」
トーマ君は照れくさそうに笑う。
満月の輝きに照らされたトーマ君の表情は、何かを決意したように。
「なら、その先は譲れないな」
「先って?」
「告白の先だよ。俺たちのこれからの関係に名前を付けたい。恋人同士っていうのは、もう決まりでいいと思うけど」
「こ、恋人……」
ハッキリと言われてしまうと、必要以上にドキっとしてしまう。
私たちは両想いになった。想いを伝え合った。ならば当然、私たちは恋人同士になる。あの物語の二人のように。
「嫌だったか?」
「そ、そんなことないよ! でも実感があまりなくて……あと恥ずかしくて」
「恥ずかしいのはお互い様だ。でもこれからの話は、恋人より実感がわくかもしれないな。君も王都では貴族だったのだから」
「え、それって……」
ふと予感がした。
優しいトーマ君の瞳が私のことを見つめている。私は元貴族で、トーマ君は貴族の領主様だ。
地位のある人間であれば耳にすることは珍しくない。男女の、一つの関係の名前を。
「アメリア、君を俺の婚約者にしたいんだ」
「――!」
婚約者、その言葉に私はあまりいい印象がなかった。なぜなら私は一度、手ひどい理由で婚約を破棄されたことがあるから。
今はもうただの他人で、酷い目にも合わされた人に……だから私は、その関係にあまり前向きになれなかった。
けれど……。
「……ダメか?」
「ううん、トーマ君ならいいよ。トーマ君がいい」
今はそう思える。
彼のことなら心から信じることができる。何度も私のことを助けてくれた。困った時はいつも相談に乗ってくれる。
辛い時は一緒にいてくれる。私にとって一番特別な人がトーマ君だ。そんな人となら、苦い思い出も甘く色づくだろうと。
「私、トーマ君の婚約者になりたい」
「――ああ、そう言ってくれて嬉しい」
私たちは領主と錬金術師で、幼馴染だった。ここにまた一つ、関係性の名前が追加される。いいや、この場合は二つだろうか。
恋人と、婚約者だ。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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